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朝の職員室。
キーボードの音、コピー機の稼働音、
コーヒーの香り。
一見、平和。
だが――この空間には、絶対にバレてはいけない関係が存在していた。
「おはようございます、ミユ先生」
「おはよう、コビー先生」
声の距離、完璧。
視線、合わせすぎない。
呼び方、先生。
(よし、今日も大丈夫)
ミユは心の中で頷いた。
――が。
「ミユ先生、これ音楽室の鍵」
コビーが差し出した瞬間、
指先がほんの一瞬、触れた。
「……っ」
ミユの肩がわずかに跳ねる。
「? どうかしました?」
「な、何でもないわ」
(危ない……!)
その一部始終を、
進路指導の教師が見ていた。
「……今、手、触れなかった?」
「気のせいです」
二人、同時に即答。
「息ぴったりだね」
「「偶然です」」
(しまった)
三時間目の休み時間。
職員室の端。
「……さっきは、危なかったです」
コビーが声を落として言う。
「わかってる」
ミユは書類から目を離さず、小声で返す。
「だから、距離を――」
「でも」
コビーが少しだけ身を乗り出す。
「ミユ先生、今日……」
一瞬、言葉に詰まる。
「ネクタイ、曲がってます」
「……今?」
「はい。
“教師として”気になります」
ミユはため息をつき、
さっと直す。
「これでいい?」
「……はい」
コビーは視線を逸らした。
(近い……)
そこへ。
「コビー先生?」
背後から声。
二人の背筋が凍る。
「……なんですか?」
教頭だった。
「最近、ミユ先生と仲がいいね」
沈黙。
「フランス留学、同じ時期だったそうじゃない」
ミユは一拍置いて、冷静に答える。
「ええ。
教科は違いますが、情報交換はよく」
「へえ」
教頭は意味ありげに笑う。
「若い先生同士、助け合いは大事だ」
去っていく背中。
二人は同時に、深く息を吐いた。
放課後。
誰もいない音楽室。
ドアが閉まる音と同時に、
ミユはその場にしゃがみ込んだ。
「……心臓がもたない」
「僕もです」
コビーは苦笑する。
「生徒会より、今のほうが駆け引き難しいですね」
「うん。
視線一つでアウト」
沈黙のあと、
ミユは小さく笑った。
「……でも」
「?」
「隠れてる分、ドキドキするのは……否定しない」
コビーの耳が赤くなる。
「……職員室で言わないでください」
「誰もいないし」
一歩、近づく。
「……手、繋いでいいですか?」
「今だけね」
指先が絡む。
その瞬間――
ガラッ。
「ミユ先生、楽譜の――」
先生だった。
「……」
「……」
「……あ」
三人、固まる。
ミユとコビーは、反射的に手を離す。
「……今の」
「誤解よ」
「説明できます」
数秒考え、
にやっと笑った。
「……あー」
「やっぱり」
「生徒会時代から、
そうだと思ってました」
二人同時に。
「「口止め料は払います」」
「いらないです」
肩をすくめる。
「でも」
一拍。
「職員室では……
もうちょい離れてください」
「……善処するよ」
秘密は、ほぼバレた。
けれど――
この恋は、まだ公表されない。
名門高校。
教師同士の恋は、今日もギリギリで成立している。
次にバレるのは、時間の問題かもしれない。