空色を膝に乗せ庭を眺める。邸の庭にもこうして硝子を細工した燭台を数多置けばこれも喜ぶだろうな。
「美しいな」
ええ、と空色の瞳を庭に向ける横顔に見入る。幼い顔に化粧を施す空色も美しい。
「キャスリン」
「なあに」
「俺はお前の予想より早く逝く」
庭を眺めていた空色が俺に向けられる。
「なぜ?」
「年寄の倒れた理由が毒ならば俺も受けているからだ」
空色は顔色を変えず俺を見つめる。
「ゾルダークの後継はあらゆる毒に体を慣らす。俺もだ」
空色は微動だにしない。瞳には俺を映し言葉を待っている。
「奴は媚薬しか慣らしていない。お前の子もそれでいいだろ。敵から守る方法は他にもあるからな」
この前ライアンを送った時は軽い症状だったがこの短期間で倒れるまで悪くなり、動けなくなっているならば年寄の寿命が来たんだろ。
「ゾルダークの当主に短命が多かったのはそれが理由なの?」
俺の寝室に置いてあるゾルダークの歴史の書物には真実が記載されている。ドイルは知ってるかもしれんが、公にされている家系図には手が加えられ改竄されてる。本物は奴も見たことはない。当主が受け継ぐ書物だ、これはすでに読んでいる。敏いから違いには気づいたろうな。
「ああ、それも俺で終わるがな」
毒の種類が増えた。全てに耐性など無理な話になったからな。
「年寄が六十を過ぎてるのは事実だ。長生きした方だな」
過去には四十前で逝った者もいたが、与え方を探っている時期の当主だった。それからは金で買った者で試し、研究され最適な量を導きだした。高祖父以降は五十から六十が命の期限となっている。その年ならば後継も育ち、この世に用はない。
「閣下も老公爵様まで生きる?」
「無理だろうな」
「どうして…」
「年寄以上の毒を受けているからな」
これには見せてないが歴代当主が受けた毒は記録されている。自身の受けた毒は知っているんだ。毒がどう作用したかはわからんが、俺の体は大きく屈強になった。年寄など顔しか似ていない。
空色は顔を庭に戻し煌めく夜を見ている。
「約束は守るのよ。共にゾルダーク領の森を歩くの」
「ああ」
「側を離れないわ」
「ああ」
「約束は守るのよ」
「ああ、連れていく」
空色は俺に瞳を戻し、小さな手で俺の頬に触れ撫でる。
「俺は最期の時、お前の空色を見ながら逝きたいんだ」
俺の願いだ。叶えてくれるだろ?耐えてくれるよな。
「わかったわ。ハンクの黒い瞳を最期まで離さない」
死の覚悟などとうの昔に終えてる。だがお前に出会ったからな。死への恐怖は湧かないが、空色を見れなくなるのは寂しいんだ。
「直ぐに追いつくわ、少し待ってね」
お前の意志は変わらんか。変わっても責めなどしない。お前の時は長いだろう、子を産んでもお前は若く美しい。
「ハンクにお願いがあるの」
「叶える」
俺の顔をなぞる手がくすぐったい。空色は笑ってる。
「棺桶には二人で入りたいのよ」
「わかった。特注だな」
「ええ、隠しておいてね」
そうだな、奴が知ったら壊しそうだな。
俺と出会ったお前は幸せだと言うが、お前の家族は嘆くだろうな。俺達の子も恨むかもしれん。俺は先に逝く、後はお前が決めたらいい。俺は最期の時までお前をもらう。
ハンクの告白を落ち着いて聞いた自分に少し驚く。ハンクの寝室に置いてあるゾルダークの歴史の書物は歴代当主の没年が私の学んだものと違っていることには気づいていた。私が学んだものが改竄された書物。五年足した人や十年足した人もいた。
老公爵様より多く毒を受けたのなら仕方がないわ。ハンクの先が短いと知ったら共に逝かないと疑ったのかしら。私にはレオンがいるから不安になったのかもしれない。まだ時はあるわ。レオンには信頼できる人を側に置けばいい。私に真実を告げないこともできたのに、誠実な人ね。貴方の願いは叶える。黒い瞳を見つめているわ、泣いても許して。
目の前にあるハンクの顔を手で包み口を合わせる。
「帰りましょう?」
紅がついた厚い唇を指で拭う。
「ああ、お前と繋がりたい」
朝も繋がっていたのに、どうしてハンクは精力的なのかしらね。
「私も」
ハンクは私を立たせてから立ち上がり、腕を曲げる。私達は会場へ戻り、ハンクは周囲を睨みながら出口へと向かう。夜会嫌いの公爵と体調を崩した小公爵夫人の早い退場に、誰もなにも言えない。
