三回くらい書き直して、シリアスなのかギャグなのか分からなくなりました。
ぱ視点、💙💛要素強め。
涼ちゃんのカウントがいちを告げた瞬間、右耳に痛みというよりも、じわっとした熱さを感じる。声を上げることはなかったが、音にびっくりして涼ちゃんの背中に回した手に力がこもった。
数秒後、涼ちゃんが俺の耳裏を見て安堵したように息を吐き、ティッシュ、と呟いて身体を起こそうとするから、半ば無意識にぎゅぅっと抱き締めた。
俺の右耳に、永遠に消えない傷ができた。涼ちゃんの手によって付けられたそれは、ずっと俺に残り続ける。涼ちゃんからの贈り物だ。
そう思ったら想いがあふれ出して口からすべり落ちて、目の前の涼ちゃんを抱き寄せてキスをしていた。
涼ちゃんの手はいつも冷たいのに唇はちゃんとあたたかくてやわらかかった。
くっつけただけの、中高生が初めてするような幼いキス。ものにして数秒のささやかな触れ合い。
ゆっくりと離して目を開けると、目をまんまるにした涼ちゃんがいた。
びっくりしてる顔かわいいなとか思ってたら、その目がスッと細められ、少し顔を傾けた涼ちゃんの唇が押し付けられた。
「ん……!?」
今度はこっちが目を丸くする番だった。楽しそうな、でもどこか苦しそうな色が滲んだ目が俺を見つめていた。
薄く開いた唇の隙間から舌が少しだけ口内に入ってきて、え、と思った瞬間に引き抜かれてぺろりと俺の唇を舐めて離れていった。
「……あまりからかわないでよ」
怒りでも呆れでもないひどく平坦な声がそう言って、期待しちゃうでしょ、と寂しそうに笑った。
その笑顔にたまらなくなって、涼ちゃんの肩を掴んで噛み付くように言い募る。
「してよ」
「え?」
「期待、してよ」
「な、に言ってんわッ」
涼ちゃんが言い終わらないうちに細い身体を抱き締める。勢いでする告白なんて、全然ロマンチックじゃないけど、あふれ出てしまったのだから仕方がないと開き直る。
「好きだって言ったじゃん」
「な、や……え? え?」
「好きなんだって、涼ちゃんが!」
少し身体を離して涼ちゃんの頬を両手でつかんで叫ぶ。目を白黒させた涼ちゃんは混乱してますって顔をしている。
「……や、だって若井は女の子が好きじゃん」
少しの間をあけて、涼ちゃんは小さく呟くように言った。
確かに恋愛対象はずっと女性だったし、涼ちゃん以外の男性と付き合えるかと言われたらすぐには首を縦には振れない。
長く付き合っていた彼女がいたこともあるから、涼ちゃんの言葉の意味は理解できる。
でもこれは、俺の中に芽生えた涼ちゃんへの想いは、確かに恋だ。
そうじゃなければ涼ちゃんの耳に傷を残した誰かに嫉妬なんてしないし、涼ちゃんが俺以外と仲良くしていることにモヤモヤなんてしない。大切なメンバーで、前から距離が近かった元貴とじゃれ合いに嫉妬なんてしない。
それに、いつだって笑っていてほしいし、笑わせてあげたいし、泣いてたら慰めたいし、辛いなら傍に居たい。涼ちゃんを笑わせる役目も慰める役目も、全部俺であって欲しい。
ずっと一緒にいたい、一緒に生きていきたいって願うこの想いは、今までは女性に抱いてきた恋愛感情と同じ種類のものだったし、歴代彼女には申し訳ないけれど、今までにないくらい強い情動だった。
なんて説明すればいいか分からなくて答えられずにいると、
「……髪も長いしメイクもするけど、俺、男だよ」
それをどう受け取ったのか、涼ちゃんが困ったように笑って眉を下げた。
そんなん知ってるわ。何年一緒にいると思ってんの?
昔からガリガリで線が細くてふわふわしてても、涼ちゃんが男性なことなんて分かってる。着替えだって何度も見てるし、身長だってあるし意外と腹筋がついてることも知っている。
一緒に暮らし始めて下着一枚でうろついてる姿だって見てるんだから、そんなの言われるまでもない。
きれいになったとは思うけど、女性的だとは思わない。
「俺は涼ちゃんが好きだって言ってんの、男とか女とか関係なく。……涼ちゃんは俺のこと嫌いなの」
断る理由に性別を持ってくる涼ちゃんにムッとして、取り繕うことなく素直な気持ちを口にする。
すると、慌てるでもなく怒るでもなく、もちろん嫌悪でもなく、俺の手に挟まれたまま静かに首を振る。
涼ちゃんの頬が少しだけ赤くなって、触れているところに熱がこもっているのは気のせいじゃないと思う。
「嫌いじゃないよ、好きに決まってるじゃない」
あっさりと好きだと言う。その好きはどの好きなの?
