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「じゃぁ、鬼塚部長復帰を祝して! カンパーイ」
それぞれの仕事を終え、久しぶりに足を運んだ新宿二丁目のバーBLACK CAT。
相変わらず派手な笑みを浮かべるナオミから提供されたグラスを掲げ、東雲が上機嫌で乾杯の音頭をとった。
「いやぁ、スカッとしましたね。全てが明るみに出た後のあの青ざめた岩隈の顔見ました?」
「確かにあれは傑作だったねぇ。副社長就任のカウントダウンが始まってからというもの、あからさまに態度が大きかったからね。今日まで嫌がらせもすごかったし。どうなる事かと心配していたけど、鬼塚君のお陰で助かったよ」
片桐は穏やかな笑みを浮かべつつ、理人の肩をぽんと叩いた。
「私は別に何も……」
「謙遜しなくていいよ。鬼塚君が頑張ってるのはみんな分かってるから」
別に謙遜をしたつもりはなかった。仮に今回、社長が自分の話を信じてくれず、岩隈の肩を持つ気なら、潔く辞めるつもりだったのだ。会社のために働こうと必死でやってきて、裏切られたことに失望と怒りが溢れ出ていた。今回の件が丸く収まったのは、隣で一緒に酒を楽しんでいる3人の仲間のお陰だ。
彼らが支え、力を貸してくれなければこんな結末にはなっていなかっただろう。
本当は素直に感謝の言葉を述べるべきなのだろう。
だが性格的にどうしてもそれが出来ずに、視線を逸らして言葉を濁すことしかできなかった。
なんだか妙にくずぐったいような気分になって落ち着かず、グラスの中に残った酒を煽ると、向かい側に座る瀬名と目が
合った。
瀬名とは結局、あの日以来まともに会話していなかったことを思い出し、益々気まずさが加速していく。
そんな理人の気持ちを察したのか、瀬名が苦笑しながら隣にやってきて、耳元でそっと呟いた。
「大丈夫です。もう貴方に迷惑をかけるようなことはしませんから。安心してください」
「……っ」
その一言が胸をぎゅっと締め付けるようで、咄嗟に答えが出てこなかった。
瀬名を遠ざけようとしたのは自分の方だ。今更きちんと話をしたいだなんて虫が良すぎるだろうか?
「理人ってば、なぁにシケた顔してんのよ! 辛気臭い顔してるとせっかくの美味しい料理が台無しになっちゃうわよ?」
「うるせぇな。ほっとけよ」
「やっぱり素直じゃないわねぇ。瀬名君に寂しいから早く戻って来て~って、言えばいいのに」
「ブハッ、なっ、てめっ……! 勝手な妄想で人を揶揄ってんじゃねーよ!」
ナオミの一言に思わず吹き出し、口元を拭いながら睨み付けると、間髪入れずにナオミがグッと顔を近づけてきた。
「本当にアタシの妄想かしら? みんなは知らないかもしれないけど、理人ってば昨日まで酷い状態だったのよ? 真っ暗な部屋でビールと煙草だけで干物寸前。表情も暗いし、廃人みたいで」
「余計な事言ってんじゃねぇ」
ぎろりと睨みつけるが、ナオミにはちっとも効果がない。笑いながら、「ひげは伸び放題だし、空気は淀んでるしでほんっと最悪状態。アタシが強引に引っ張り出さなきゃ、今ごろ点滴につながれてたんじゃない……いたっ!」
盛大な暴露をかましたナオミは、理人に肩口を殴られてよろめいた。
「ひっどーい、押さなくてもいいじゃない」
「クソケンジ! 余計な事言うなつったろうが!」
腹が立つやら恥ずかしいやらで、そっぽを向くと、片桐や東雲がニヤニヤと笑っていることに気付き、なんとも居た堪れない気分に襲われる。
「へぇ、あの完璧人間の鬼塚さんが、ねぇ?」
東雲が面白がるように目を細め、隣に座る片桐も「弱ってる鬼塚君、ちょっと見てみたかったなぁ」なんて楽しげに口元を緩めた。
その雰囲気に乗って、瀬名まで吹き出しそうになりながら肩を震わせている。