ゾルダークの馬車留まりには付き添ったハロルドが馬車の前で待っていた。ハンクが先に乗り私が後に続く。ハロルドが扉を閉め一揺れした後に馬車は動き出す。
隣に座る空色を捕まえ膝に乗せる。ドレスを捲り上げて下着をずらして秘所に触れると子種の名残を感じる。小さな手で口を押さえ声を我慢しているが、俺は口を合わせたい。
「空色、口を寄越せ」
赤い口が現れ俺はそれに食らいつく。荒い呼吸が車内に満ちて、陰茎は痛いほど硬くなっている。舌に吸い付き俺の中に入れて絡め合わせて唾液を飲み込む。空色に跨がらせトラウザーズの腰紐を緩め陰茎を取り出しぬるつく秘所に入れていく。細い体を抱きしめ隙間をなくし、一つになる。腰を動かさなくても馬車の揺れで奥を突いてしまうな。甘い鳴き声も俺の中に入れていく。中は収縮を始め勝手に蠢き、愛しい体は震えだし陰茎から子種を出せと求めているようだ。空色の中は心地いい。邸に着くまでは全てで繋がっていたい。
着くまでの半時は入れたまま、二度子種を注いだ。溢れた子種とこれの出した液でドレスも俺も汚れた。
「待ってろ」
外で待つハロルドに告げる。抜かねばならんな。空色を持ち上げ下着を直す。マントで俺の体ごと空色を包み、袖で口周りを拭う。
「開けろ」
これの顔も髪も邸を出た時と違ってしまったが隠しておくからいいだろ。
開いた扉から外に出るとソーマが待っていた。
「おかえりなさいませ。カイラン様がお待ちです」
「早いな、深刻ではなかったか」
ソーマの表情は暗い。よくない報せか。そのまま邸に入り自室へと向かう。
「湯は?」
「できております」
「執務室に呼べ」
「扉の前でお待ちです」
年寄が話したか、それで急いで戻ったか。
ソーマの言うとおり扉の前には旅装から着替えもせず息子が立っている。
「父上、キャスリンと夜会に行くとは…」
俺の膨らんだ体を見て察したのか顔を歪める。
「声を上げるな、寝てる」
空色は二度目に注いだときには意識を飛ばしていた。馬車の揺れが善かったらしい。
首を傾げ開けろと命じる。中に入り空色を抱いたままソファに座る。対面のソファを顎で示し息子を座らせる。
「死んだか?」
「いえ、ですが本人が起き上がることは無理だろうと」
やはり聞いたか。貴様は長生きするだろうよ。
「用は?それだけか」
「お祖父様に聞きました」
「だからなんだ」
俺に似た若い顔が険しくなり体を震わせている。
「知っていて連れて逝くと言ったのか」
「ああ」
「父上、愛しているのなら説き伏せてくれ」
「これが望んでいるのにか」
「キャスリンは父上が長くないと知らないだろう?」
「話した」
体を揺らし拳を震わせている。
「それでも望んでる」
どうしてこいつは泣くんだ。
「俺はこれの憂いが残らんようにして逝く」
そうすればこの世に未練はないだろ。
「だが、選ぶのはこれだ。俺の死を看取り生きるのを選ぶならそれでもいい。貴様の言葉も聞かず逝きたいと願うなら叶えてやれ」
「父上の言葉なら聞くだろ!僕の言葉なんて聞かない!」
マントの中の空色が動く。こいつの声が届いたか。
「まだ逝かん。時はある。もう一度くらいは孕ませたいんだ」
子が増えた時、これの考えが変わったならそれでもいいんだ。空色がこいつに触れられたくなければ毒を与えればいい。
「これに決めさせろ。無理強いはするな」
目の前で項垂れる息子を見る。育つ環境でこうも違うか。感情を多く持つのも面倒なもんだ。俺達の子はどうなるか。
マントの中で小さな手が俺の服を掴んでいる。聞いていたか、俺は共に逝きたいが、それまでのお前の若い時を俺の側で過ごさせ閉じ込める。お前には自由も与えたいんだ。俺が生きている間はできないからな。
「もういいか、湯に浸かる」
マントの中の空色が俺に身を寄せるのを感じる。中から子種が溢れて下着を汚しているだろうな。
「キャスリンは…」
何を言いたい。俺が死んでからは貴様の好きにできるだろ。待つ覚悟をしたならそれを保て。当主になったら貴様に逆らう者などいないんだ。俺が死んだ瞬間これに睡薬でも与えて手に入れればいい。俺ならできるが貴様は弱いからな、覚悟など口先だけに聞こえる。
「明日にしろ」
貴様に触れられるこれが頭によぎった。生きる未来をこれが選ぶなら自衛の手段を教えんとな。また泥濘に入らんと落ち着かん。