メンバーとしてってだけだから、同じ人間についていくと決めた同志としての好意だから、ダメってこと?
じっと見続けると、涼ちゃんは少し目を泳がせて、言葉を選ぶように口をもごもごさせてから話し始める。
「今さ、ちょっと普通じゃないと思うんだよね」
「……なにが?」
「バンドが休止になって、俺たちの留学の話も消えて……なんと言うか、不安でちょっとギリギリな精神状態じゃん?」
それはそうだ。メンタルもフィジカルも色々と打撃を受けていると思う。
デビューするために、デビューできてからも、今までずっとがむしゃらに走り続けて、このままじゃ駄目だと元貴が判断して、次に進むための足場を盤石なものにするために休止をした。
他でもない元貴の決定だったから、それならその間にそれぞれが成長するために留学しようとしたら疫病が流行してその話自体が消えてしまった。
さらにはメンバーが脱退して、揺るがないと思っていた未来が急に不安定なものに見えて、それでも元貴を信じると決めたから不安要素のひとつだった俺たちの距離感を縮めるために同居した。
目まぐるしく変わる環境と、否応なく求められる変化に戸惑いや不安、苛立ちがないわけがない。
うん、と相槌を打つ。
「だから、いつも一緒にいる俺に、その、ほだされちゃった? のかなって」
「はぁ?」
「や、俺が言うのも烏滸がましいんだけど! つらいときに傍に居てくれるとなんか勘違いとかしちゃうじゃん!」
そういうことか。
別に涼ちゃんを烏滸がましいとか思わないけど、要するに自己肯定感が低めの涼ちゃんは俺の気持ちが信じられないわけだ。今抱いている俺の「亮ちゃんが好き」っていう気持ちは、吊り橋効果のようなものだって言いたいわけだ。
まぁそれも仕方がない。環境がそうだっていうのも分かるし、俺の今までの態度を考えればそう結論づけるのも無理はない……、うん、俺にも悪い部分はある。
だけど、この環境はともかく、短くはない同居期間を通して俺の涼ちゃんへの態度はかなり変わったし、涼ちゃんはその変化を受け取ってくれていると思っていたし、俺という人間を少なからず理解してくれたと思っていた。
「俺、好きでもないやつにキスしないけど」
好意がなければ触れたいなんて思うわけがない。そんな軽い人間じゃないって知ってくれてると思ってた。
そういう意味を込めて少し棘のある声で言うと、気まずそうに涼ちゃんが視線を逸らす。
「それ……は、その、ピアスあけてテンションバグった、みたいな……」
「なんだと思ってんの俺のこと」
酔った勢いとでも言いたいのだろうか。雰囲気に流されたってことにして、なかったことにしたいってことなのだろうか。
ふぅん……? そっちがその気ならこっちは正攻法でいかせてもらうだけだ。
「さっき、期待しちゃうって言ってたよね?」
「う」
俺の口から想いがぽろっとこぼれてしまったように、涼ちゃんもこぼれちゃったんじゃないの?
