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コメント
4件
さーちゃんどうしてそんなに恋愛模様を書くのが上手いの…😭😭💕 ただただ甘いんじゃなくて苦しくなっちゃうシーンもあって文才さが溢れてたよ…こんなに長編で書けるのほんとに尊敬すぎる…✨✨ 赤さんの純情な想いがとにかく可愛くって水白さんの応援部隊も可愛い…読んでてずっとにやにやしてたっ😖💘 まさかの桃さんは最初から赤さんが花を置いてたのを知っていたなんて…、!!神作をありがとう…> <
えぇ!!めっちゃ長く書いてくれてますやん😭😭 ほんと切なすぎる😭💞 誰が置いてるのか知ってるのに泳がせてるの🍣くんらしいですね🙄🫰💞( ( ( 💎🐇さんとお花(?)がキューピットすぎる…..👼💞 参加していただきありがとうございました‼️ 結果もお楽しみに!!!
※Attention
こちらの作品はirxsのnmmn作品となっております
上記単語に見覚えのない方、意味を知らない方は
ブラウザバックをお願いいたします
ご本人様とは全く関係ありません
小説としては、お久しぶりです。
さくらあんです。
書きたいものを書いていると、
いろんなものに手を付け終わらないとかいう
馬鹿すぎる状況で浮上しておりませんでした。
今回は、
あや様の500人記念のコンテスト(?)に
参加させていただきました✨️
あや様は色組cpをメインに
様々なcpを書かれていて、
とても上手な方です。
雑談の方では、
元気いっぱいなイメージがありますね🤔
推しcpが青桃なので
一番好きなのは『10年後の君』です🙂↕️
今作、長文のくせに、
グダってしまった駄作です。
それを補う番外編は、
次のお話にて公開予定です🙇
伝えたくていい
伝わらなくていい
想わせてくれるだけでいいの
花一輪に
願いを込めて
わたしからあなたへの
花のメッセージを
今日も明日も明後日も
届けるんだ
1輪のラブレター
チュンチュンと、
小鳥が鳴いているほどの朝はやく。
まだ誰もいない教室で、
りうらは一人、あなたへ向けて手紙を書く。
「今日は……えっと、カスミソウだから……
『感謝』と『幸福』……っと。
よし、完成!」
小さなメッセージカードにそう書いて、
そっと机の上に置いた。
あとは
あなたが受け取ってくれるのを待つだけ。
「今日も、受け取ってくれるといいな」
りうらの、大好きな人。
名前を呼ぶことすら、
まだできていないけれど。
それでも今日も、
花一輪に想いを込めるの。
不意に、
廊下の向こうで、足音がした。
りうらはびくっと肩を揺らし、
慌てて教室の後ろへ下がる。
やばい、隠れなきゃ。
背が低いから、
カーテンに包まってればバレないはず。
隠れてからすぐ、
ガラッ、と扉が開いた。
「……あれ、もう行っちゃったかな?」
次の瞬間聞こえる、
あなたの低くて優しい声。
朝の静かな教室に、
少し眠たそうなその声が落ちる。
りうらは息を潜めたまま、
カーテンの隙間からそっと様子をうかがう。
あなたは自分の席へ向かい、
机の上の花に気付いて、足を止めた。
「……ふふ、今日も置いてくれてる」
小さく呟いて、
カードを手に取る。
数秒だけ、じっと文字を読んで。
それから、ほんの少しだけ
目を細めて柔らかく笑った。
「……ありがと」
誰に向けたわけでもない声。
でもその一言だけで、
りうらの心は満たされてしまうんだ。
「……で?
またりうちゃんは何も言えなかったと」
時は流れ、朝のSHRが終わった時間。
じっと呆れたように見つめる4つの瞳に
りうらはおずおずと頷いた。
瞬間、
頭上からため息が聞こえる。
「ちなみにやけど、
今日は何を渡したん?」
「か、カスミソウ……」
「白くて、小さいきれいなやつよな?
健気そうでりうちゃんみたいな花やし。
うち、あれ好きやで」
「も〜、初兎ちゃん、
そういうことじゃないの!」
「ええ〜、いむちゃんもそう思わへん?」
「確かに!!思うけど!!」
そこで一拍置いて、
目の前の彼女はぐっと身を乗り出した。
「でも!
話せないのとは話が別でしょ!?」
びしっと指を突きつけられて、
りうらは思わず肩をすくめる。
「い、いや……その……」
「毎日花は置けるのに!?
なんで本人の前だと無理なの!?