理人は羞恥に頬を染めながら、小さく舌打ちした。
「うるせぇ、酔っ払い共が……」
ぼそりと呟くが、当然のごとく届かない。
「……でも」
ぽつりと落ちたその声に、皆が視線を向ける。
「どんな状態だったとしても、戻ってきてくれて、本当に良かったです」
切なそうな表情で瀬名に見つめられ、ぐっと喉が詰まった。
そんな目で見るなと思いながらも、心のどこかで嬉しいと感じてしまう自分に気づき、胸の奥が苦しくなる。
どうすればいいか分からず、それを誤魔化すように新しいグラスに口を付け、中身の酒を一気に飲み干した。
「全く、理人ってばあんまり悪酔いしちゃだめよ? まぁ、瀬名君がいるから大丈夫だとは思うけど」
「あ……いえ、僕はもう理人さんとは……」
「本当にもう、割り切ってるの?」
「そ、それは……っ」
顔を覗き込むようにして問われ、瀬名が困ったように言い淀む。
「アタシね、 今回理人の様子を見に行って、痛感したのよ。二人は一緒にいるべきだって」
「なっ……!?」
「何があったかは知らないけど、いい大人がいつまでも喧嘩してないでさっさと仲直りしなさいよ」
何を勝手な事をと思ったが、瀬名と目が合って言葉に詰まる。
瀬名と仲直り。なんて。出来る事ならとっくにしている。 あの時は、いろいろな事が重なって瀬名の話を聞く余裕もなく部屋から追い出してしまった。
冷静になって、話くらい聞けばよかったかと今でこそ思ってはいるが、自分に隠れて美人な彼女と二股かけてましたと正直に言われるのは怖い。
そのうえ、別れを切り出されたらそれこそ、もう二度と立ち直れないのではないかとすら思う。
こんな自分の弱さをら避けだしたくない。けど、このままでいいわけがないことくらい自分だってわかっている。
「全く、いい年して2人とも面倒くさい男ねぇ」
ナオミが呆れたように笑う。そしてグラスを置いて立ち上がると、瀬名の頭をポンと撫でた。
「ま、これは本人達の問題だからこれ以上アタシが何か言う事じゃないけど、アタシは二人はお似合いだと思ってる。幸せになってほしいって願ってるわ。とりあえず今日は飲んで食べて……全部忘れて楽しんでちょうだい」
そう言ってウインクすると、ナオミは厨房へと引っ込んでいった。
「たく、言いたいことだけ言って逃げやがったな。アイツ……」
「いいじゃないですか。僕は好きですよ。ナオミさん、面白いし。それに、ああやって言ってくれるのは、親友の理人さんの事心配してくれてる証拠ですし」
瀬名が柔らかく微笑んで、理人のグラスに手酌でお酒を注いでくれる。
「……あれはただの悪友ってヤツだ。親友なんかじゃねぇ」
不貞腐れたように呟き、理人は酒を呷る。
「ハハッ、素直じゃないなぁ。……でも、そういうところも僕は好きですけど」
「サラリとトンデモ発言してんじゃねぇ!」
「事実ですから」
そっと手を握られ、にっこりと微笑まれて、二の句が継げなくなる。
「はぁ~。やだやだ。目の前でいちゃつかないでもらえます?」
「まぁいいじゃないか東雲君。お似合いだと僕は思うよ」
のんびりとした片桐の声が余計に気恥ずかしく感じて、思わず瀬名と二人で顔を見合わせ互いに苦笑した。
暫くはとりとめもない話をしていたが、片桐と東雲は空気を察したのか、「そろそろお開きにしましょう」と言い出し、終わりムードが漂い始める。
「あ、じゃぁ僕もそろそろ……」
瀬名がそう言って席を立とうとした瞬間、理人がくいっと軽くシャツの裾を引いた。
「……送ってく」
「え?」
「夜も遅いしな。……嫌だとは言わせねぇ」
ふいっと視線を逸らしたまま響くぶっきらぼうな声に、瀬名は驚いたように目を瞬き、それから小さく笑って頷いた。
「嫌なわけ、ないじゃないですか……」
