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光刃が唸りを上げ、リオの脇腹を裂いた。
壁に叩きつけられた衝撃で視界が揺れる。
「……ッ、ぐ……!」
レアは口角をつり上げ、楽しそうに跳ねるように近づいてきた。
「――あーあ、バレたバレたバレたバレたぁ」
ガラスが割れるような笑い声。
狂気そのものの瞳がリオを見下ろす。
「カシウスの差金か……!?」
リオが歯を食いしばって呻くと、
レアは首をかしげ、首筋の黒いスカーフをふわふわ揺らした。
「さしばね?……あ、差金?
よくわかんないけどさぁ、別に頼まれてないよ?」
「……何だと……?」
「カシウス様の邪魔してんだろ? お前」
レアは子どもが秘密を暴くように、わざとらしく囁く。
「だからねぇ! あたしが先まわりして、殺してあげるんだよ。
喜ぶかなって! いい子いい子してくれるかなって思ってさぁぁぁ!」
「……っ、狂ってる」
「はぁぁ? あたしは“特別”なんだよ」
レアは胸を叩く。
「カシウス様にね、この体もらったの。恩返しだよ」
「体を……“もらった”? どういう意味だ」
「うるせー、うるせー!」
レアは光刃を左右に振り回しながら、甲高く笑った。
「ようやく“当たり”引いたのにさぁぁぁ!」
「当たり……?」
リオの拳が震えた。
「貴様……俺を殺すためだけに、関係ない四人を……!」
「若い男でぇ、りょう?リオ?って名前しか覚えてないからさぁ。
それっぽいのから順に殺してけばさ、いつか当たるじゃん?
数撃ちゃ当たるってねぇぇえ!」
怒りが脳を焼く。
リオは胸の底から叫んだ。
「人の命を……なんだと思ってる!!」
「命?」
レアは鼻で笑い、手首を掲げた。
制服の袖を破り捨てる。
露わになった肌に――
三重の魔術紋。
そして首筋には、黒い痣と複雑な呪紋が刻まれていた。
「データだよ。デ・ー・タ!」
レアは爪を立てるように空を切る。
「肉体に入ってるデータ!
お前らが“命”って呼んでるだけーー!」
「……命は、データなんかじゃない!!」
リオが怒号を上げた瞬間――
レアの光刃が横薙ぎに閃いた。
「死ねぇぇええ!!」
リオは捕縛魔術の紋を即座に描く。
「――《拘束術式・第三級》!」
しかし光刃の速さが一瞬だけ上回る。
リオは弾き飛ばされ、壁に背中を強かにぶつけた。
(……まずい、このままじゃ……!)
レアは狂笑しながら、再び刃を構え――
「おらァ、動けよリオォ!!」
刃が振り下ろされる、その瞬間――
「リオぉぉ!! 下がれッ!!」
轟音と共にドアが蹴り破られた。
アデルが白外套を翻しながら飛び込む。
「《捕縛術式・上級・縛陣》!」
幾重もの魔術紋がレアの周囲に展開した。
「うっざあああああ!!」
レアは狂ったように暴れる。
光刃が魔術陣を切り裂こうと暴れ狂う。
リオも歯を食いしばり、立ち上がった。
「アデル……っ、!
《捕縛術式・第三級・束縛鎖》!」
二人の術式が重なり――
レアの全身をぐるぐる巻きに縛り上げた。
「ぎゃああああああああああ!!
離せ離せ離せ離せ!!!」
床に倒れ込み、暴れ続けるレア。
アデルが息をつき、リオのもとに歩み寄る。
「ふーー。……リオ。
捕縛魔術・第三級――合格だ」
リオは壁に手をつき、息を震わせながら微かに笑った。
「……こんな形で合格するとは、思わなかったよ……」
アデルは小さく苦笑し、彼の肩を支えた。
「医療班を呼ぶ。動くな」
レアは床の上で悔しさに歯を軋ませ、
拘束魔術に締め上げられながら叫び続けた。
「あああああーーくっそおおおおお!!!!
カシウス様ぁぁああああああ!!」
その叫びは、石造りの要塞の奥へ深く反響していった――。