普通逆じゃない?」
「だって、直接じゃないもん……」
「りうちゃんならできるって!!」
「む、無理なものは無理ぃ……」
「ふはっ、こりゃ、重症やな」
そこが可愛いんやけどなぁ……と
ふんわり笑うのは初兎ちゃん。
そして、
可愛いからこそいかさなくちゃだめでしょ、と
りうらの頭をくしゃっ撫でるのがいむ。
……2人の言うことがごもっともすぎて、
何も言い返せない。
「あ、明日も頑張る……!!」
「花を渡すんを?」
「初兎さん、違う。話すのが目標」
「あ、そうやった」
「そうやったじゃないよ、まったく」
初兎ちゃんといむは、
こんなりうらとも仲良くしてくれる
大好きな親友だ。
「高嶺の花やから、好きって言うたら、
一発な気もするけどなぁ……」
初兎ちゃんのその言葉に、
りうらはあははと苦笑いを零した。
昔から、口下手なりうらは、
あまりいろんな人と話せずにいた。
それに加えて、人見知りな性格もある。
高校生になってからも、
中学時代から同じこの2人以外とは
ほとんど話さずにいたら
いつの間にか、
変な噂だけが独り歩きして、
『高嶺の花』
と呼ばれるようになってしまった。
「まぁでも、
近寄りがたいって思われとるだけで、
りうちゃん中身こんなんやしな」
くすっと笑いながら、
初兎ちゃんが肩を軽く持ち上げた。
「ほんとそれ。
むしろ放っといたら一生片想いしてそう」
「うぅ……」
いむの容赦ない一言に、
りうらは言葉を詰まらせる。
……否定できないのが、
悲しいところ。
そのとき。
廊下の向こうが、少しだけざわついた。
「おいお前ら、もう予鈴なるって!」
「嘘だろ!?おい、ないこ!急げ!」
誰かの声。
足音が近づいてくる。
りうらは何気なく、教室の扉の方を見た。
「あーあ、りうちゃんが
恋する乙女の顔になっちゃった」
「ふふ、ほんまえぇ顔するよね」
そんな声も聞こえないぐらい、
ただ、あなたに夢中になるの。
入ってきたのは、ないくん。
りうらの大好きな人。
何人かに囲まれながら、
いつも通り少し困ったように笑っている。
……あ。
あの机。
今朝、花を置いた机。
ないくんは席に着くと、
何気ない仕草でカバンを開けて
そこから、
そっと一輪の花を取り出した。
カスミソウ。
今日、りうらが置いた花。
折れないように、大事そうに。
教科書の間に挟んでいたそれを、
机の奥に、静かにしまう。
……持ってて、くれてるんだ。
今までは、渡したあと、
ないくんが花をどうしているかなんて
聞いたこともなかったし、
見たこともなかった。
知らない人からの花なんて、
気味が悪いだろうから。
きっと、
どこかで捨てられているんだろうなって、
ずっと思っていた。
だけど。
誰にも見えないように。
まるで、宝物みたいにしまうその様子を、
初めて直接見てしまって。
持っていてくれる、
ただそれだけの事実なのに。
胸の奥が、きゅうっと鳴った。
キーンコーンカーンコーン。
予鈴が、静かな教室に響く。
「やば、予鈴なった!」
「席戻れ席ー!」
「りうちゃん、また後でな」
「ちゃんと対策立てなきゃね!」
2人も自分の席に戻っていった。
……と言っても、
りうらの席の隣と後ろとかいう神席だから、
あまり変わりはしないのだけれど。
ざわざわしていた空気が、
一気にいつもの教室へ戻っていく。
「よし、じゃあ今日はここから進めるぞ〜」
入ってきた先生の声に
りうらも慌てて前を向いた。
それなのに、
黒板の文字が、
まったく頭に入ってこない。
ノートを開き、文字を書いても、
思考はどこか遠くに置き去りのまま。
さっきの光景が、
何度も何度も浮かんでしまう。
教科書の間に、
大事そうに挟んでいた花。
誰にも見えないように、
しまった仕草。
あの優しい手つき。
……どうしよう。
嬉しくて。
嬉しすぎて。
ちょっとだけ、
泣きそうになる。
「……りうちゃん」
小さな声。
横から、
いむがそっと肘でつついた。
「顔、にやけてる」
「っ!?」
反射的に口元を押さえる。
「ばればれやで」
後ろから、
初兎ちゃんのくすくす笑う声。
「授業終わるまで、その顔でおる気?」
「む、無理……戻らない……」
だって。
だって。
こんなりうらからのたった一輪でも、
ないくんに、
ちゃんと届いてるんだって分かったから。
それだけで、もう
今日一日、頑張れてしまいそうだった。
「じゃあね、また明日!」
「りうちゃん、明日こそは頑張ってな?」
「努力はしてみます……」
情けない返事に、
いむと初兎ちゃんは同時に吹き出した。
「ほんま放っといたら一生このままやな」
「だからこそ見守ってあげないとね」
部活に向かう2人に手を振って、
りうらはとある場所に向かう。
あのあと。
頬を引っ張ってみたり、
授業が変わったりしても、
にやけは結局、収まらなくて。
今日一日、
ずっと変な人のまま過ごしてしまった。
……それくらい、
嬉しかったんだ。
その事実が。
鞄を渡り廊下の端において、
じょうろに水を汲む。
「よし、今日も頑張ろっ!」
顔を上げると、
目の前には、
中庭いっぱいに広がる花壇。
職員室前の廊下に面しているせいか、
中庭はいつも人が少なくて静かで、
学校のなかでも、
ここはりうらのお気に入りの場所だった。
放課後、こうして花壇に水を撒くのが
いつの間にか日課になりつつあった。
特に今日は、
少しだけ足取りが軽い。
もしかしたら、
いつもより早く終わるかもしれない。
鼻歌交じりに、
「元気になぁれ〜」なんて、
小さく独り言をつぶやいていた、そのとき。
「何してんの?」
聞き馴染みのある、
大好きな声が聞こえた。
「なぁ……っ!?」
振り返った先には、
ないくんが立っていて。
思わず、
間の抜けた声が漏れてしまう。
は、恥ずかしい……。
一体、いつからいたの?