そっと熱い掌が自分のそれと重なり、ハッとしたが敢えてそれを振り払う事はしなかった。
(とりあえず……話し合わねぇとな)
どうなるかわからない不安はあるけれど、少しずつ前に進もうと、理人はそっと手を握り返した。
夜風を切ってタクシーに乗り込み、行き先を自分のマンションにする。
それを聞いた瀬名が、僅かに戸惑いながら尋ねた。
「……えーっと、僕の家じゃないんですか?」
理人は正面を向いたまま短く答える。
「……あぁ。 不満か?」
「まさか。少し驚いただけです」
「そうか」
やけに静かな車内。
理人も瀬名も黙ったまま、走行音だけが流れていく。
普段は沈黙も気にならないのに、今日はやけに空気が重い。瀬名がわずかに身じろぎするだけで、理人の心臓が跳ねる。
(ああ……クソッ。こんな空気になるなら送るなんて言わなきゃよかった)
何度もそう思った。だがもう戻れない。
逃げたいけれど、それでは何も解決にはならない。
もしかしたら、これが最後になるかもしれない。別れるにしたって、あの時の真相をきちんと瀬名の口から聞き出してから納得したい。
理人は懸命に平静を装いながら窓の外を見つめた。街灯の光が通り過ぎていくたびに、自分の中で何かが焦燥感を募らせていく。
もしかしたら、今夜。本当に別れる事になるかもしれない。真実を知るのは正直怖い。
ネガティブな思いばかりが沸いて来て、家に戻るエレベーターの時間が永遠にも感じられるほど長く感じられた。
それは、家の中に入っても変わらず、瀬名をリビングへと通すと、そわそわと落ち着かない気持ちのままに腰を下ろして深く息を吸った。
「……理人さん? 大丈夫ですか? 顔色があまり良くないみたいですけど……」
声をかけられ、ハッと我に返る。
「いや、少し考え事してただけだ」
適当に誤魔化す。瀬名が心配そうな目で自分を見つめていることに気づき、罪悪感を覚える。
(情けねぇ……。こんなんじゃ埒が明かねぇだろ……)
ぐっと奥歯を噛み締め、姿勢を正すと覚悟を決めて瀬名の方へと向き直った。
「……その……。一ヶ月前は、悪かったな」
言葉を探すように喉を鳴らしたあと、ぽつりと謝罪を口にする。瀬名は一瞬戸惑ったように目を瞬き、すぐに首を振った。
「そんな……。僕の方こそ不安にさせるような行動を取ってしまってすみません」
そう言って頭を下げてきた。その姿に胸が苦しくなる。やはり言わなくては。瀬名が嘘をついていなければ、きっと教えてくれるだろう。
「……なぁ、瀬名」
理人の声は緊張に強ばり、微かに震えていた。瀬名はすぐに反応し、「なんですか?」と柔らかく微笑む。その無垢な表情を見るだけで胸が締めつけられるようだった。
「もし……言いたくないなら無理にとは言わないが……」
躊躇いがちに言葉を選びながら、一息に核心へと迫る。
「お前があの日、女と一緒にいた理由を、教えて欲しい」
一瞬だけ沈黙が落ちた。
瀬名の表情が僅かに曇り、理人の視線が宙を泳ぐ。二人の間に微妙な温度差を感じながらも、理人は無理に目をそらさなかった。
すると、瀬名がそっと右手を伸ばし、理人の左手に重ねてきた。
温もりが伝わってくる。
「あの日、いきなり追い出されてから僕も色々と考えたんです。理人さんが怒ってる原因が真奈美という名の女性の事だとしたら……。それ、完全に誤解ですから」
「誤解……だと?」
一体何が誤解だというのだろうか。燻っていた感情が再び顔を出しそうになったが、此処でまた怒りを爆発させてはこの前の二の舞なので、理人はぐっとこらえて瀬名の次の言葉を待った。
「信じてもらえないかもしれませんが……。真奈美は僕の姉さんです」
「あ?」
一体何を言い出すかと思えば。家族と言えば自分が信じるとでも思ったのだろうか?
