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# 🦅 m
数日後。
放課後の教室。
ざわめきが少しずつ減っていく中で、美咲はスマホを握りしめていた。
(まだかな…)
あの日応募したライブハウスから、まだ返事は来ていない。
何度も通知を確認しては、何もない画面に小さく息をつく。
「美咲、また見てるでしょ」
後ろから、由奈の声。
「顔に出てるよ〜」
「うそ…」
苦笑いしながらスマホを伏せる。
「まあでもさ、応募しただけでもすごいじゃん」
軽く言うその言葉が、少しだけ救いになる。
(そうだよね)
あのとき、“押した”こと。
それはもう消えない。
———
その帰り道。
イヤホンから流れる音は、いつも通り。
でも、どこか落ち着かない。
(もし落ちてたらどうしよう)
そんな考えが、ふとよぎる。
(いや、でもまだ決まってないし)
行ったり来たりする気持ち。
そのとき――
ポケットの中で、スマホが震えた。
一瞬、呼吸が止まる。
ゆっくり取り出して、画面を見る。
知らない番号。
(……来た)
心臓が一気に速くなる。
数秒迷って――通話ボタンを押す。
「……はい」
少しだけ震えた声。
『もしもし、〇〇ライブハウスの者ですが』
一気に現実が近づく。
『アルバイトの件でご連絡しました』
喉が乾く。
「はい…!」
『一度、面接に来ていただけますか?』
———
「……え?」
思わず聞き返してしまう。
『ご都合のいい日を教えていただければ』
その言葉の意味が、じわじわと広がる。
(面接…ってことは)
「は、はい!行きます!」
声が少し大きくなる。
電話の向こうで、少しだけ笑う気配。
日程を決めて、通話が終わる。
スマホを握ったまま、しばらく動けなかった。
「……面接」
口に出してみる。
現実感が、一気に押し寄せる。
怖い。
でも同時に――
「やば、ちょっと楽しみ…」
思わず笑ってしまう。
面接当日。
ライブハウスの前。
あの日とは違う、はっきりとした現実の場所。
看板も、扉も、ちゃんとそこにある。
でも――
(あのときと、似てる)
胸の奥が、少しざわつく。
深呼吸。
(“こっちがいいかも”)
ドアに手をかける。
「失礼します」
中に入ると、少し暗めの照明。
機材の匂い。
かすかに残る音の気配。
スタッフらしき人が顔を上げる。
「面接の子?」
「あ、はい!」
案内されて、奥のテーブルへ。
座って待っていると、店長らしき人がやってくる。
簡単な挨拶のあと、質問が始まる。
「なんで応募しようと思ったの?」
一番シンプルで、一番難しい質問。
でも今回は――
少しだけ違った。
美咲はゆっくり言葉を探す。
「音楽が好きで…」
ありきたりかもしれない。
でも、そこで止まらなかった。
「この前、ライブに来て…」
あの日のことが、頭に浮かぶ。
光、音、言葉。
「すごく、救われた感じがして」
店長は黙って聞いている。
「自分も、そういう場所に関わりたいって思いました」
少しだけ、声が震える。
でも――最後まで言えた。
数秒の沈黙。
「なるほどね」
店長がうなずく。
「いいね、それ」
その一言で、肩の力が抜ける。
いくつかのやり取りをして、面接は終わった。
「結果はまた連絡するね」
「はい、ありがとうございました!」
外に出る。
昼の光が、少しまぶしい。
「……終わった」
その場で、ふうっと大きく息を吐く。
緊張していた体が、一気にゆるむ。
(どうなるかな)
わからない。
でも――
(ちゃんとやった)
それは、はっきりしている。
イヤホンをつける。
音が流れる。
そのとき。
ふと、あの日の公園を思い出す。
そして、あのライブ。
(……あれがなかったら)
ここには来ていない。
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