もしかして、鼻歌とか聞かれてた?
……というか、なんでここにいるの?
頭の中では質問ばっかり浮かぶのに、
肝心の口は、ぜんぜん動いてくれない。
「花、世話してるの?」
ないくんは花壇を覗き込みながら、
当たり前みたいに隣へ来る。
距離が近い。
制服の袖が触れそうで、
それだけで心臓がうるさい。
「う、うん……ちょっとだけ」
「へぇ。知らなかった」
しゃがみこんで、
咲きかけの花を指先でそっと見つめる。
震えそうになる声を、なんとか押さえて。
「い、乾くんは、
どうしてここに……?」
さすがに、喋ったこともないのに
〝ないくん〟だなんて呼ぶのは気が引けて、
無難に乾くん、と呼ぶ。
すると彼は、
顔を上げて、少しだけムスッとした。
「ねぇ、なんかそれやだ」
「や、やだ……?」
やだ、と言われましても……。
何が嫌なのかすら、
りうらには分からない。
「え、えっと……?」と
思考が追いつかず固まっていると、
彼はすっと立ち上がり、
そのまま中腰になって、
りうらと同じ高さまで視線を落とした。
近い。
思った以上に、近い。
「……っ」
息がかかりそうな距離に、
思わず肩が強張る。
気を抜けば、
その場で腰を抜かしてしまいそうだった。
「その呼び方、他人みたい。
同じクラスなんだから、
下の名前で呼んでよ」
彼からの、意外な提案に
心臓がバクバクとうるさい。
「いや、あの、む、無理です……っ」
ないくんと直接話すだけでも
精一杯なのに。
これ以上なんて、到底無理。
「いいじゃん。俺も呼ぶから。
りうら、だっけ……?」
名前を。
呼ばれた。
それだけで、
胸の奥が一瞬で熱くなる。
「っ……はい……」
かすれた声しか出ない。
彼は、少しだけ安心したみたいに、
ふっと表情を緩めた。
「やっぱ合ってた。よかった」
知ってて、くれたんだ。
たった一度。
あの時にしか、
まともに喋ったこともなかったのに。
「ねぇ、ないこって呼んでよ」
お願い、なんて。
そんなの。
断れるわけがない。
小さく息を吸って、
震える喉で、音を出す。
「……な、ないこ、くん……?」
そよ風にすら
吹き飛ばされそうな声だったけれど、
この距離じゃ、ちゃんと届いたみたいで。
「んー……なんか、違う」
ち、違う……?
じゃあ……
もう一度、息を整えて。
今度は、逃げずに。
「……ないくん」
今度は、
ちゃんと、音になった。
一瞬。
本当に、一瞬だけ。
ないくんは目を丸くして。
それから、
ふっと、嬉しそうに笑った。
「うん。それ」
……あ。
その顔。
ずるい。
そんな顔されたら、
心臓、もたない。
「……逆にさ」
くい、と顎で示されて、
りうらははっと我に返る。
「りうらは、ここで何してたの?」
世話って言ったって、
色んな事するでしょ?とにこりと微笑んだ。
「あ、えっと……花壇の水やりを……」
「へぇ」
りうらがしゃがみ込むと、
ないくんも同じように花を覗き込む。
「……花、好きなんだね」
その一言に、
胸が跳ねる。
好きだなんて言ったら。
毎朝花を置いていることも、
全部、繋がってしまうかもしれない。
けど、
ないくんに、
嘘はつきたくない。
「……好き、です」
小さく頷くと、
ないくんは少しだけ黙って。
それから。
ぽつり、と言った。
「俺も、好き」
……え。
思考が止まる。
心臓の音だけが、
やけに大きい。
もしかして、バレてる……?
けれど、それは杞憂だった。
「だからさ」
軽く肩をすくめるみたいに笑って、
「俺も手伝っていい?」
ホッとする間もなく、
またすぐに時間が凍る。
「……へ?」
上ずった声が出た。
「一人でやるの大変でしょ。
俺、今日部活オフだし」
そう言って、
当たり前みたいに
りうらの持っていたじょうろに手を伸ばす。
少しだけ、
指先が、触れそうになって。
「っ……!」
慌てて離すと、
ないくんは小さく笑う。
「そんな警戒しなくても取らないって」
取らないって。
……何を?
じょうろ?
それとも。
……心臓、ほんとに止まる……。
「おはよ!りうちゃぁあ!?大丈夫!?」
「え、りうちゃん、なんかあったん……?