「……やっぱり、信じてないですよね? ちゃんと証拠もあります」
眉間にしわの寄った理人の態度はあらかた予測がついていたのだろう。深いため息を吐きながら鞄から取り出した一枚の紙きれ。 差し出されたのは家族全員の名前が載っている住民票だった。
「いつか、誤解を解く材料になればと思って、取ってたんです。 証拠の写真もありますよ」
スマホのフォルダには、家族全員で撮影した写真がいくつも保存されていた。中には瀬名の子供時代の写真もあり、確かにそこには姉と一緒に写る幼い瀬名の姿が記録されていた。
「……姉さんは既に結婚して地方に嫁いだんですが、時々アポなしでいきなりやって来るんです。前の職場でも、彼女疑惑が出て大変だったんですよ……」
瀬名は苦笑を浮かべながらスマホを差し出す。
画面の中の瀬名は、今より幼く無邪気な笑顔を浮かべていて、隣には確かにあの女性の面影がある少女の姿があった。
「……マジ、かよ」
理人はしばらく言葉を失い、額に手を当てて深く息を吐いた。心の底に積もっていた靄が、一気に晴れていくようだった。
同時に、勘違いしてしまっていた自分に対する猛烈な自己嫌悪が込み上げてきて、思わず頭を抱える。
(俺は……何を勘違いして、勝手に怒鳴って、突き放して……)
「くそ……ダセェ」
情けなくて顔が熱くなる。無意識に拳を握りしめていた。
「悪かった。疑って……」
「謝らないでください。僕が誤解させてしまったせいなので。それに、拗ねて怒るってことは、それだけ僕の事を愛してるってことでしょう? 嬉しいですよ。理人さんに愛されてる証拠ですから」
「は……っ」
瀬名の返答に理人は一瞬言葉を失った。この男はどうして、こんなにも恥ずかしい言葉を平然と口にできるのか。
耳の奥がじんわりと熱くなり、思わず顔を背ける。
「チッ、はずい事言うなっバカ」
「えー? 理人さんにだけはバカと言われたくないです」
「あ? んだと……」
ふいに腕を引かれ、次の瞬間には瀬名の温もりに包まれていた。
驚いて声を上げかけたが、耳元に落ちた囁きがそれを封じる。
「……もう、離しませんから」
胸元に額を押しつけられ、理人はぐっと言葉を失った。心臓がやけにうるさい。
耳の奥でドクドクと鼓動が響き、息まで乱れそうになる。
「瀬名……」
呼ぶつもりのなかった名前が、自然と唇から零れた。
その声に反応するように、瀬名がゆっくりと顔を上げる。
目が合うと、理人の視線は吸い寄せられるように落ちて――
触れ合った唇が、柔らかく溶けた。
ほんの数秒。
けれど、息が出来なくなるほどの熱を残して瀬名がそっと離れる。
名残惜しそうに見上げると、蕩けるような瞳が理人を見つめていた。
「あーもう……今すぐ抱きたい」
甘く掠れた声に、理人は目を剥いた。
「お前……さっきまでしんみりしてたくせに、よくそんな気分になれんな!?」
「いやいやいや……当然でしょう。久しぶりに会った恋人に可愛く拗ねられて、謝られたら滾りますよ」
「可愛くなんてねぇだろ! 頭沸いてんじゃねぇのか!?」
真っ赤な顔で睨みつけても、効果は皆無だった。
むしろ、ますます強い力で抱き寄せられる。
「理人さんは? したくない?」
「……っ……いちいち聞くなっ!」
言葉を返しながらも、理人の指先がわずかに震えた。
否定したいのに、心も身体も嘘をつけない。
「ふふっ、ほんの少ししか離れてなかったのに……このやり取りすら懐かしく感じますね」
「……チッ」
理人は小さく舌打ちをする。
確かにほんの数週間、離れただけだ。
それなのに――何年も会っていなかったような錯覚に囚われる。
(……馬鹿みてぇだ)
思えば、この数日間、瀬名のことを考えない日は一日もなかった。
どんなに忘れようとしても、頭の片隅に必ず残っていた。
