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俺は腕の中で泣き続けるその子を、ただ抱きしめることしかできないでいた。
なぜか……それは、彼女たちモンスターチルドレンの現状を知ってしまったからだ。
彼女たちは今この時も、この世界の人間たちによって道具のように扱われているらしい……。
俺は未だに、その現実を受け入れられなかった。こんな幼い女の子たちを道具のように扱い、役に立たなくなったらゴミを捨てるように廃棄する。
そんなことが今、世界中で行われているのだということを理解した俺は、怒りの感情を露わにした。
ミノリ(吸血鬼)の態度に少しイライラしている時とは明らかに違う。そう、これは『憎悪』だ。
まだ泣き続けている少女に対して、俺は何をしてやれるのか……。俺が今、最も優先すべきことは何か。今こそ、サナエの力を借りる時ではないのか?
正直、その時の俺は完全に冷静さを失っていた。いや、そうならざるを得なかった……の方が妥当だろうか。
いつの間にか俺の腕の中で泣いていたはずの少女は手で涙を拭いながら、こちらを見ていた。そして。
「あなたは……私を道具のように扱ったり、用済みになっても捨てたりしませんか?」
俺にそう訊いてきた。
俺は今まで出会ったモンスターチルドレンやサナエような存在のことを道具だと思ったことは、これっぽっちもない。
だが、もしそれが俺以外のやつだったとしたら? そう考えると、この子が言うようにミノリたちは今頃、ひどい目に遭っていたのかもしれない。
「俺はお前を……お前たちを道具のように扱ったりしないし、用済みになっても決して捨てたりなんかしないよ」
「それは本当ですか?」
「ああ、本当だ」
「じ、じゃあ……私を仲間に入れてくれますか?」
「ああ、もちろんだ」
「……! えっと、その、ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
その時、俺は初めて、その子の笑顔を見た。天使の笑顔とはこんなにも美しく神々しいものなのかと思わず見とれてしまった。
「どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもない」
「……? そうですか」
「あ、ああ……」
俺は交渉というより勧誘に成功した。
それと同時に、仲間集めというミッションをクリアした。いや、待てよ? 何か大事な事を忘れているような。
その時、目の前の天使は立ち上がり、指を鳴らすと、結界らしきものを解除した。
どうやら俺たちは少しの間、世界の時間軸から外れていたようだ。
俺たちにとっては数時間に感じられたが、果たして元の世界ではどれだけの時間が流れているのだろうか。
この時、俺の頭に思い浮かんだものは三つ。
一つ目は、元の世界の時間がかなり進んでいる、浦○太郎パターン。
二つ目は、元の世界の時間がそんなに進んでいない、デ○モンパターン。
そして三つ目は、時間を停止しただけで元の世界の時間は結界を張る前と大差ない、ザ・ワー○ドパターン。
一見、どのパターンもよくあるものだと思われがちだが、一つだけ共通点がある。それは……。
「ナオトーーーーーーー!!」
「ナオトさーーーーーん!!」
「ナオ兄ーーーーーーー!!」
「兄さーーーーーーーん!!」
俺が答えを言う前にミノリたちが部屋から勢いよく飛び出してきて、俺の胸の中に飛び込んだ。
ミノリ(吸血鬼)とマナミ(茶髪ショートの獣人)は少し涙目で、シオリ(白髪ロングの獣人)とツキネ(変身型スライム)は笑顔だった。
ちなみに、三つに共通しているのは……『みんながとても心配している』でした。
「ナオトのバカ! あたしたちがどれだけ心配したか分かってるの!」
「そ、そうです! もうナオトさんに会えなくなるかもしれないって考えたら、どうしたらいいか分からなくなって……でも、どうすることもできなくて、ただ待っていることしかできなくて……。だから、もう一人で無茶をするのはやめてください!!」
「ナオ兄、困ったことがあったら、なんでも私たちに相談するっていう約束忘れたの? もし、そうなら、あとでおしおき決定。ちなみに拒否権はない」
「私はこんな姿ですけど、その……私たちに何も言わずに、どこかに行かないでくださいよ。心配……したんですからね」
俺はこの時、自分はこいつらにとってかけがえのない存在なのだということを改めて理解した。
それは今から仲間になるこの子にとっても、そうであることに気づくのに時間はかからなかった。俺は全員の頭を撫でて、安心させると、こう言った。
「みんなありがとな、今回も迷惑かけっぱなしな俺のことを心配してくれて」
