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「ふぅ……」
授業が終わって、短いため息を零してしまった。
とりあえず、今日の学校は終わったけども……眠い。
昨日のアルバイト、というかガンサバにおいて“賞金首”としてのお仕事。
その一発目を終わらせた興奮が全然抜けきらず、もっとやりたい! 練習したい! と兄にゴネた結果。
いつも使っていたアカウントは今後運営用というか、昨日みたいな活動をする為に使ってもらうから普通にゲームするのは今のところ禁止、だそうで。
うわぁぁぁ! って悲鳴を上げた私に、兄が練習用のステージを用意してくれたのでソッチをずっとこなしていた。
やればやる分だけ経験値が貰えて、その数字を使ってキャラも強化出来るのだから、やるしかない。
などと深夜まで続けていると、兄が帰って来る時間となり。
その後は約束してあったモデルガンを頂き……これまた、眠れなくなってしまった。
いい加減寝なさいと怒られても、布団を被った状態でカチャカチャ弄り回してしまう始末。
初めて触ったけど……楽しいね、あぁいうの。
ガションッ! って金属っぽい音が上がるだけでテンションが上がってしまい、結局明け方になってやっと眠りについた程。
登校の時間に差し掛かったところで、呆れ顔の兄から起こされ。
慌てて学校へと走るという朝を迎えてから……今に至る、という訳である。
眠い、とても眠い。
明らかに睡眠時間が足りていない。
今日ばかりはゲームをお休みにして、家の事と睡眠時間に費やした方が良いかも。
本来ならそんなの休日にやりなさいよって話なのだが、生憎と休みの日程ゲームがしたくなるというもので。
ぐぬぬっと悩みながら帰りの支度を進めていれば。
「これ、やっぱ未実装のハンドガンだよね? 何処のショップにも置いてないし、ゲームの掲示板とか見ても発見されたって話出てこないし。倒したらコレがドロップするのかな?」
「かぁぁっ、俺も欲しいぃ! しかもこのプレイヤーの見た目がヤバ過ぎるでしょ、似合い過ぎでしょ! キャラクリからやり直そうかなぁぁぁ!」
「まぁた始まった。まともに戦える様になるまで、何回経験値稼ぎに付き合わされたと思ってんの。いい加減にしろよなぁ?」
何やら、教室内から興味深い話声が聞こえて来て。
いつもならすぐに帰路を着くところ、席に座ったまま聞き耳を立ててしまった。
もしかして、もしかすると。
ガンサバの話でしょうか!? 私も混ぜて! なんて、声が掛けられる筈もなく。
スマホを見ているフリをしながら、耳に神経を全力で集中させた。
「でも何度見てもすげぇよなぁ……ハンドガンなんてサブウェポンでしかないでしょって感じなのに、それがメイン武器って。縛りプレイかよって感覚だけど、だからこその“賞金首”なんかね?」
「ロマンでしょロマン、マジであの運営分かってるよ。他の賞金首も、それぞれ得意分野が違うって話だし。全武装にそれぞれ強い人を配置したとしか思えない」
「俺も新規キャラでハンドガン縛りしようかなぁ!?」
「「うるさい、マジで」」
聞いている限り……やはり、あのゲームの話? っぽい。
いいよ、ハンドガンは。
私は他の武器に詳しくないから使ってない、ってだけなんだけど。
でもアレだけでちゃんとクリアできると、凄く達成感あるよ。
などと、明後日の方向を見つめながらニヤニヤしていると。
「でもさ、流石にあの動きは間違いなくシステムアシストでしょ。運営側だからって、好き勝手にやってる感じじゃねぇか? 賞金首なんて言っても、やっぱプレイヤーとは土俵が違うって雰囲気しかねぇよなぁ」
三人いた内の一人の言葉で、ピタッと身体が固まった気がした。
確かにお兄ちゃんのサポートは貰ってたし、兄は運営陣である以上言い訳は出来ないかもしれない。
実際武装だって用意してもらったものだし。
けど多分、彼が今言っているのは“チート”って意味合いなんだと思う。
「重武装の集団相手に、メイン武器ハンドガンって。流石に現実感なくね? オートエイムとか、銃の威力何倍とか、そういうの使ってないと無理でしょ。普通に出来たら人間技じゃねぇって」