朝からヘロヘロやで……?」
「お、おはよう……ふたりとも。
だ、だいじょぶだよ……」
「それ、大丈夫じゃない人が言うセリフ!」
翌日。
りうらはいつも通り、
誰もいない教室に早く来て。
そっと、ないくんの机に
今日の1輪を置いてから、
自分の席へ戻った。
そこまでは、完璧だった。
花もちゃんと置けたし、
メッセージカードも入れたし、
見つかることもなかった。
なのに。
昨日……
思い出すのは、
中庭で並んで水をやった時間。
名前を呼ばれたこと。
隣に立ったこと。
一緒に笑ったこと。
どうやら昨日の
ないくんパワーは、
まだ全然抜けきっていないらしい。
ぼんやりするし、
思い出すたび顔が熱くなるし、
心臓はちょっとしたことで跳ねるし。
自分でも分かるくらい、
挙動がふわふわしている。
「いや、どう見ても大丈夫ちゃうやろ」
「魂半分どっか行ってる顔してるよ?」
「そ、そんなこと……」
否定しようとして。
ふと、
ないこの机の方を見てしまう。
『りうら』
その瞬間、また頬が熱くなった。
「ほら今また赤なった!」
「完全に恋の顔やん」
「ち、違っ……!」
違わない。
全然違わない。
むしろ、
昨日初兎ちゃんの言った
重症ってやつかもしれない。
……そうだ。
「あ、あのね、二人とも」
昨日、ないくんと話せたこと、
まだ言えてない。
「昨日――」
ないくんと話せたんだ。
そう言いかけた、その瞬間。
「あ、りうら!おはよ!」
声が、降ってきた。
ゆっくり振り返ると、
そこに、
ないくんが立っていた。
昨日と同じ、
少し困ったみたいな笑顔で。
当たり前みたいに、
名前を呼んで。
「……っ」
声が、出ない。
「おはよ。
昨日、大丈夫だった?」
頭の中が一瞬で真っ白になる。
横から。
「……りうちゃん」
ひそっと、いむの声。
「固まってる場合じゃないでしょ」
後ろから。
「ほら、チャンスやチャンス」
初兎ちゃんの小声。
む、無理無理無理……!!
そんなこと思ったって、
ないくんはもう、
すぐ目の前まで来ていて。
少し首をかしげて、
「どうしたの?」
なんて、優しく聞くから。
心臓が。
本当に。
壊れそうだった。
「……あ、ねぇねぇ、見てよ」
そう言って、
ないくんが胸ポケットに手を入れる。
そっと取り出したのは、
一輪の花。
今朝、届けたばかりの。
りうらの花。
な、なんで……!?
どうしてそれを、
今ここで見せるの……?
昨日の様子からして、
りうらが置いてるなんて
知らないはずなのに。
いや。
知らないからこそ、なの……?
「これさ、ミモザっていうんだっけ?」
「う、うん……そうだよ」
声が、ちょっとだけ裏返る。
お願いだから、
これ以上は聞かないで。
この話題、早く終わって……っ。
けれど、
ないくんは
お構いなしに花を指先でくるくる回しながら、
「よっしゃ、合ってた」
花好きのりうらなら
知ってると思ったんだよね〜と
ほっとしたみたいに笑った。
「この花もだけどさ、
最近、毎朝机に花が置いてあるんだよね」
きゅ、急に何……?
自然と
息が、止まる。
「誰が置いてるか分かんないけど、
これ、毎日ちょっと楽しみでさ」
その言葉が。
まっすぐ胸に落ちてきて。
嬉しくて。
怖くて。
逃げたくて。
でも、聞きたくて。
「今日のやつ、特に可愛くない?」
なんて無邪気に言うから。
もう。
ほんとに。
「そ、そうだね」
それしか、言えなかった。
どうしていいか分からないまま、
立ち尽くしていると。
「ないこ〜!これどう解くの〜?」
「はーい!今行くー!!」
クラスの前方の男の子たちから呼ばれて、
ないくんはぱっと振り返る。
それから、
少しだけ名残惜しそうにこっちを見て。
「ごめん、また放課後ね」
そう言い残して、
軽く手を振りながら教室の奥へ戻っていった。
……行っちゃった。
その背中が見えなくなった瞬間、
「はぁぁぁぁ……」
力が抜けて、
思わずその場にへたり込んだ。
「りうちゃん」
いむが獲物を捕らえたかのように、
飛びついてくる。
その目はいつもに増して、
好奇心に満ち溢れていた。
「今の聞いた?」
後ろから、初兎ちゃんが、
にやりと笑いから、かうように言う。
「『毎日楽しみ』やって」
「……っ、わざわざ言わなくていい……!!」
そんなことを言っているけど、
実際はその言葉が
心のなかでリピートされてて。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
……でも。
ミモザ。
花言葉には、
『感謝』
それから、
『秘密の恋』
……ばれてないよね。
カードには
さすがに書けなかったけど。
まだ。
大丈夫、だよね。
そう自分に言い聞かせても、
心臓は全然落ち着いてくれなかった。
昨日みたいな一日を、
今日もなんとかやり過ごして。
放課後。
少しでも落ち着こうと思って、
いつも通り中庭へ向かった。
水やりでもして、
心を静かにしようと思ったのに。
「な、なんでいるんですか……?」
つい声が出てしまう。
花壇の前。
自分の場所だと言わんばかりに立っていたのは、
ないくんだった。
「え、朝言ったじゃん。だめだった?」
きょとんと首をかしげる。
……言っていた気が、
しなくもない。
あの時は、
他のことにすべて持っていかれてたから……
確か、別れる直前に
『ごめん、また放課後ね』
……言ってたね。
朝の言葉が、
今さら頭の中で再生される。
だとしても、
ほ、本当に来るんだ……。
「だ、だめじゃないですけど……」
……いや、だめだ。
心臓がだめ。
またヘロヘロになっちゃう。
「水やりでしょ?」
そう言って、
ないくんはもうしゃがみ込んで、
花を覗き込んでいる。
「今日も手伝っていい?」
当然みたいに言うから。
拒む理由も思いつかなくて。
「……りうらはいいですけど……。
ないくんは、いいんですか?」
無意識にそう言ってしまった。
「大丈夫だよ。じゃなきゃ言わないでしょ。
それに俺、結構好きだからさ」
ないくんは
花を見つめながら、
ぽつりと続ける。
その目はどこか遠くを見ていた。
「この時間」
その言葉は、
言葉以上に
いろんな意味を含んでいる。
なぜか、そう思ってしまった。
ないくんと話すようになって、1週間。
彼は、毎日放課後になると
当たり前みたいに中庭へ来て、
水やりを手伝ってくれるようになった。
最初はぎこちなかった会話も、
今では少しだけ続くようになって。
同じ花を見て、
同じじょうろを持って、
同じ時間を過ごす。
毎朝、花を届けることは変わらないけど。
それとは別に、
ちゃんと顔を合わせて話せる時間ができて、
ないくんとの接点が増えたこと。
……それが、
いちばん嬉しい。
これが、りうらの率直な感想だった。
朝のSHR。
いつもなら、
先生の話を半分聞きながら、
残り半分は明日届ける花を考える時間。
だけど、
今日はそうはいかなかった。
「えー、ここでお知らせがある」
担任の改まった言い方に、
教室がざわ、と小さく揺れる。
嫌な予感がした。
理由なんてないのに、
どことなく胸の奥がざわつく。
「乾のことなんだが、
来週、修了式のあと転校することになった」
……え?
