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太宰治は子供であった。
たった15の子供であった。
実の親から子供では到底耐えられないような暴力を振るわれても尚、彼は生きていた。
「死にたい」
ぽつり、と呟いた一言に太宰は苦笑した。
なんと難しいことか。
太宰は若くして素晴らしき自殺愛好家でもあった。
そして、自殺を試みる度に失敗していたのだ。
彼の屈強な魂は肉体の死を許さなかったのだ。
その時、愛に飢え、食に飢え、唯傷つけられる痛みしか知らない子供に声を掛けた者がいた。
「どうしたんだい?こんな所にいて死んでしまうよ。ねぇ?エリスちゃん」
30位だろうか。白衣を身にまとった如何にも医師であるかのような男性は赤いドレスを身にまとった幼女…恐らく、エリスちゃんと呼ばれたであろう”それ”と太宰に語り掛けた。
「僕は死にたいのに死ねないんだもの。だから別に何ともない。」
男性は太宰をじっと見つめると手を差し伸べた。
「死ぬ方法なら幾らでも教えてあげよう。その代わり、暫くは私を手伝ってくれないかい?」
にっこりと微笑むその男は太宰にとって見知らぬ人であり、笑みと言うものは太宰にとって無縁であり、無知ゆえの恐怖を感じる物だった。
それても何故か、太宰にはこの笑みに優しさが見えたのだ。
「良いよ。ちゃんと殺してくれるならね。」
太宰は男の手を取った。
「ッッ!?」
すると何故だろうか。男が反射的に太宰の手を離した。
「っわ…」
太宰はバランスを崩し尻もちを着いた。
「…君…」
男が太宰に呼びかける。
「…何?」
「素晴らしい素質を持っているね…!」
男の目は輝き、興奮に充ちている。
それが性的な、夜の横濱に溢れている興奮で無いことを太宰はすぐに悟った。
「素質…?」
「もう一度私に触れてご覧。」
シュウゥゥ
小さな音がする。
「ほら、エリスちゃんが消えた。」
エリスちゃん…先程の赤いドレスの幼女が確かに消えていた。
しかしそれと素質に何の関係があるのか、未だ幼い太宰には分からなかったのだ。