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身体が、動かなくなった。
左肩を前に、右足は教室のレーンを越えて、半らばかり出でる。
背後から柔い光を受けて、肌の裏側に濃い影が暗む。その周り、幾らか灰色を感じさせる、暗い青色よりも際立って。
両脇に教室を携えた、壁が迫る廊下の行き止まりに、背を向け教室を向く、肉の塊が1つ立っている。
その背中には、一体何を気負って居るのだろう。
俺は流される様に教室から歩み出し、先生も後ろを着いて来る。
先生も見た。直ぐに、喉から微かに声混じりの息を漏らした。
俺は先生を背中に回し、両腕を広げて壁へ寄った。
束の間、青鬼は、その向いて居た方の教室へと突っ込んで行った。
俺はそれを認めながら、先生を背で押し壁に張り付く。
そして直ぐ、それがあまり意味を成さない事を思い付いて、素早く先生の手を掴み、引っ張って走り出した。
宛ても無く。
俺は何となく、階段を駆け下りていた。
その前に、どこかのタイミングで、強く握り締めて居た先生の手首も離していた。
背後には、再びの轟音と鈍い振動と、また幾分幽かになっていく大きさの悲鳴に、この背中を押されながら。
但し俺のこの狐の顔は、そのままどの部分の表情をも、変えずにただ前を見るだけで居る。
階段を下り切ると、走るのの速度を落とした。羽織りの荒ぶるのが落ち着く。
先生は走るのを止めたくない様で、そのまま俺の背中に追い付いて無理矢理に止まり、歩いた。
ほんとに何となく走り出してしまったから、少し居ずらく感じた後、
取り敢えず、確認せずに残された少しのドアーが本当に開かないかどうかだけ確かめるか。
昇降口を過ぎ、反対側のもう一つの階段のその奥、保健室を左になぞって少し廊下が続き、その尽き。
…開かない。
この向こうはピロティだ。上は視聴覚室で、小さな子供達が肩を並べて4組分座れる程度の広さがある。
何度かここに来ているとは言え、ここを見て、来たのはこれが久し振りだ。そうだった、こうなっていた、と言う俺の記憶を奮い起こし、僅かで、直ぐに緊張へ消える懐かしさを作った。
この廊下は直線になって居て、反対側にも同様に有る。
後ろを向く。
左側には先生が居て、奥に廊下が続く。
床は微かに照り、水面の様に畝って景色を写す。
奥へ奥へにつれ、暗く、淡くなっていて、両開きの扉と磨りガラス___
…妙だ。
この廊下の奥だけは、見た目が、中学の方に似ている。
いや、同じ。
金浜市立稲穂台中学校。俺の母校。
何故?仮想現実で何者かによって作られたステージであるとしたとは言え、他は全く慶年小その物である。確かに所々、無かったり、変わったりとかするが、不自然だ。
そう考えると、慶年小のこの方に何があったか、記憶が薄い。それより中学校の方が何度も見て居たから、それに上書きされてしまっている様だ。
…
まさかな。
「どうした?」
「あっ!いやっ、何も。」
…もしや。
俺は下に向けた自分の顔をふっ、と上げ、あるアイデアを得る。
俺は先生の顔を見、声を出して走り出した。
「来てください。」
そのまま前へ見る。
宛ては有る。
屋上だ。