一瞬、言葉の意味が頭に入ってこなかった。
転校? ないくんが? 来週?
教室のざわめきだけがやけに遠く聞こえる。
誰かが「急すぎない?」と小声で言って、
別の誰かが椅子を鳴らした。
でも、
りうらの耳にはもう何も入ってこない。
来週。
残り、7日。
ないくんと話し始めた期間と同じ。
けれど、
重さが違う。
昨日も、
今日の放課後も、
明日の花のことだって、
普通に続くと思ってたのに。
気づけば、机の上の紙が
少し歪んでいた。
「なぁ、ないこ!お前先に言っとけよ!」
「乾くんがいなくなるの、
わたし、悲しいなぁ……」
やっぱりと言うべきか、
その日の話題は、
ないくんのことで持ちきりだった。
教室のあちこちで名前が呼ばれて、
質問攻めにされて、
みんな代わる代わる話しかけている。
中心にいるのは、もちろんないくん。
当の本人は
「だって、前々から言ってたら、
しんみりムードなっちゃうじゃん?
俺、それ嫌なんだよね。
最後まで楽しみたいじゃん」
そう言って、ないくんは
いつも通り笑った。
みんなも「確かに〜」なんて笑って、
教室の空気は思ったより軽い。
……なのに。
りうらだけ、
うまく笑えなかった。
楽しみたいのは、分かる。
でも、それなら
中途半端に
期待なんかさせて欲しくなかった。
この1週間、
毎日放課後に来てくれるから、
部活は大丈夫なのかなって、
ずっと思ってた。
けど。
最初に話した日。
あの日だって。
きっと、
先生と話してた帰りだったんだよね。
つまり、あの時にはもう、
全部決まってたんだ。
残り時間も。
ここに来られる日数も。
……全部、分かった上で、
りうらのところに来てたんだね。
ないくんの、ばか。
胸の奥が、じん、と熱くなる。
泣きたいわけじゃないのに、
それでも、こぼれそうになる何かを
押し込めるみたいに。
りうらは、ぐっと唇を噛んだ。
その日の放課後。
いつもなら、
迷わず中庭へ向かう時間。
でも今日は、
すぐに動ける気力がなくて。
とぼとぼと歩いていた。
「は!?ないこ、お前それまじ!?」
不意に、
ないくんの名前が聞こえて
足がピタリと止まった。
「さすがに、
毎日その花を同じ人から
受けとんのはキモいわ〜」
クラスの男の子たちが、
ないくんを囲んで話している。
〝毎日〟〝花〟〝同じ人〟
りうらの話……?