使ってないもん、そんなの。
お兄ちゃんのサポートだって、ユーザーでも再現可能な範囲でしか手を貸してくれてないし、操作してたのはちゃんと私だもん。
銃の威力だって、初期ハンドガンに比べれば性能は良かったけど……それでも現状ゲーム内で手に入れられるハンドガンでも、アレ以上の性能になるって言ってたし。
だから間違っても、“ズル”だけはしてない。
ログイン場所を操作したり、何もしてない私が武装を貰ってる時点でズルだって言われれば、確かにその通りなんだけど。
けどプレイに関しては、チートなんか一つも使ってない。
それなのにこんな事を言われてしまうと……なんか、凄く悲しくなってしまった。
だからって私のアバターのステータスを見せる訳にもいかないし、此方が運営に関わっていると情報を洩らす訳にもいかない。
なので、口を紡ぐしかない。
ただただ、言われた事をそのまま受け入れるしかない。
そっか、運営側に立つってこういう事なのか。
何か気に入らない事があったり、少しでも“疑惑”が持たれれば。
それを声にされても、反論が許されない。
そんな事をした瞬間に、“会社”のイメージに関わってしまう。
商品のレビューって、どんな物でもネットで見る限り結構キツイ事を書かれている事もあるけど。
お兄ちゃん達は、普段からこんな心無い言葉で攻撃されながらもゲームを作っているのか。
反論する訳でも、反撃も出来ずに。
ユーザーの批判的な声ですら受け入れながら、ユーザーが楽しめる物を提供しようと頑張っているのか。
内側と言ったら良いのか……運営する側がどれ程大変なのか、どんなに頑張っているのかも知らないで。
自らの思った事を、要望や願望を……声を大にして言い放つ。
それは消費者にとっての特権だから、当たり前の事。
こればっかりは仕方ないし当然の事だって、ちゃんと分かっているけど。
違うもん、チートなんか使ってたら、あんなに大変じゃないもん。
一戦やっただけでも物凄く体力使ったし、休憩しないとボーっとするくらい頭が疲れたもん。
ちゃんとやって、お兄ちゃんの役に立とうって本気だった。
皆に楽しんでもらおうって、お兄ちゃんは毎日遅くまで頑張ってるもん。
社会人ってこんなに大変なんだって思ってしまう程、心配になるくらい働いてるもん。
などと考え始めればジワリと涙が浮かび、小さな嗚咽が零れ始めてしまった。
教室で急に泣き始めたら絶対変な奴だって思われるから、どうにか声を抑えようと我慢するが。
なかなか上手くいかず、下校時間になった教室内では小さな声さえも皆の耳に届いたらしく。
「ば、場所変えるか……」
そんな事を言って、先程の三人は教室を出ていった。
他の生徒も此方の様子に気がついたらしく、どこか気まずそうな表情を浮かべて教室を後にする。
あぁ、これはやらかした。
明日から余計に、私は変な子扱いされる事だろう。
未だ溢れて来る涙をゴシゴシと拭って、思い切りため息を零す他無かった。
まぁ……今でもぼっちだから、別に変わる事なんか無さそうだけど。
なんて、思っていたのだが。
「あ、あのさ……白川さん、大丈夫?」
「…………ぇ?」
さっきガンサバを話していた内の一人が、戻って来ていた。
酷い事を言っていた人ではなく、妙にテンションを上げていた人でもない。
“運営は分かってる”的な発言をしていた、様な気がする人。
当然私は、このクラスの男子と喋った事などないので、ろくな反応を示す事など出来ず。
というか声を掛けられた事に驚き過ぎて、完全に固まってしまった訳だが。
「なんか、あった? えと、別に、その……俺に相談してとか、そういう事を言うつもりじゃなくて。あの、大丈夫かなって……保健室とか、行く? どこか痛いとか、苦しいとか……ある?」
どうやら相手も、此方と同じ様に対人に慣れている訳では無いらしく。
視線をあっちこっちにやりながらも、身振り手振りを添えながらそんな事を言ってくれた。
もしかして、単純に心配させてしまったのだろうか?
