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呪いの言葉

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呪いの言葉

1 - 第1話

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151

2025年07月26日

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「やっぱり天才だよね、りうらって」
何度聞いたか分からないその言葉に、もう心はほとんど反応しなくなっていた。笑って受け流すのが癖になってた。

でも、心の奥の奥では、確かに何かがひび割れていた。


夜中のレコーディング。終わらない音程の確認。何百回って繰り返す発声練習。

喉を痛めても、誰にも言わない。

泣きたくなるほどできなくて、机に突っ伏した夜だってあったのに。


誰も知らない。

知ろうともしない。


「努力してるね」じゃない。

「センスあるもんな」って、まるで初めから何もかも持ってたみたいに、軽く言う。


わかってる。

褒め言葉なんだ。悪気なんてない。

でも、「天才」って言われるたび、心の中で何かが崩れる音がする。


努力してるって言ったら、きっと「そりゃ努力もしてるだろうけど、元が違うからな」って返ってくる。

もう慣れた。

でも、それでも、苦しかった。


──だから、りうらは笑う。

「ありがと」って、いつものように笑って、

そしてまた、誰もいない部屋で喉が枯れるまで歌い続ける。


その裏側を誰にも見せず、

「天才」であり続けるために、自分を削りながら。




次の日



レッスンスタジオ。

今日はダンスの振り入れ。思うように体が動かない。

喉も重い。昨日、また一晩中録り直してたせいだ。

だけど手は抜けない。抜いたら──「天才」じゃなくなってしまう。


「りうちゃん、そこもうちょいキレ欲しいかも」

初兎の何気ない一言に、りうらの手が止まった。


「……あっ、ごめん、りうちゃん、悪い意味じゃなくて」

「うん、わかってるよ」


笑って返した。でも指先が震えていた。

顔を上げた瞬間、視界が滲んだ。体がふらつく。


「ちょ、りうら!?」


ふっと膝から崩れ落ちる。床の冷たさで少しだけ意識が戻る。


「……なんで、だろ……」

ぽつりと漏れた声が、スタジオに響いた。


「りうら?無理すんなって、今日はもう――」


「違う!……違うんだよ……」


その瞬間、感情があふれ出た。


「なんで……なんで、みんな簡単に『天才』って言うの……?りうら、どんだけ必死にやってるかなんて、誰も知らないくせに……」


全員が息を飲む。泣き声なんて聞いたことのない、りうらの声だった。


「努力してるって言いたいわけじゃない。すごいって言われたいわけでもない……でも、最初からできたみたいに言われるの、ほんとに、ほんとに嫌で……!」


ないこが静かに歩み寄って、床に座り込むりうらの隣にしゃがむ。


「……ごめん。気づけんかった」


りうらは震える声でつぶやいた。


「……そんなふうに言われたくなかっただけなのに……」


「りうら。お前がどんだけ自分を追い込んでるか、ちゃんと見てなかったんは俺らのミスや。ほんまにごめん。でもな、今日ちゃんと聞けてよかったわ」


ないこの声は、いつになく優しかった。


初兎が頭を下げる。「悪かった。気づかんと、いつも軽く言ってた。ごめん」


いふが、ぽん、と背中を叩く。「お前が努力してるん、ちゃんとわかってる奴、ここにおる。だから安心せぇ」


悠佑がそっと、タオルを差し出す。「泣いてもええ。『天才』なんかより、お前がちゃんと笑っててくれるほうが、俺らは嬉しいからさ」


ほとけが優しい笑顔で

       「今まで一人でよく頑張ったね。」


りうらは顔をタオルで覆って、肩を震わせながら泣いた。

喉も、心も、張り詰めていた糸がぷつんと切れたように、壊れそうなほど静かに泣いた。


──初めて、「天才」じゃない、ただの「りうら」として、泣いた。





何もしないただの天才なんかじゃない



                 ‘’努力の天才‘’

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