静かに息を呑んだ。
逃げなきゃ、って思うのに。
なのに、足が動かない。
「うっそ、ありえないんだけど」
「俺なら絶対受けとんない。
なんなら、さっさと言いに行く」
「マジでそれな。ほんとどうかしてるわ」
周りの声が、遠くなる。
……やっぱり。
普通に考えれば、そりゃそうだよね。
知らない人から、
毎日花が届くとか。
怖いに決まってる。
でも。
ないくんなら、
そう思ったけど。
「言ったじゃん。キモい話するけどって」
耳に入る、軽く笑う声。
それだけで
胸の奥が、
すっと冷えた。
その一言だけで、
もう十分だった。
この先を、聞く勇気なんてない。
「……っ」
呼吸が浅くなる。
ここにいたら、
この後の会話も全部、聞いてしまう。
聞いたら、もう
どんな顔していいか、分からなくなる。
せめて。
せめてこの1週間、
りうらと関わってくれたないくんは、
綺麗な思い出のままでいてほしくて。
りうらは、その場から逃げ出すように、
中庭へ向かって走った。
「……はぁっ、はぁ……っ」
立ち止まった途端、
胸の奥に溜め込んでいたものが一気に崩れる。
……本当に、馬鹿みたい。
『毎日ちょっと楽しみでさ』
『今日のやつ、特に可愛くない?』
そう言ってくれた
ないくんなら、って。
勝手に期待して。
思い込んで。
それでも、
所詮みんな思うことは同じ。
ぽた、ぽた、と
足元に小さなシミが増えていく。
擦っても、拭っても、
次から次へと溢れてきて。
まるでそれが、
ないくんへの失恋を、
形にしてしまったみたいだった。
「りうら!」
後ろから、
ぱたぱたと走ってくる音と共に
ないくんの声が聞こえた。
いつもと変わらない、
大好きな声。
だけど、
今は、
一番聞きたくなかった声。
ないくんは、
りうらの前で止まると、
目を見開いた。
「なんで、泣いてんの……?」
……ないくんのせいだよ。
とは、口が裂けても言えない。
言ったらきっと、
全部終わってしまう気がして。
俯いたまま、
りうらは何も答えられない。
沈黙が落ちる。
ないくんは少し迷うようにしてから、
そっと、りうらに手を伸ばした。
慰めるみたいに。
確かめるみたいに。
その指先が近づいた瞬間
「……っ、触んないでっ!!」
反射だった。
自分でも驚くくらい、
鋭くて、強い声。
言った瞬間に、
胸の奥がひどく冷たくなる。
自分勝手だとは思う。
傷つけたいわけじゃない。
でも。
こうでもしないと、
また期待してしまうから。
ないくんの伸ばされていた手が、
空中でぴたりと止まった。
触れる寸前だった指先が、
行き場をなくしたみたいに、わずかに震える。
一瞬だけ、
ないくんの表情が固まった。
ほんのわずかに目を見開いて、
それから、何事もなかったみたいに。
ゆっくり、手が下ろされる。
「……ごめん」
小さな声。
責めるでもなく、
怒るでもなく、
ただ、少しだけ困ったように笑って。
「びっくりさせちゃったね」
一歩。
ほんの少しだけ、距離を取る。
それだけなのに。
その距離が、
さっきよりずっと遠く感じられて。
りうらは、
取り返しのつかないことをしてしまったんだと、
遅れて気づいた。
ないくんは、
おもむろに口を開き
「……俺、今日は手伝うのやめとくね」
静かにそう言って、
ないくんはそれ以上近づこうとしない。
その優しさが。
怒られるよりも、
冷たくされるよりも。
ずっと残酷で。
突き放されたみたいで、
余計に苦しかった。
「……またね」
振り向かないまま、
小さく言って。
離れていく、ないくんの背中。
呼び止めればいいのに。
ごめんって、ひと言でいいのに。
喉が、動かない。
滲んだ視界で手を伸ばしても、
指先は空を掻くだけで。
もう、届かない。
足音が遠ざかっていくたび、
胸の奥が静かに崩れていく。
ぽつんと取り残された中庭で、
前髪をぐしゃりと掴み、
しゃがみ込む。
こんなこと、
するつもりじゃなかったのに……っ。
「……っ」
小さく嗚咽が漏れて、
さっき止まったはずの涙が、
またあふれ出た。
……あぁ。
りうらは。
自分の手で、
この恋を
終わらせてしまったんだ。
あれから数日。
ないくんがいなくなる日が、
ついに、ついに来てしまった。
たくさん泣いた。
後悔もした。
どうしてあんな言い方をしたのかって、
何度も、何度も思い返した。
だけど。
これが、きっと普通の距離感。
前まではそれが当たり前で、
それでも平気だったはずなのに。
戻っただけ。
ただ、それだけなのに。
いざ失くしてみると、
ぽっかりと、心に空洞ができたみたいだ。
放課後の水やりは、
ないくんと会うのが気まずくて、
この数日、一度も行けていない。
足を向けようとして、
何度も途中で引き返した。
それでも
花を届けることだけは、
毎日続けていた。
あれだけ言われたから、
辞めようかと何度も迷った。
花を握りしめたまま、
立ち尽くした朝もあった。
けれど、
もし花までやめてしまったら、
ないくんとの繋がりが、
本当に全部途切れてしまう気がして。
りうらは、どうしても
手を止められなかった。
最後の日。
何を届けるか、
何度も、何度も考えた。
ありがとうじゃ足りない。
さよならも、違う気がして。
迷って、迷って。
りうらは今日、初めて。
一輪じゃなくて、
複数本の花を持ってきた。
五本の薔薇。
花言葉は
『あなたに出会えてよかった』
少しだけ照れくさくて、
でも、これ以上に正しい言葉はないと思った。
この恋は、
苦しくて、泣いてばかりだったけど。
それでも。
出会わなければよかったなんて、
一度も思わなかったから。
その言葉は、嘘じゃない。
そして、
メッセージカードも、
いつもと少し違う。
花言葉だけじゃなく、
もう一つ、言葉を書いた。
〝大好きでした〟
書き終えたあと、
ほんの少しだけ、指先が震えた。
本当は
今も、大好き。
きっと明日も、
その先も。
でも。
叶わないから。
願ったところで、
もう届かないって分かっているから。
だから、過去形にした。
終わらせるために。
自分に言い聞かせるために。
たとえ、
ないくんがいなくなったとしても。
ないくんが、
りうらの世界を彩ってくれたことは、
変わらないから。
だから。
きっと、これでいい。
これで、よかったんだよ。
りうらは、そっと息を吐いた。
これを置いたら、
すべてが終わる。
「……」
終わ、っちゃうんだ。
急に、いなくなることを
今、実感した気がした。
下唇をぎゅっと噛みしめる。
足に根が張ったみたいに動けなくて、
ただ、ないくんの机を見つめた。
「……」
置かなくちゃ。
早く置いて、
この気持ちとも
お別れしなきゃ。
頭では、分かっている。
ここで立ち止まっても、
何も変わらないって。
なのに。
どうして、手は
動いてくれないの……?
