テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
68
134
私side
レイコ。
それが私の新しいお母さんの名前だった。
私『ねえ、お母さんは喰種なんだよね?』
「そうよ」
私は人間だけど、お母さんは喰種。
その事実を知っても尚、全然怖くなかった。
お母さんは私を普通の人間として育てた。
普通の食事、普通の服、普通の生活。
少しずつ私に普通を教えてくれた。
「そろそろ、あなたにも名前を付けてあげないとね」
そう言ってすごーくすごく悩んだお母さん。
最終的にあんなに悩んで私の名前はお母さんの名前からとって 「レイ」になった。
普通の生活、普通の食事、何にも怯えることのない生活、愛情が詰まった名前。
何か、忘れてるような気がするけど、お母さんに聞いてもはぐらかされるだけ。
でもいいの。お母さんがそういうならそうなんだから。お母さんが私のこと傷つける訳ないもん。
「今日はシチューよ」
お母さんがシチューを作ってくれた…!
普通の子なら喜ぶんだろう。
でも食事の時間が私には苦痛だった。
『わぁ…!美味しそう!』
嬉しそうにスプーンをもつ私。
口に入れても味なんてしないのにね。
私には生まれつきなのかは分からないけど味がしない。
肉も。
野菜も。
パンも。
お菓子も。
ぜんぶぜーんぶダメだった。
私にはぜんぶ砂と同じだった。
口の中に砂を詰められて、それを頑張って食べる。
そんな気分だった。
それでも「美味しい?」ってお母さんが聞いてくれるから。
微笑んでくれるから。愛情を注いでくれるから。お母さんが笑うから、私も笑った。
そんな日常を過ごしていたある日
お母さんが入れてくれたコーヒーを1口飲んだ。
『…!』
初めてだった。
甘いでも苦いでもない。
ちゃんと味がした。
『お母さん、、これ、美味しい!』
それ以来、私にとってコーヒーは特別なものになった。
人間の食事を取れないお母さんとの唯一の繋がりのようにも感じた。
でも、この時は知らなかった。
私の味覚がおかしくなっていたことを。
私自身も、お母さんも知らなかった。
過去を、心の奥底に押し込めていたから。
思い出せない。
思い出したくない。
だから
「あの家」での出来事はもう存在しないことになっていた。
コメント
1件
リオンです。読了しました。 お母さんの愛情がひしひしと伝わってくるエピソードだった。人間の食事が取れない喰種が、娘に「普通」を教えようとする優しさ。でも、その優しさの裏で娘が味覚を失っているというミスマッチが切ない。唯一味がしたコーヒーが、二人の特別な繋がりになる描写がとても好きです。 「あの家」の出来事や、なぜ味覚がおかしくなったのか……この伏線がどう回収されるのか、続きが気になりますね。