この声も、笑い方も、触れた感触も。
「ずっと……あなたとこうしたかった」
囁く声が、ひどく甘く耳に染み込む。
「夢の中で何度あなたを抱いたか……」
「……てめっ、恥ずかしい事ばっか言いやがって……」
「だって、事実ですから」
顔を背けようとしたが、頬に添えられた手がそれを許さない。
そのまま額に柔らかな感触が落とされ、くすぐったさに息を漏らす。
「……っ、俺だって同じだ。……もう無理だと思ってても、いつもお前の事ばかり考えてた」
最後の抵抗のように視線を逸らすが、頬を撫でる指先の温もりが理性を溶かしていく。
「つまらない意地張ってないで、電話してくれたらよかったのに」
「出来るわけねぇだろっ 自分から追い出しておいてどの面下げて電話するんだっ」
「ふふっ」
瀬名は軽く笑いながら理人の頬を両手で挟むようにして、自分の方に向かせた。
「本当に素直じゃないなぁ。でも、そういうところも好きですけど」
「……うっせ」
赤くなった顔を隠すように視線を逸らすと、頬に添えられた指先が輪郭を確かめるように滑る。
そのまま親指が下唇に触れ――
「んぅ」
小さく抗議する声が漏れる間もなく、ぬるりとした熱が侵入した。舌先が絡み合い、お互いの温度を確かめ合うように擦れ合う。
(っ……)
甘く痺れるような感覚に思考が霞む。
絡みついてくる舌に応えながら理人は瀬名の腕に縋り付いた。もっと深く繋がりたい――そんな欲望が胸の奥から溢れてくる。
でも……。
「はぁ……っ…ま、待て……っ、ここじゃ……」
唇を離して訴えると、瀬名の眉根が微かに寄せられた。
「……嫌です。待てません」
「な――っ……んんっ」
荒々しくソファに押し付けられ、再び唇を塞がれる。
理人の抗議の声は甘い喘ぎに変わり、快楽を逃がすように瞼を閉じて震えた。
「ん……っ…」
歯列をなぞられ、上顎をくすぐられると背筋が甘く痺れる。
久しぶりの接触に頭の芯が蕩けそうで理人は必死に縋りついた。
「っ……はぁ……っ…ん」
深いキスを交わしながら指先が服の下に入り込む。敏感な肌に触れられて反射的に体が跳ねた。
こんな明るいリビングで、しかもソファの上でなんて……。
羞恥心と罪悪感が入り混じるが、それでも止められない。
むしろ焦らされるように身体中を這い回る瀬名の指先に理人の体温はどんどん上がっていく。
「っ……んぁ……っ…」
乱れた服の下で隆起した胸の突起を摘ままれ、理人は大きく仰け反った。
「理人さん……可愛い」
耳元で囁かれれば否応なく身体が反応してしまう。
そんな自分の反応が恥ずかしくてたまらないのに、どうしようもなく興奮してしまう。
「は……っ…うるせ……っ…」
必死に声を抑えるものの、漏れ出る吐息は止まらない。
「……っ…そこ……っ…やめ……っ…」
執拗に弄られる乳首に身体中が粟立つような感覚に襲われる。
「止めて欲しいって言う割には、自分からいやらしく押し付けて来てますよ?」
「な……っ…ちが……っ…んっ……ふっ」
胸板から腰までを辿るように撫でられて思わず鼻から抜けるような声が漏れた。
いくら口では否定してみたって、身体は正直だ。早く、もっと触れてほしい。
もう我慢できない――うっかり油断していると、そんな言葉が口から飛び出しそうになるのを何とか堪える。
「ん……っ…んく……っ…」
指先が布越しに熱を持ち始めた部分に触れる。
形を確かめるように何度もなぞられてゾクゾクした快感が駆け上がってくる。
「っ……ん…っ……んんっ……!」
思わず膝を擦り合わせてしまい、その仕草をからかうように指の動きが大胆になった。
「っ……は、ん…っ……」
布越しの刺激では物足りないとばかりにズボンの隙間から中に手が入ってくる。直に触れてくる手のひらの熱に眩暈がした。
「っ……は…っ……」