だとしたら、不味い。
違うって、ちゃんと言葉にしないと。
「ぁ、のっ! ……ちが、くて。私、その……」
「えぇと、うん? 別に、体調悪いとか……そういうのでは、無い?」
相手の言葉に、首がもげるんじゃないかって程にブンブン縦に振ってみると。
向こうはホッと胸を撫で下ろしてから。
「そ、そっか……なら、良かった。気になって、戻って来ちゃって。ホントに、平気? 無理とか、してない?」
「だ、だぃじょ……ぶ、です」
もはや、二人共顔真っ赤。
完全に俯きながら、ボソボソと会話している状態。
コミュ力! お願いだからコミュ力のステータスを上げさせてほしい!
もしくは表情のパラメーターをゼロに設定させて!
などと心の中で悶絶しながら黙っていたのだが、相手もまた気まずそうにポリポリと頭を掻きながら。
「なら、ぇと……よかった。それじゃ、あの……俺、帰るね?」
それだけ言って、それじゃとばかりに片手を上げたところで。
「あ、のっ!」
「え?」
心配してくれてありがとうって言うのと、出来れば……6keyはチートなんか使ってないって言いたかったけど。
流石に、後者は言っちゃ不味い。
なので、どうにか前者だけでも伝えようと思ったのだが。
緊張し過ぎで、言葉が上手く出てこない。
パクパクしながらも、真っ赤な顔で再び俯き。
「ガン、サバイブ……オンライン」
馬鹿っ! そっちじゃない! むしろそっちは言っちゃ不味い!
もはや完全に頭の中がバグっていた。
よりによって、緊張のあまり自分から地雷に踏み込んでしまったではないか。
余計にパニックに陥り、心の中では全身を使ってバタバタと暴れていると。
「知ってるの!? というか、もしかしてやってる!?」
相手は、急に食いついて来た。
なんかもうキラキラした眼差しを向けながら、ズイッとこっちに身を乗り出して来たではないか。
これによって、更にパニック。
「し、知って……る、けど。その……」
どうしようどうしようどうしよう。
これどうすれば良い!? ねぇどうすれば良い!?
もう完全に思考回路が真っ白になって、兄にヘルプコールを送りたくなって来たところで。
「もしかして……やってはないけど、興味はある……みたいな? そうだよね、思いっきり男性向けというか。ガッツリ鬼畜ゲーだし、何も知らずにやったら何回ゲームオーバーになるんだってゲームだよ……ね」
それは分かる。
聞き耳を立てていても、周りの女の子が私のやってる様なゲームの話をしているところなんか遭遇した事無いし。
あとお兄ちゃんの所のゲームは、基本鬼畜難易度。
こればかりは否定しようがない。
という事で、ブンブンと再び首を縦に振ってみると。
「だ、だったらさ! もしもプレイする時があったら声掛けてよ! あ、その……男女の云々じゃなくて、単純に俺ガンサバ滅茶苦茶好きでさ! 困った事があったら協力するし、一緒にやる友達が欲しいんだよ!」
ゲームの話になった瞬間だけは、滅茶苦茶グイグイ来る人だった。
気持ちは、物凄く分かるけど。
という事で、コクコクと頷きながら私の連絡先をスマホに表示して差し出してみると。
「え、あ、教えてくれるの? あ、ありがとう! あ、でも安心して! ウザ絡みとかしない様にするから! でもゲーム始める時は、声掛けてくれると嬉しいっていうか……えっと!」
「ぅ、うん……“ちゃんと”やるってなったら、声……掛ける、ね? 私も、協力プレイ……やって、みたぃ……って言うか……」
ポソポソと小さな声で答えてみると、相手は満面の笑みを浮かべてから連絡先を交換。
こちらのアドレス帳に相手の名前が登録された事を確認してみると。
“黒沢 現太”君。
おぉ、白黒コンビになってしまった。
などと、訳の分からない感想を思っている内に。
「それじゃ、始める時は声掛けてね! 楽しみにしてる!」
ブンブンと元気よく手を振って、教室から出ていった。
その後ろ姿を見つめながらも……コミュ力、高いなぁって感心してしまったのであった。
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