そのとき。
「……あれ、りうら?
何してんの?」
不意に扉が開いて、
心臓がどきりと音を立てる。
しかも、
相手が相手だ。
「っあ、え、っと……
何もしてない、よ……?
ないくん」
なんで。
いつもならもう少し遅く来るのに。
動揺と気まずさから、
ぎゅっと花を胸元で握りしめたまま、
りうらは動けなかった。
振り向いたらきっと
全部、溢れてしまうのがわかっていたから。
泣くのも、
好きなのも、
離れたくないのも。
全部。
ただ下を向いたまま、
花を持つ手だけが、
かすかに震える。
背後で、扉が閉まった音がして。
ゆっくり、足音がする。
逃げる時間を与えないみたいに、
でも急かさない歩幅で。
一歩。
また一歩。
心臓の音が、
うるさすぎて。
近づいてくる気配が、
もうすぐ背中に触れそうてしまいそうで。
「……りうら」
すぐ後ろで、
名前を呼ばれる。
次の瞬間。
ふわっと、
背中に体温が触れた。
「……っ」
後ろから、
そのまま抱きしめられてる。
強すぎない。
でも、離さないって分かる腕。
制服越しに伝わる体温が、
一瞬で、涙腺を壊してしまった。
「やっと、捕まえた」
耳元で、小さく笑う声。
「逃げんなよ」
その言い方が、
久しぶりに聞いた、
いつもの言い方で。
その言い方が、
どうしようもなく、
大好きで。
危うく、
花を落としそうになる。
花をもう一度握り直した拍子に、
ないくんの視線が、
りうらの胸元に落ちた。
抱きしめた腕の隙間から、
ぎゅっと握りしめられた赤が見えている。
「……それ」
低く、かすれた声。
りうらの心臓が跳ねた。
見えてる。
咄嗟に、
花を隠すように抱え直す。
けれど。
ないくんは、
花を持っていた手に、
自分の手をそっと重ねた。
逃がさないみたいに。
でも、奪わないように。
「……離して」
震える声で、
やっと絞り出す。
この花を見られたら。
りうらが、
毎朝花を届けていた人だと
分かってしまう。
カードまで見られたら。
終わらせるための〝でした〟が、
全部、知られてしまう。
どちらを見られても、
りうらには、後がなかった。
でも、ないくんは
「やだ」
即答で返す。
しかも、
いつもより少し低い声。
花を包むように重なった手に、
力がこもった。
りうらは
慌てて身をよじる。
「だ、だから……っ」
やめて、見ないで。
言葉にならない拒絶。
けど、
それも無意味だったようで。
「逃さないって言ってんでしょ」
後ろから、
さらに強く抱き寄せられた。
その隙に、
花束がしっかりと
目線の高さまで持ち上げられる。
ないくんは一瞬、
息を止めた。
そして。
「……花?」
その一言で。
終わった。
バレて、しまった。
最後の、最後で。
隠しきれたはずだったのに。
けれど、ないくんは。
そこで終わらず、
さらに爆弾みたいな一言を投げてきた。
「……ねぇ、それ。
いい加減俺に直接渡してくんないの?」
さっきより、
ずっと近い声。
耳元で、
絞り出すよう言った。
花を包んだまま、
りうらの指を離さずに。
「……え……?」
頭の中が、真っ白になる。
『いい加減直接』
その言葉は、
今までりうらが渡してきたことを知らないと
出てこない言葉。
嘘。
だって。
知らないはずでしょ……?
喉がひくりと鳴る。
隠してきたものが、
音を立てて崩れていく。
「まだ気づいてないの?
俺、最初から、分かってたよ」
穏やかな声。
「毎朝、花置いてくれるのがりうらだって」
ひゅっと、短い息が漏れた。
背中に伝わる体温が、
さっきよりもはっきりと熱い。
「な、なんで……」
うまく息が吸えない。
「なんで、分かってたの……?」
震える問いに、
ないくんは小さく笑った気がした。
「初めて花もらった日にさ」
腕の力は緩めないまま、静かに続ける。
「俺、朝練でまだ誰もいない時間に
早く来てたんだよね」
心臓が、
どくんと跳ねる。
そうだ。
りうら、最初の日、
緊張してて、
あまり周りが見れてなかったんだ。
「そしたら、
りうらが俺の机の前に立っててさ」
……見られて、たの……?
「逃げるみたいに出てったから、
あー、これ
言わないほうがいいやつだなって思って」
優しい声だった。
責めるでもなく。
呆れるでもなく。
ただ、懐かしむみたいに。
「それからずっと、知らないふりしてた」
「……っ」
ないくんからの、
衝撃の答え合わせに、
胸の奥が、ぎゅっと締まる。
「だって」
少しだけ、抱きしめる力が強くなった。
「りうらが花くれるの、嬉しかったから」
あの日、見た光景が蘇る。
教科書の間に挟まれていた花。
誰にも見えないように、
大事にしまっていた手。
「全部、ちゃんと持ってるよ」
息が止まる。
「一個も捨ててない」
もう、だめだった。
ぽろ、と。
また涙が落ちる。
「……じゃあ……」
震える声。
「なんで……」
あんなこと言ったの……?