熱い。火傷しそうなくらい熱い。
「ん……っ…んぅ……っ…」
硬く張り詰めたモノを包み込まれて上下に擦られると全身が溶けてしまいそうだ。
「っ……んっ……んんっ……」
蜜を絡めて竿を擦る瀬名の指先は容赦ない。敏感な先端を撫でられて理人は大きく背中を反らせた。
「っ……ん…っ……んんぅ……っ…」
「理人さん、声我慢しないで。もっと聞かせて」
ぐりっと先端を抉られて堪らず声が出てしまう。
「くそ……っ…それっ、やめ……っ…」
「止めていいんですか? 本当に?」
意地悪く言いながら、しとどに濡れた鈴口に爪を立てられた。
鋭い痛みと共に電撃のような刺激が走り腰がビクビクと跳ねる。
「っ……くそ……っ…あぁっ……」
あまりにも強烈な刺激に一瞬息が詰まりそうになる。
「ここグリグリされると気持ちいいでしょう?」
「っ……やめろ……っ…くそ……っ」
制止の声など耳に入らなかった。寧ろそんな言葉は逆効果だと言わんばかりに指先の動きは速まり快感を加速させていく。
「っ……ん…っ……んんんっ……ま、まてっ、も、出る……っく、」
内股が引き攣る程快感が全身を貫いた。だが、射精寸前で手を止められてしまう。解放を求めて切なく震える性器から涎のように蜜が伝う。
「っ……なっ……!」
非難の言葉を投げつけようとしたが、瀬名は涼しい顔をしてくすっと笑った。
「止めて欲しかったんでしょう? 理人さんの限界点が何処かってことはもう知り尽くしてますから」
いたずらっぽくククっと喉を鳴らされたら、怒る気力も失せてしまう。
全く、コイツは……人畜無害そうな顔をしているくせに……。
もどかしい気持ちを隠しきれぬまま拗ねたような表情を浮かべる理人の横で、瀬名は来ている物をすべて脱ぎ捨てた。鍛え上げ
られた上半身と引き締まった腰付きが露になり理人は思わず生唾を飲み込んだ。
素っ裸の姿にドキリとして、反射的に視線を逸らせそうになった理人の肩を掴み、ゆっくりと抱き起される。
「じゃぁ、ご希望どうり、続きはベッドで……ね?」
ふわりと微笑んで手を差し伸べる。その笑顔があまりにも甘く優しくて、不覚にもドキドキしてしまった。
「っ……クソが……」
悔し紛れに罵倒してみたものの、そんな言葉さえも愛おしそうに微笑み返されたら何も言い返せなくなってしまう。 結局は根負けして差し出された手に捕まって立ち上がった。 そのまま引き摺られるように寝室へ向かう。ふたりの間に言葉はなかった。
互いに密着したままベッドへとなだれ込むと、すぐに腰を掴んで引き寄せ、腿を跨ぐような形で足を開かされる。慣れた手つきでズボンと下着を一気に抜きとると、既に勃ち上がりきった性器が曝け出された。
「っ……」
羞恥心が込み上げてくるものの、ゆっくりと肌を撫でる手が後ろの窄まりに触れ、ほぐすようにゆっくりとソコに潜り込んだ。
「っ……ん…っ……んん」
「ハハッ、」慣らす必要ないんじゃないですか? 物欲しそうにヒクついていやらしいなぁ」
「……んっ、余計なこと言わなくていいから……早く……っ」
ぐるりと円を描くように腸壁をなぞる指先にびくんっと腰が跳ねた。
「はぁ……っ…ん……っ」
身体の位置を合わせ、狭い空間を押し広げるように硬くそそり勃ったモノを宛がうと、腰を掴んだまま大きく突き上げてきた。
「っ……く…っ……」
メリメリと肉を割るような衝撃と共に灼熱の塊が体内に侵入してくる。久しぶりに感じる瀬名の質量に意識が遠のきそうになったがギュッと目を瞑ってやり過ごした。
「っ……ん…っ……は、ぁっ……」
「理人さん……っ力抜いて。その方が、苦しくない」
「平気、だ……っ。構わず、そのまま……っ」
ゆっくりと腰を使われると内部の粘膜を強く擦られて全身が粟立った。
「ん……っ…んぅ……っ…」
