テラーノベル
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数カ月前のことだった‥
まただ。
突き刺すような視線を肌で感じ、振り返ると‥決まって祐希さんがにこやかに微笑んでいた。
射るような視線を投げかけていた人物とは思えない表情に、気のせいかと、探るのを止めたが。
それは、何度も続いた。
「ちょっ、なんすか?」
時折、茶化しながら声を掛けたが「なにが?」と逆に聞かれる始末。流される対応に、もう聞くのを諦めたのだが‥
気付いてしまった。
更衣室にて、いつもの視線。どうせ振り返っても、祐希さんがいつもの顔をしているんだろうと、溜息を吐きながら、俯いていた顔を上げた時‥
目の前にある正方形の鏡に、不意に視線を移すと、そこには、こっちを激しく睨みつけるかのような祐希さんの表情が映り込んでいた。
ほんの一瞬だった。すぐに目を逸らしてしまったから。
瞬時に逸らしたおかげで、祐希さんには気付かれなかったと思うが。
心臓がバクバクと嫌な音を立てる。
あんな表情を、これまで見たことがなかった。
普段の柔和な表情は、そこには影も形もなかった。獰猛なハンターのような。試合の時に度々見られた、勝利への貪欲さ、闘志を剥き出しにしていた瞳に、妙に酷似していた。
普段から、祐希さんには何でも相談する間柄ではあった。もう1人の兄のようにも慕っていた。それでいて、バレーの相談をする事はなかったように 思う。憧れるのはやめた。それは、プロ意識にも繋がる。祐希さんをいつかは超えたいという思いからも。
それでも、祐希さんは俺にとって偉大な先駆者だった。ストイックな姿勢、バレーボールへの熱意はどの選手よりも凄まじかった。
身近にいて、貪欲に吸収したいと彼の近くにいた訳だが。
知らなかった。あの視線。俺はいつの間にか、嫌われてしまったんやろか。
突き刺すような視線。睨み。ほんの一瞬だったが、憎しみにも似た、そんな強烈な感覚は、俺を不安にさせるには十分だった。
それを境に‥何となく、何となく、自然と祐希さんと距離を取るようになった。
何も知らなかった頃には戻れない。
少しずつ。少しずつ。
その微妙に開いていく距離感に、祐希さん自身、どう思っていたのか、確かめる術はなかったが。
特に代わり映えのない様子に、次第に俺の意識も薄れつつあった。あの突き刺す視線を時折感じながらも、受け流すようになった。
今になって思えば、その時を狙っていたんだろうか。
慎重に、より確実にと。
気が付いた時には手遅れだった。
獰猛な牙からは逃れられない‥
コメント
6件
ん~~~~っ最ッ高ッ過ぎます!!!!!!! 本当に、毎度お世話になっております!!!!!🫶🏻💗*゜
藍ちゃん😅 ちょっと不穏な空気が少しずつ出て来ましたね… これからの展開がめちゃくちゃ楽しみです!!
らんちゃん逃げてー!食べられちゃう!