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2級大会が終わり、10月下旬。
スピンとステップ中心の猛特訓が始まっていた。
かなりマシになってきたある日、キャメロンが神妙な面持ちでりぃちょに声をかけた。
「…りぃちょくんに、決めて欲しいことあるんだけど。」
「なに?」
りぃちょは昼食を取りながら、腑抜けた声で返事をした。
「…1年でバッジテストを全部受けて技術を磨くか、3級以上を受けずに、ノービスBに出るか。」
相変わらず文字でびっしりと埋まったホワイトボードを見つめる。
しばらく考えたあと、りぃちょは口を開いた
「…どっちの方が、早く、確実にニキくんに追いつける?」
「…前者だね。でも大会がない1年ってだいぶ退屈で――」
「大丈夫、1年とかすぐだし。」
りぃちょは平然と弁当箱を片付けている。
キャメロンは目を見開いて固まった。
「ほ、ほんとにいいの?1年間全く試合に出ないんだよ?」
「だって、それが一番の近道なんでしょ?」
キャメロンは、りぃちょの答えを聞いたあともすこし考えるような仕草をしている。
「大会、緊張したけどむっちゃ楽しかったし、1年出れないのはちょっと残念だけど…」
「でも、ニキくんがいる大会に早く行ける方が、絶対楽しいから。」
「だから、1年なんかすぐだよ。」
りぃちょは、そう言って無邪気に笑った。
――りぃちょは、この間まで「遠回りの1年」を過ごしてきていた。
きっとすぐにでも専属コーチをつけて、試合に出たかったはず、ちゃんとした練習をしたかったはず。
でもこれからの1年は、スケートをやるための、遠回りをする1年じゃない。
追いつくための1年。強くなるための1年だ。
りぃちょにとって、これ以上の近道はない。
そう考えたのだろうと、キャメロンは思考した。
(――異常。でも、これはりぃちょくんの強みだ。俺がここでこの強みを潰したら、ダメになる気がする。)
「……わかった。よし、練習再開!」
パン!と手を叩き、りぃちょをリンクへ送り出す。
(……さて、欲しい技術はまだ山ほどある。音に乗ること、3回転2回転のコンビネーション、土壇場でしっかりと決められる精神力……。)
精神的に弱い選手にありがちなのは、大会独特の空気に飲まれてしまったり、前の選手の演技に飲まれてしまう…転倒で頭が真っ白になってしまうこと。
りぃちょは、2級大会で焦ってリカバリーをして失敗している。
(…りぃちょくんが決めたことだ、俺はただ支えるしかない。)
そして、まだキャメロンには懸念点があった。
(――ダブルアクセルの解放。)
りぃちょがずっと飛びたがっていたダブルアクセル。
止め続けてきたが、ついに”飛ばなければならない”状況になった。
前に進むための武器としてもそうだが、りぃちょの目を見て、避けて通らせる訳には行かないと思ったのだ。
(でも、もしも着氷できなかったら、りぃちょくんの自信を大きく削ぐことになってしまうかもしれない。)
飛べたのが1回だけということと、しばらく飛んでいないということを加味してどうにか抑えきれそうな気もするが…
「…やってみるしかない、よなぁ…………」
練習が終わり、帰路に着く。
自室で、ジャンプの着氷率・スピンの精度・スケーティング…全てを確認する。
練習を始めてしばらく経ったが、スピンの精度が中々上がらない。
そしてダブルアクセルは、一旦置いておくことにした。今は第一にスピンだと思ったのだ。
(難しいな………)
ペンをカチカチと鳴らしながら、考える。
(1年で6級まで…ニキ選手に追いつく…)
自分だけの力では不可能だと、何となくそう感じていた。
焦りが膨張して、ペンの音が加速する。
(どうする、1年で、絶対に追いつかせるには………)
「――あ。」
乱雑に電話を手に取る。
「いるじゃん、スピンのプロ」
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