テラーノベル
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貫徹した日の昼頃、原稿が出来上がった。
描き上がった三十四ページの大作を、じっくり見詰める。
「できた。僕の中の最高のルシリリ……そうだ。これは僕の中のルシリリなんだ」
ぽろっと涙が流れた。涙を手で拭うと、イソトマは顔を上げた。
「僕の中のルシリリは永遠! 現実のルシアンとリリーとは、別! それがオタクの分別!」
スローガンのように何度か繰り返した。
二次元と三次元は別物。前世では常識だった。うっかり忘れる所だった。
「大事なオタクの矜持だ。僕の中のルシリリは、この漫画の中だけでいい」
描き上げた漫画を抱きしめて、イソトマは自分の気持ちにけじめをつけた。
「それにしても、不思議だな。リリーとルシアンで、言ってることが全然違うや」
リリーはイソトマに、ルシアンとの婚約を解消してくれと話した。
ルシアンはイソトマとの婚約を解消する気はないと話した。
冷静になって思い返してみたら、変な話だ。
(ルシアンの気持ちなんて、僕は初めて知った)
前世を思い出す前ですら、好かれている気がしなかった。
リリーが現れてからは嫌われていると思っていた。
「それに、心配だから傍にいるって、どういう意味だろう」
イソトマやノアルのためだと、ルシアンは話していた。
「ディルクに相談してみようかな……あれ?」
立ち上がろうとしたら、ふらついた体が椅子にリターンした。
「しまった。貫徹の弊害が……」
気持ちが落ち着いたら、急に眠くなってきた。
「ディルクに相談は、起きてから」
フラフラとベッドに沈む。
(学校にも行かなくちゃ……五日も休んじゃった)
安息の眠りはあっという間にイソトマを包んだ。
深い眠りに落ちていく。
「……イソトマ様、お迎えに来ましたよ」
誰かの声が聞こえた。
アルエに似ている気がするけど、違う。
「僕と一緒に、新しい世界に行きましょうね」
声がクスリと笑んだ。
体に誰かの魔力が纏わりつく。
(この魔力、知ってる。誰だっけ)
目を開けたいのに、瞼が重くて持ち上がらない。
体に力が入らない。
「イソトマ様が仲良しなアルエに変化したら、簡単にお部屋に通してもらえました。アルシュタイン家の警護も大したことないですね」
耳元で声がして、瞼を手が覆う。
「大丈夫、目が覚めたら新しい人生の始まりです。楽しみですね」
誰かの声が遠くなる。
体が、何かに吸い込まれる。
(これ、魔法だ。僕は何をされているの?)
激しい音を立てて、扉が開く音がした。
「お前、アルエじゃないのか。イソトマをどこにやった!」
この声は、ディルクだ。
(僕はここにいるよ。ディルクには見えていないの?)
自分の体が今、どうなっているのかすら、よくわからない。
「面倒なのが来たな。仕方ない。一緒に連れて行くか」
「それは……その中にイソトマを閉じ込めたのか?」
剣を抜く音がする。きっとディルクの剣だ。
「珍しいだろ? 正当な魔術師は使わない。窃盗の魔術だ」
「窃盗だと……? 人身売買でもしているのか」
知らない男が、鼻で笑った。
「黒騎士はイキが良くて売れそうだ。魔種持ちの貴族のお坊ちゃまと一緒に売り飛ばしてやるよ。おいで、ディルク」
男が壁面を二回擦った。
(これ、ランプだ。御伽噺みたい)
どうやらランプの中に閉じ込められているらしい。
怖いはずなのに、頭がぼんやりして危機感が薄い。
「うわ!」
「むぎゅ」
体の上にどさりと重いものが落ちてきた。
「……ディルク?」
「イソトマ! 怪我してないか?」
落ちてきたのはディルクだった。
イソトマを抱き上げて全身を隈なくチェックする。
「怪我とかは、ないけど……眠い」
「眠い? 催眠魔法か?」
「そうじゃなくて……徹夜」
「は? 徹夜?」
ディルクが眉間に皺を寄せて、わからない顔をした。
「漫画、完成させたんだ。僕の中の完璧なルシリリ。だからもう、終わりにできる……」
ぽろっと一筋だけ、涙が流れた。
ディルクの腕の中で、ぐったりと力を抜いた。
「なっ……しっかりしろ、イソトマ。ルシリリなら、いくらでも描けばいい!」
「ダメなんだ。もう描けないんだよ。他のカプ、探さないと」
「何故だ。急に、何があった。俺はベタ塗りを習得したばかりなのに」
ディルクがイソトマの体を揺する。
「とりあえず、起きたら話すね」
眠さが限界で、イソトマは意識を手放した。
「イソトマ!」
ディルクがイソトマの体を抱き寄せた。
「イソトマは、俺が必ず守る」
ディルクの声が、兄のイデアと重なった。
(兄さんも、いつも盾になって僕を守ってくれていたっけ)
優しくて強くて、大好きだった兄。
隣にはいつもディルクがいた。
二人は親友でライバルだった。そんな二人がイソトマには、とても格好良く見えた。
「イデアに誓って、守って見せる」
ディルクが呟いて、上を見上げた。
「高く売れそうな人間を二人、収穫できた。計画通りだよ」
知らない男の声を聴きながら、イソトマの意識は落ちていった。
コメント
1件
ああ、めっちゃしんどい回だった……! 徹夜で描き上げたルシリリにケジメつけたイソトマ、あそこはグッと来たよ。でもその直後の誘拐パートが急展開すぎて震えた。ランプの中に閉じ込められる描写、御伽噺みたいで不気味で良かった。ディルクが駆けつけて「イデアに誓って守る」って言うシーン、熱すぎるし、兄と重なる描写にじんときた。次どうなるんだこれ、めっちゃ気になるわ🔥
かんな
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寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
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