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細かな雪が舞うなか、葵(あおい)は家路を急いでいた。
身にまとう濃紺の忍び装束が、その姿を真っ暗な闇に溶け込ませている。左手首に白い布を巻き、長く柔らかな髪を揺らして走る葵の大きく丸い瞳が、ふと人の姿をとらえて足を止めた。
一人の男が木の幹にもたれかかって、力なく座り込んでいる。
口からは微かに白い息が漏れていた。目を閉じているのは眠っているからなのか、それとも気を失っているのか。
忍び装束姿のその男は、明らかに忍者だった。
葵は目の前に立って、彼を見つめた。肩や脇腹、腿のあたりに、血の滲んだ跡がある。
忍者なんか連れて帰ったら、絶対に長屋の大家に怒られる。でも、だからといって、こんな寒い中に放っておくこともできない。
そうなると、一番の問題は。
「……どうやって運べばいいかな」
長屋までは、まだだいぶ距離がある。女の葵の力では、そこまで運ぶのは不可能だ。
一向に目を覚ます気配のない男の前に立ちつくして、葵は一人、頭を悩ませた。