「でも、あんたはそういうやつでしょう?」
「ああ、そうだ。俺の悪い癖だ」
「ホ、ホントですよ、いつも無茶ばかりするんですから」
「ああ、すまない」
「ナオ兄、いい加減にしないと、さすがの私も堪忍袋《かんにんぶくろ》の尾が切れるよ?」
「すまない、これからは気をつけるよ」
「兄さんは、もっと自分のことを考えてください……」
「そうだな、善処するよ」
「ホントにー?」
ミノリは俺にそう訊いてきた。まったく、さっきまであんなに泣いてたのに……切り替えの早いやつだ。
まあ、そこがミノリのいいところでもあるんだけどな。
「しつこいぞ、ミノリ」
「ふふふ……冗談よ、冗談」
ミノリはそう言うとクスッと笑った。あれ? また何か大事な事を忘れているような……。
俺がふと、そう思った時……。
「あ、あの……」
背後から声が聞こえた。ハッとなって振り向くと先ほど結界(?)を解除した天使が立っていた。(俺は座っている)
「す、すまない! 完全に存在を忘れていた!」
「いえ、私は大丈夫です。それにしても……」
その子が微笑みを浮かべていたのを俺は不思議に思った。
「なんだ? 何かおかしかったか?」
「いえ、そんな事はありません。ただ……」
「ただ?」
「ただ、あなたがちゃんとこの子たちの面倒を見ていることに少し驚いただけです」
「そ、そうか……」
「はい、そうです」
俺がその子と話していると、ミノリたちが話に割り込んできた。
「あんたが最後の一人なのね! 初めまして、あたしは『ミノリ』。一応、このパッとしないやつの未来の妻よ! これからよろしくね!」
「おい、『パッとしない』は余計だろ」
「あら、あたしは事実を言っただけよ?」
ミノリがこちらを見ながら、あたかも自分が正しいと言わんばかりに笑みを浮かべていたため、俺は成す術なく……。
「そうか……」
そう言った……。まあ、言わざるを得なかった……の方が正しいかな……。
「そ、それって本物の『天使の翼』なんですか?」
「えっと、あなたは?」
「あ、えっと。私は『マナミ』です。あと私の後ろに隠れているのが」
「シオリだよー、これからよろしくねー」
「はい、こちらこそ。よろしくお願いします」
「うん!」
「と、ところで! その……せ、背中に生えているのは……」
「ああ、これですか? これは……本物の『天使の翼』です」
「そ、それじゃあ、空を飛べるんですか!」
「はい、飛べますよ。でも、私は翼をうまくコントロールできないので普通の人にも見えてしまうんです」
「え、えーっと、その……わ、私はただ、本当に『天使型』がいるとは思わなかったので、つい……」
「まあ、私の他にも何人かいますから、そのうち会えると思いますよ」
「ほ、本当ですか!」
「はい、本当です」
なぜか目をキラキラさせながら、その子と話しているマナミ(茶髪ショートの獣人)の姿を見た時、俺はこう思った。マナミは、まだサンタさんの存在を信じていそうだな……と……。
「ちなみに、その翼で、どこまで飛べるんですか?」
「えっと、あなたは?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は変身型スライムの『ツキネ』と申します! 今はこんな姿ですけど本当の私はもっと小さいんですよー」
「なるほど、今はその体に変身せざるを得ない……ということですね」
「その通り! さすがは『天使型』ですね!」
「そうですか? そんな事ないと思いますけど」
「いえいえ、そんな事ありますよー」
かなりハイテンションなツキネは夢中になってその子と話していた。
まるで、古代の財宝を見つけた探検家のように。
さて、そろそろ俺の仕事をしようかな。俺はミノリたちをその子から遠ざけると、こう言った。
「なあ、お前ら。何か大事な事を忘れてないか?」
四人にそう訊《き》いたが、誰一人として、それに気づいていなかったため。
「この子の『名前」を考えることだろう?」
俺は仕方なく答えを出した。
すると全員が「あー、そういえば」というような表情をしたため、完全に忘れていたことが分かった。まあ、俺もさっき気づいたんだけどな……。
「それじゃあ、まずは部屋に戻って、この子の名前を考えるぞ! いいな?」
俺が四人にそのことを伝えると。
『はーい!!』
四人は、そう言うと、部屋の中に入っていった。よし、じゃあ、俺もそろそろ行くか。
俺が一歩前に足を踏み出すと、その天使は俺の右側を通り過ぎる直前に。
「いい名前を付けてくださいね?」
そう言って、さっさと部屋の中に入っていった。俺はその子が通り過ぎた後、小声で。
「ああ、任せとけ……」
とだけ言って部屋に入った。さぁ、名付けタイムの始まりだ……!