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第零章 【プロローグ】
ずっと、灰色だったこの世界に。ずっとひとりぼっちだった私に。
救いの手を差し伸べてくれたのが貴方だった。
だから、今度は私が助ける番だね。
第一章 【 出会い 】
綾瀬 「………。」
今現在時刻は、昼。ちょうど昼休みの時間だ。そろそろお弁当を食べ始めないとギリギリ間に合うか、間に合わないかぐらいの時間だった。私は、仕方なく席を立って誰もいなさそうな場所を探して廊下を歩き回る。
私はいつも一人だ。頼れる友達も居なければ、親は弟ばかりに構っていて此方には見向きもしない。そんな日常に嫌気がさして、このまま飛び降りてしまおうか…。と思った時すらあった。
ただ、それはすごく“怖かった“。想像の十倍。いや…百倍。私にはこの地獄から抜け出す勇気も新しいところへ踏み出す勇気もなかった。
だから私は、この汚い世界で。誰も手を差し伸べてくれないそんな世界で、生きていくことを誓った。
誰に何を言われようが、持ち物を隠されようが。私は大丈夫。私は強い、負けない。絶対。
下を向いて歩いている内に、なぜかいつもとは真逆の何もないと言われている道へ来ていた。正直こんな場所があったことに気づいてすらいなかった。だって、ここには何もないはずだから。そのぐらいに廃れていたから。
そう、この場所はみんなが普段過ごしているような教室がある棟ではないし、移動教室に使われる道でもない。
だから、誰も近寄らない。そのせいか、ここの空き教室の存在にだって気づかなかった。
ただ、この発見は私にとっては都合が良かった。多少廃れてはいても、空き教室の中までには被害がないみたいなので、この中で昼休みぐらいは過ごせるだろうから。
私は、数回深呼吸をして、ドアに手をかける。長年使っていなかったのか、少し錆びているようで、開けるのに手間取ってしまう。
誰も居ないとは分かっていても、やっぱり勝手に入っているのだから…と遠慮して、私は一番後ろの席に座る。そして、すぐさまお弁当を広げて食べ始めた。
後十分で食べれるかはわからないけれど、どちらにせよお腹は空いていたので、とにかくがっつく。誰にも見られていないのだから、周りなど気にする必要もない。
私は久しぶりに安心して食事ができたからか、五分もすればお弁当を食べ終わってしまっていた。流石に少なすぎたかな…、なんて今朝の自分を恨みながらも残りの五分をどう過ごすか悩んでいた。
今から他の場所を探検するのは絶対に無理だろうと分かっているが、教室に帰るのも嫌だ。
だとしたら、ここで過ごすしかない。ただ、こんないい場所を見つけられるとは思っていなかったからか、スマホを教室に置いてきてしまった。こうなったら他に時間を潰せるものがない。
しょうがないからこの教室を色々と見て回る。特にこれといって特別なものがあるわけではないけれど、なんとなく安心感がある。木の香りと使い古された机や椅子たち。
隅々まで見ていると、五分なんてあっという間だった。予鈴が鳴ればそろそろか。と空になったお弁当箱を持って空き教室を出る。この場所が誰かに見つかって揶揄われるのはごめんだったので、誰もいないかを確認しながら恐る恐る扉を開けた。
ガラッ…。私が扉を開ける直前に私ではない誰かが扉を開けた。まさか、もうバレてしまったのだろうか。と暴れ始める心臓を上から押さえつけて、この教室に入ろうとしてきた人が誰なのか確かめようとする。
ガラッと音がしてから五秒ほどでこの教室に入ろうとしている人物の顔を見ることができた。その顔を見て、私は目を見開いた。
同じ学年の隣のクラス。名前は知らないけれど見たことがある人だった。特に悪目立ちをしているわけではなく、ただ、容姿に少し特徴がある子だ。
金髪に黄色の目。バサバサのまつ毛を見るたびに私のまつ毛とは比べものにならないな、と感じるほどだった。見つめられると吸い込まれそうな感覚に陥る。そんな瞳。その瞳が今私を驚いた顔で見つめている。…困る。
この人がここにいるということは、きっとこの人の方が最初にこの場所を見つけていたということになる。それに、嫌われているわけでも何か劣っていることがあるわけでもないこの人がなぜこんな場所に来るのか、理解ができない。
もし、私がここにいたということを誰かに話されれば、私の学校生活はもっと暗闇の中に引き摺り込まれるだろう。そんなの嫌だ。私は別に悪いことなんてしてないのに…。あの時だって、私はただ、庇っただけだったのに。
綾瀬 「お願い!私がここに居たこと誰にも言わないで…」
気づけばそう口を開いていた。きっとこの人から見れば私はどうでもいい存在なのだろう。だからこそ、私の秘密をバラしたところでメリットもデメリットもないはずだ。だったらきっと頼めばバラさずにいてくれるだろう、そんな軽い考えが私の頭の中に微かにあった。別に、口に出すつもりは全くなかったのに。
ただし、彼は私が考えている反応と全く別の反応をとった。そう、首を縦に振るのでも横に振るのでもなく、ただ一言こう述べた。
“虐められてるんでしょ?綾瀬さん“
一瞬、時が止まったような気がした。彼が私のことを知っていると思っていなかった、名前も。勿論学校生活についても。なぜ知っているのだろうか。
もしかしたら、話しかけずに素通りした方が良かったのかもしれない。きっとこれからの学校生活はまた闇の底に沈んでいくはずだ。
そう考えれば、私は絶望を隠せなかった。