「なんで、キモいって……」
その瞬間。
ないくんの腕が、
はっきりと強くなった。
「何、それ」
即答だった。
低くて、はっきりした声。
「俺、そんなこと一回も言ってない」
静かな中庭に、
その言葉だけが落ちる。
「……え、だって、この間、放課後に」
そこまで言えば十分だったらしい。
ないくんは、
思い当たったように「あぁ」と
小さく声を上げる。
「俺が渡してる相手知ってんのに、
可愛いすぎるからって
わざと泳がして毎日もらってるのが
キモすぎるって話?」
「……へ……?」
思考が追いつかない。
ないくんは、
少しだけ困ったみたいに笑って、
でも逃がさないように、
腕の力は緩めないまま続けた。
「最後まで聞けよ、ちゃんと」
低くて、でも優しい声。
その声だけで、
胸がぎゅっと締め付けられる。
「むしろ俺、
めちゃくちゃ嬉しかったんだけど」
ほんの少し拗ねたみたいに、
どこか照れくさそうにそう言った。
その一言が、
さっきまで凍っていた胸の奥に、
ゆっくり、ゆっくり染み込んでくる。
耳元で、
小さく息を吸った音がした。
「さっきまでの話聞いてれば
分かってたと思うけど」
その声は、
どこか改まったような口調で。
そこで一旦言葉を留めて、
ないくんはりうらの肩にそっと手をかけ、
くるりと体を正面に向けさせた。
「……っ」
さっきまで抱きしめていた腕が離れて、
今度は両手で、そっと頬を包まれる。
逃げ場なんて、
もうどこにもない。
どこにも、いらない。
まっすぐに見つめられて、
心臓が壊れそうなほど鳴る。
そして。
また息をひとつ吸って。
「俺、りうらのこと好き。
付き合って」
まっすぐで、
ごまかしも、冗談もない声。
胸の奥で、
ぶわりと何かが溢れ出す。
りうらは、
ぽろぽろ涙を零しながら、
返事のかわりに、かすかに頷いた。
そんなりうらに、
くすっと笑ってから、
「あぁ、もう……ほら。泣かないで。
俺、りうらの笑ってる顔のほうが好きだよ」
壊れ物に触れるみたいに、
ないくんの指がそっと目元を拭う。
触れられるたび、
涙の代わりに胸の奥がじんわり熱くなって、
言葉にならない想いだけが満たしていく。
しばらくして、
りうらの呼吸が少し落ち着いた頃。
「……ごめん。ちょっと我慢してね」
ないくんが、
ぽつりと呟いた。
え、と聞き返す間もなく。
ふわりと体が浮く。
「……へっ!?」
気づけばそのまま抱き上げられて、
いわゆる、ないくんに抱っこされた状態。
そのまま、
くるりと後ろを向いたかと思うと
「そういうことだから、
りうらのこと、とらないでね。
俺のだから」
ふわりと王子様のように笑って
高らかに言い放つ。
その視線の先には、
たくさんのクラスメートたち。
……あ、あれ……?
りうらたち、
もしかして公開告白してた……!?
あ……
ここ、教室だった……!!
今更ながらに、
そんなことに気づいて、
かあっと顔が赤くなるのが、
自分でも分かる。
でも、抱き上げられてるから、
逃げることもできなくて。
ないくんに、
きゅっとしがみつく。
「うわ気づかれてた!」
「いや聞くしかないだろ普通!」
「てか成功してんじゃん!!」
「おめでと〜!!」
みんなが騒ぎ出す声に、
ないくんは満足そうにふふんと笑って、
腕の中のりうらを、
もう一度、
ぎゅっと愛おしそうに抱き直した。
目線を動かすと、
クラスメートの中に
涙目のいむと初兎ちゃんもいて。
2人とも、
手をぶんぶんと振って、
喜んでくれていた。
あのね、ないくん。
りうら、こんなにも
楽しくて、あったかい光景を
想像してなかった。
だからこそ、
思うんだ。
きっと、
ないくんが転校して、
寂しい思いも、悲しい思いもする。
それでも。
ないくんとなら、
きっとこれからも楽しい思い出で
溢れているんだろうなって。
不思議なくらい、
素直に。
「ねぇ、ないくん」
くいっと襟を引っ張る。
「ん?」
振り向いたないくんは、
さっきまでよりも
ずっと嬉しそうな顔をしていて。
その顔を、
みんなのないくんじゃなくて、
りうらだけのないくんにしたくて。
ないくんにだけ聞こえるように、
こっそりと囁く。
「りうらも、大好きだよ」
その言葉に、
ほんの一瞬だけ目を見開いて。
それから。
「……お前ら、どっか行け。
俺、りうら堪能するから」
「……え!?」「はぁ!?」
「ちょ待て公衆の面前!!」
「そもそもこの後、修了式でしょ!?」
悲鳴みたいなツッコミが飛び交う中、
ないくんはまったく気にせず、
りうらの肩に顔を埋めた。
あったかくて、くすぐったくて。
今までのりうらなら、
きっと恥ずかしくて逃げていた。
でも。
こんな修了式も、
悪くないかもしれない。
ないくんの背中に手を回して
りうらは、
あははと声を上げて。
心から、笑ってしまったんだ。