テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ビルの屋上、双眼鏡越しに血に染まった公園を見ていた飯田は、高良が倒れた瞬間、快感に似た震えを感じていた。
「……へへっ、いい気味だ。高良の兄貴まで消えれば、俺の嘘を知る奴はいなくなる」
彼はすぐさま事務所へ戻り、悲劇のヒロインのように涙を浮かべて報告した。高良が「卑劣な闇討ち」に遭い、瀕死の重傷を負ったと。
激昂した組長は、ついに奥の手を出す決断をした。
「……喜三郎を呼べ。あの化け物を、この街から完全に消去しろ」
その頃、街の見回りをしていた風祭喜三郎は、静かにスマートフォンのバイブ音に指をかけた。
「……はい、風祭です」
組長からの、これまでにないほど重苦しい命令が下る。
『喜三郎、高良がやられた。相手は例の銀色の仮面だ。……手段は問わん。奴の首を獲れ。小笠原の威信にかけてだ』
「……高良が。承知いたしました。……力押しの怪物には、それ相応の『檻』を用意しましょう」
風祭の声は、凪いだ海のように静かだった。
一方、葉弐は火野が呼んだ救急車で病院へと運び込まれていた。
手術室の赤いランプが点灯し、緊迫した時間が流れる。
「血圧低下! 止血を急げ! 弾丸の摘出を開始する!」
医師たちの怒号が飛び交い、機械的な心拍音が室内に響く。
肺をかすめた銃弾と、脇腹の深い裂傷。常人なら即死していてもおかしくない傷だったが、彼の強靭な生命力が、辛うじて彼を現世に繋ぎ止めていた。
五時間に及ぶ手術が終わり、夕闇が病室を包み込む頃。
葉弐は、消毒液の匂いの中でゆっくりと瞼を持ち上げた。
「……起きたか」
「……生きてるみたいね、あんた」
パイプ椅子に座っていたアホライダーと火野の姿を見て、葉弐は掠れた声を出した。
「……最悪だ……。なんで、起きて最初に見るのが、お前らの顔なんだよ……」
火野から事の顛末――高良が闇医者に運ばれ、飯田の嘘が半分暴かれかけていること――を聞かされると、葉弐は包帯に巻かれた腕でアホライダーを指差した。
「お前の……お前のせいだからな……! 効率悪いなんてもんじゃねえぞ、バカ……!」
涙目で訴える葉弐に、火野は珍しく少しだけ柔らかな表情を見せた。
「……まあ、見直したわよ。あんたがあそこまでやるなんてね」
火野は無造作に、持っていたリンゴの皮をナイフで剥き始めた。だが、剥かれたリンゴは皮がガタガタな上に、切り分けもされていない丸のまま。
「ほら、食べなさい」
「……お前、本当に見直してんのか? 嫌がらせだろこれ……」
毒づきながらも、葉弐は全力でそのリンゴにかじりついた。
その頃、風祭は高良が運び込まれた病院を訪れていた。
酸素マスクをつけ、無数の管に繋がれた高良の姿を見て、風祭の細い目が鋭く細まる。
「……あの高良をここまで。フン、面白い」
風祭はすぐさま構成員たちを郊外の廃工場へ集め、コンクリートの床に地図を広げた。
「作戦を伝える。……あの銀色の化け物は、単体なら無敵に近い。だが、機動力だったあのガキは今、病院のベッドだ。……今なら確実に仕留められる」
風祭は冷徹に指を指し示した。
「まず、街中で派手に暴れろ。わざと荒っぽい取り立てを行い、騒ぎを起こす。正義感ぶったあの男は必ず食いついてくる。……奴が現れたら、お前たちは戦わずにこの廃工場へ誘導しろ」
彼は周囲を囲む構成員たちを見渡す。
「中に入った瞬間、すべてのシャッターを下ろせ。奴の怪力も、振り回す空間がなければ意味をなさない。鎖とワイヤーを使い、数人がかりで四肢を絡め取れ。動きさえ封じれば、ただのデカい人形だ」
風祭は最後に、冷たく笑った。
「仕上げに、女を人質にする。……仲間を人質に取られた時、あの怪人がどんな面をするか見ものだな」
夜の廃工場に、構成員たちの低く不気味な笑い声が響き渡った。