口をつぐんだ涼ちゃんに畳み掛ける。
「涼ちゃんこそ、好きでもない男にキスできるんだ?」
「できないよそんな不誠実なこと……さっきのは、その……あー……もう……分かるでしょ」
だめだ、にやけそうになる。いや、にやけてると思う。涼ちゃんが顔を赤くして拗ねたように口を尖らせているから。
「じゃぁいいじゃん」
それなら、なかったことになんかさせてやらない。
にこにこと告げると、むぅ、と音がしそうなくらい顔をしかめられた。
なんでだよ、と小声で突っ込むと、小さく涼ちゃんが溜息を吐いて俺の目を見つめた。大切な話をするとき、しっかりと相手の目を見るのは涼ちゃんのいいところだ。
「……この際ぶっちゃけるけど」
「うん」
「俺ね、若井に恋してると思う」
言葉にされるとグッとくるものがある。ただ、もう少し照れるなりしてくれてもいいんじゃないでしょうか。
「いつから、とか分かんないけど、いつも美味しいご飯作ってくれるし、俺が泣いてたら慰めてくれるし、筋トレとかしてがっちりしてきたからかっこよくなったでしょ? だからいつもドキドキしてる」
今もしてる、と困ったように笑う。
――何に困るんだろう。何が涼ちゃんを踏みとどまらせるんだろう。
「若井が俺を好きだって言ってくれたのは嬉しいよ」
「なら」
「でも、付き合うってなったらちがうじゃん」
「なにが!?」
俺に恋をしてくれていて、俺も涼ちゃんが好きで、なんの問題があるんだよ。
もしも俺たちが高校生だったなら、交際がスタートしていてもおかしくない。告白して、叶うかわからない未来の約束なんかして、ただ幸福の最中にあるだろう。
単純な話なのに、単純でいられなくなるのが大人になるってことなんだろうか。変なところで年長者らしい理性を見せる涼ちゃんに僅かばかり苛つきを覚える。
そんな俺に、困り顔のまま涼ちゃんは続けた。
「……付き合うってことは、その……、恋人になるわけでしょ。そしたら俺、みっともなく嫉妬するよ、きっと。それに……、あー……、若井は俺を抱けるの? 俺が抱く方かもしれないけど……」
「え、そこ?」
きょとんとして即座に入れた俺のツッコミに顔を赤くした涼ちゃんがムッとする。
「俺だって男なの! 好きな人に触りたいし触られたいって思うんだよ!」
離せ! と言わんばかりに暴れ始めた涼ちゃんを、強く抱き締めて封じ込める。
多様性が叫ばれる時代とは言え、まだまだ偏見のある関係だからとか言われるならまだしも、俺の告白に「はい」って言えない理由が、それなの?
仕方がない、ひとつずつ壊してあげることにする。
「俺、いつも嫉妬してるよ」
「うそだぁ」
「ほんとだって。涼ちゃんと元貴、距離近いじゃん? 元貴がくっつきにいってる、ってのが正しいかもだけど。あれ、かなり妬ける」
「えぇ……?」
だって元貴だよ? と言わんばかりの反応に苦笑する。涼ちゃんにとって元貴とのあの距離は、普通のことなんだろう。普通になってしまうくらい、近くにいるってことだ。
……元貴の件は一旦置いておくとしよう、これは多分、根が深いから。話し合うなら元貴も交えないと、よくない方向にいってしまう恐れがある。
「それと、できるなら俺は涼ちゃんを抱きたいかな」
「え……」
がばっと顔を上げた涼ちゃんの目はまたもやまんまるだった。
「……若井、俺で勃つの?」
「言葉選べよ……」
可愛い顔してなんつーことを。
とはいえ、涼ちゃんも自分の気持ちをぶっちゃけてくれているわけだから、俺もぶっちゃけるのが礼儀だ。多分涼ちゃんがダメージ喰らうけど。
「涼ちゃんさぁ、この前風呂で一人でしてたでしょ」
ビシッっと音を立てて時間が止まった、と感じるくらいきれいに涼ちゃんが固まった。可哀想だけどちょっと面白い。
頬がじわじわと赤くなっていくのに血の気が引いているような、そんな顔。
「なッ、な、は、え、……はッ!?」
「や、あれよ? 覗いたとかじゃないからね?」
断じてそんなことはしていない。俺の名誉のためにそう告げる。
真っ赤になって泣きそうな涼ちゃん。勃つだのなんだの言えるくせにそこは恥ずかしがるんだ?
「じゃぁなんで!?」
「や、たまたまさぁ、洗濯物出し忘れたから涼ちゃんがシャワー浴びてるときに脱衣所入ったのね? そしたら声が」
「さいっあく!」
「俺のせいじゃないでしょ」
「それはッ……そう、だけどォ……」
うう、と呻いて涼ちゃんが俺の首元に顔を埋めた。はは、かぁわいい。
「……で、それで俺は抜きました。だから余裕デス」
ぽんぽんと頭を優しく撫でながら囁く。涼ちゃんは相変わらず顔を埋めたまま何も言わないけど、それでもまとう空気が嬉しそうだった。
これで心配事はあとひとつだけだね。
それを解決するためには元貴が必要だから、今から呼び出すとして、まずはやることやってしまおう。
「涼ちゃん」
「……ナンデスカ」
「とりあえず左耳もあけてもらっていい?」
「自分であけろ!」
続。
次はもっくん参戦です。
コメント
6件
続きたのしみ!!!!
1つずつ問題を片付けてく若井さんが藤澤さんへの愛が伝わってきますね😆 なにより書く文が上手い、、!! いつも見させてもらってありがとうございます!!!
こちらこそいつもコメントありがとうございます😊 ピアスが関係なくなってきていてどっかで軌道修正します笑