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白露が生まれた夜、森に“白い露”が降りた。
霧のように静かで、世界が息を潜めたような夜だった。
それは古来より「心の声を聞く子が生まれる前兆」と言われていた。
白露はその名の通り、白く透き通るような声を持って生まれた。
だがその声には、ただ美しいだけではない…恐ろしい秘密が隠されていた。
白露が歌うと、周囲の人々の 心が「歌」に共鳴し、色や光として白露に流れ込んでくる。
怒りは赤い火花
悲しみは青いしずく
嘘は黒い影
喜びは金色の光
幼い白露は、それをただ「綺麗だ」と思っていた。
しかし…その力はやがて彼女に“耐えられない真実”を突きつける。
ある夜、白露は家族の前で無邪気に歌った。
すると部屋が一瞬で色に染まり、白露は崩れ落ちた。
母の心から流れたのは、深い青色の“ため息のしずく”。
「この子の声は…怖い。普通の子に生まれてほしかった」
父の心から流れたのは黒い影。
「白露の力は危険だ。誰にも知られてはならない」
そして、兄の心からは金色と赤色が混ざった光。
「白露を守りたい。でも…俺じゃ守りきれない」
白露はそのすべてを“読みすぎて”しまった。
胸が潰れるような痛みに襲われ、以降 歌うたびに吐き気や頭痛が起きる ようになった。
それが、彼女の最初のトラウマだった。
白露の歌は素晴らしい。
聞いた者の感情に直接触れ、癒すことができる。
だが同時に白露自身は、
他人の本心・秘密・嘘・憎しみ・願望を、拒否できずにすべて抱えてしまう。
だから、白露は歌うたびにこう思う。
「お願い…心を見せないで。
私は、みんなの心の痛みまで背負えない…」
それ以来、彼女は人前で歌えなくなった。
心を読める歌姫の噂は、禁じられていたはずなのに外に漏れていった。
すると次第に、
心を操る兵器として利用しようとする者
国を変えようと戦争の武器にしようとする者
自分の秘密を暴かれるのを恐れて白露を消そうとする者
さまざまな勢力が白露を探し始める。
家族は白露を守るため、家から出さないようにしたが、
それは白露にとって“牢獄”にしか思えなかった。
白露が13歳の時。
村の子どもたちが「歌ってよ」と言われ、断りきれずに短い子守唄を歌った。
その瞬間――
周囲の子ども全員が泣き崩れた。
白露は感情の洪水に襲われ、意識を失った。
村人たちは「白露が子どもたちを呪った」と恐れ、距離を置き始めた。
白露は自分が“人を傷つけてしまう存在”だと確信してしまう。
16歳の満月の夜、白露は静かに家を出た。
「もう誰の心も傷つけたくない。
だったら…私がいなくなればいい」
歌声を封じるため、喉に魔除けの“封紋(ふうもん)”の布を巻いて。
もう誰の心も読まなくていいように。
旅の途中で出会うのは、
心を閉ざした男
嘘を重ねて生きる少女
怒りで自分を壊しそうな青年
白露は歌えない。
だが歌わないと、彼らを救うことができない。
白露はいつか選ばなければならない。
歌で心を読む恐怖と、
歌で人を救う希望、どちらを選ぶのか。
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