テラーノベル
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七歳の冬、私は暗い部屋の隅で膝を抱えてこの寒さに耐えていた。
とても寒かった。
…でも寒いと言ってはいけない。
とてもお腹がすいた。
…でもお腹がすいたと言ってはいけない。
泣いてはいけない。声を出してはいけない。
そうすれば、今日は少しだけ早く終わるから。
母の機嫌が悪い日はいつも怒られた。
食事を欲しがった。
返事が遅かった。
目つきが気に入らない。
存在が気に入らない。
私はもう疲れていた。
生きるのも、母の愛を期待して、その度に絶望するのも。
期待しなければ少なくとも絶望はしない。
感情があるから胸が苦しく辛くなる。
私はいつしか考えること、感じることを辞めた。
殴られても痛くない。
…殴られてるのは私じゃないから。
酷い言葉を言われても悲しくない
…言われているのは私じゃないから。
痛いのは、悲しいのは「別の子」なのだから
不思議なことにそう考えれば耐えられた。
でもそうするうちに段々自分が分からなくなってきた。
でも、もういいの。
体が震えても、涙がでても、心はそこには無いのだから。
そんなある日、母の様子がいつもとは違っていた。
かなり酷く怒っていたのだけ覚えている。
母親side
最近殴っても罵っても放置しても、なんも反応がない。
最初はやりすぎてしまったかな?とも思った。
でも受け答えは出来ているし多分大丈夫なのだろう。
それに、私が今更そんなことを気にしたところで何にもならない。
だって痛めつけてきたのは私自身なのだから。
今更病院に連れて行ったって、心配したってなんの意味もない。
どうせあの子も私の事は嫌いだろうしね。
あの子は私が若い時に付き合っていた男の連れ子。その男さえ、喰種に襲われ呆気なく死んだ。
血の繋がりも、何の繋がりもない。
最初こそ可愛がりもしたが、なんで血の繋がってない子を可愛がらないといけないのかと思ってから可愛がるのを一切やめた。
この子がいなければ、私は今頃好きな子と結婚して今頃幸せな人生を歩んでた。
そう、あの子さえいなければ…
そう思ってからあの子のことが一気に嫌いになっていくのが分かった。
あの子は悪くない。
そんなこと分かってた。
でもあの子さえいなければ と思うと殴らずには居られなかった。
ある日、職場の先の店長に告白された。
私の頑張りや人柄を見てくれて との事だった。
でも、あいつのせいでその話は呆気なく無くなった。
「ごめん、子連れはちょっと笑」
やっぱりか。やっぱりあの子がダメなんだ。あの子をどうにかしないとって思った。
あの子を○さないと、私の幸せの為に。
私side
「あんたはもう要らない」
あの人から唐突に言われたその言葉。
私はもう要らないの?
私はこれからどうしたらいいの?
「お前さえいなければ」
その言葉だけが妙にハッキリ聞こえた。
手には包丁を持っていて
ああ、ここで○されるんだな
って本気で思った。
怖い。そう思った時、玄関を開ける音が聞こえた。
足音だ。こちらに向かって歩いてくる。
あの人が振り向いた瞬間その人物が喋る。
「ねえその子、要らないの?要らないなら貰ってもいいかしら?」
女の人だった。目が赤いから多分喰種なのだろう。
母親が叫んだ。
でもその女の人は怯まなかった。
赤黒い赫子が暗闇の中でこっちに向いた。
怖い。けど、人生の最後、誰かの役に立って死ぬのもいいかと思った。
それが例え餌になる行為だったとしても、このままあの母親に○されるより、誰かの役になるならって思ったんだ。
そんな私の覚悟とは裏腹に、女の人は私の前にしゃがみこんで私を暖かい目で見つめてくる。
「大丈夫?」
私は答えられなかった。
生まれてこの方、大丈夫?なんて心配されたことも無いし、何 を持って大丈夫なのかが分からなかったから。
「お名前は?」
答えられなかった。
名前なんてなかったから。
「あらあら、そんなに涙ぐんで」
「大丈夫よ、とって食べたりしないわ」
優しい声だった。
とても温かみのある、優しい声。
そんな感動を遮ったのは母親の声だった。
「そいつのことなら○してもいい!」
「だから私だけは助けてくれ」
自分の身がわりに私を…か
あの人らしいや
「あなたはどうしたい?」
「私についてくるか、ここで死ぬか」
いいのかな。邪魔な私がついて行っても。
いいのかな。邪魔な私が生きたいって言っても。
助けて、一緒に行きたい。
ずっとずっと言いたかった言葉。
でもどうしても言えなかった。
どうしても拒絶されたくなかったから。
『おかあ、さん?』
代わりに出てきたのが言葉だった
その女の人はしばらく黙ってから私の頭を優しく撫でた。
「もう大丈夫、今日の事は、今迄のことはすべてお忘れなさい」
「あなたは幸せになるの」
その言葉を聞いて私は眠りに落ちた。
こうして私の世界に新しいお母さんができた。
コメント
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寺島あおいです🌷 第1話、読み終わりました。冒頭の「別の子」と自分を切り離す描写、すごく胸が締め付けられました……七歳でそこまで達してしまうのが辛くて。でも、最後の喰種の女性の「大丈夫」「あなたは幸せになるの」という言葉に、涙が出そうになりました。「おかあ、さん?」って、たった一言に全部の想いが詰まっていて、素敵すぎます。 続きが気になる、というより、この子がどうか幸せになってほしいと心から思いました。素晴らしいお話をありがとうございます🍀