圧迫感に苦しんでいるうちに徐々に馴染んできたのか次第に快感を拾い始める。律動に合わせて浅い息を吐きながら揺さぶられているうちにもっと強く求められるのを期待して脚を絡ませた。
「……随分キツイですね……。離れている間、ここ、使わなかったんですか?」
「あたり……前だっ……んっ、くっ……はっ、お前意外となんて、スる気……起きない……っ」
「……へぇ? あの理人さんが……」
コイツは人をなんだと思っているのか。心底驚いたような顔をして覗き込まれ、思わずムッとしてしまう。文句を言おうと顔をあげれば、口元に手を当てて照れたように頬を染めている瀬名と目が合って、なんとも言えないくすぐったいような気持ちになって視線を泳がせた。
「……くそっ、笑うなっ」
「笑ってませんよ」
「笑ってるだろ!」
「喜んでるんですっ……嬉しい」
嬉しそうに笑みを浮かべながら唇を重ねられて理人は戸惑った。
「ほんと可愛いなあ……。ごめんなさい……ちょっと、余裕ないかも」
「な――っ」
言い終わるなりガツンと大きく突き上げられ、声が裏返ってしまった。
「っ……はっ……ぁあっ! いきなり……っ」
「すみません。ちょっと……」
律動は激しさを増していき、激しく突き上げられながらベッドのスプリングが悲鳴をあげるほど揺さぶられる。
「っ……ん…っ……んぅ……っ」
「理人さんっ……気持ちいいっ? ちゃんと、気持ちいい?」
「はぁっ……んっ……いぃっ……」
「よかった……っ。もっと……もっと気持ち良くなって……」
必死な顔で息を荒らげる瀬名に胸がキュッとなる。
普段は笑顔を絶やさない瀬名がこんなに余裕のない表情をしているなんて滅多に見られない光景だ。その表情にゾクゾクと興奮が高まり背筋が甘く痺れた。
「っ……ん…っ……はっ……」
腰を掴まれたまま強く奥を穿たれると視界に星が散るような感覚に襲われて頭がクラクラする。何度も繰り返し突き上げられて理性が焼き切れそうだった。
「ぁっ……はぁ……っんっ」
もう何も考えられなくなっていく。ただただ与えられる快感だけを追いかけて貪欲に身体を開く。
「くぅっ……やばいっ……すっごく締め付けてくるっ……イキそうっ」
瀬名の声にも焦りが滲んでいた。追い詰められる感覚に興奮しながら自らも腰を振り乱す。
「っ……ん…っ……はぁっ……! 俺も……っ」
「理人さんっ……もう無理……っ」
「うぅっ……!」
呻くような低い声とともに最奥に熱い飛沫を感じて目を見開く。全身が弛緩していくと同時に自分のものも弾けた。
「っ……ん…っ……はっ……ぁぁ」
体中の熱が放出されたことでどっと倦怠感が押し寄せ全身から力が抜けていく。
互いの体温がまだ残るまま、静かな息だけが部屋に漂っていた。
肌に触れる相手の呼吸が妙に心地よくて、理人はただ天井を見上げていた。
「理人さん……」
甘えるような声とともに頬擦りされる。
柔らかな唇が頬や瞼に触れるたび、くすぐったいのに悪い気はしなかった。
「……大好きです」
囁かれた言葉に、胸が少しだけ熱を帯びる。
恥ずかしいやら、居心地の悪さやら――どうにも落ち着かない。
「……おう」
ぶっきらぼうに答えると、瀬名は小さく笑って抱き寄せてきた。
「理人さんは?」
「……知らん」
「えー? 僕のこと、どう思ってるんですか?」
「……さあな」
理人は視線を逸らしながら答える。
けれど、その手は離さずに、むしろ指先で相手の背をゆっくりとなぞった。
瀬名が少しだけくすぐったそうに笑う。
その笑い声が胸の奥を温かく撫でていくようで、理人は小さく息を吐いた。
「……ま、悪くねぇよ」
「え?」
「聞こえなかったらもう一度言わせんな」
瀬名は嬉しそうに目を細め、そのまま理人の肩に頬を預ける。
夜の静けさが、ふたりをそっと包み込んでいった。