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早朝
「りぃちょくん、兵庫行くよ」
「え?」
「お母さんには話してるから心配しないで。」
「いやそういう問題じゃなくて!」
「ほらはやく、新幹線乗って。」
「いやおれの意思は!?!?」
りぃちょを引きずりながら新幹線へ連行する。
「…なんで兵庫?」
りぃちょは口いっぱいに弁当を詰め込みながらもごもごと喋る。
「この選手、見たことない?」
スマホの画面を見せる。
「…あ、スピン練習の時に見たよこの人!」
「そう!今から、スピンのプロに会いに行くよ!」
「おおおおお!!」
最初の30分はやんややんやと騒いでいたが、疲れていたようですぐに寝落ちた。
――新幹線が止まり、アナウンスが流れる。
周りの乗客が席を立ち始めたあたりでりぃちょの肩を揺する。
「起きて、着いたよ!荷物持ってほら!」
「んー…………」
りぃちょは寝ぼけてフラフラの足取りで出口へと歩いている。
(危なっかしいな…)
念の為パーカーのフードを密かに掴んで後を歩く。
「ギャッ」
案の定誰かの荷物に引っかかりコケかけた。
フードを掴んでいて正解だった。
「っぶな…」
「すんません俺の荷物が!もう!ダメだぞ!めっ!」
「いやお前やろがい」
中学生くらいの男の子二人組がとんでもない体制で耐えているキャメロンたちの隣で小ボケをかましていた。
「こちらこそ…ほらりぃちょくん、ちゃんと歩かないと」
「ごめ――」
顔を上げて2人組の顔を見た瞬間、固まった。
キャメロンも続いて顔を見て、固まる。
「「ニキくんと白井選手!?」」
どうやらふたりは強化選手Bとして選ばれたようで、合宿のため兵庫に来たようだった。
「じゃあ、ニキくんが滑るとこ見れるってこと!?」
りぃちょが目をキラキラと輝かせながらキャメロンに迫る。
「いや、貸切練習中は基本見学NG…」
「……………」
明らかに不機嫌になってしまった。
「ま、俺ら一般の練習の時にも滑るつもりだし…そこで見ればいいやん?」
すかさずニキがフォローするが、りぃちょの気持ちは晴れなかった。
なんやかんやあって、スケートリンクに到着した。
「じゅうはっちーどこにいるかな…」
「あれ、キャメさんもじゅうはち探してんの?」
「うん、りぃちょくんのスピン練習のために…」
ふたりがキョロキョロと当たりを見回している間に、白井がりぃちょに声をかける。
「…お前、なんでそんなニキに執着しとるん」
「え?んー…ノービスんとき、凄かったから」
「見た瞬間、ビビッ!て来たんだよね。で、スケート始めた!」
白井はニコニコと嬉しそうに喋るりぃちょを、少し疎ましそうに見つめていた。
「…それだけで?」
「それだけ!いやだけってなに!?おれにとっては――」
りぃちょが色々喋っているが、白井の耳には届いていない。
「もしもたまたまテレビに映っていたのがニキじゃなくて他の選手だったら、その選手にビビッときとったんちゃうん。」
少しの嫌悪感と、少しの嫉妬心でりぃちょの心を揺さぶりにかかる。
「そんなわけないよ。おれニキくん以外の選手沢山見てきたけど、ニキくん以上の人見た事ないもん。」
りぃちょは、当たり前のように即答した。
羨ましい。
白井は心の奥底で、そう思った。
「…お前、努力すればどうとでもなると思っとるタイプやろ。」
「俺がいちばん嫌いなアホや。」
白井の頭には、焦りで上手く滑れなくなっていく選手の姿がフラッシュバックしていた。
リンクに立つと震える身体。
スケート靴を履くと立ち上がれなくなる足。
リンク特有の、冷たい空気が心底嫌いになる感覚。
明るい未来が待ち受けていたであろう、常に前を向いて突き進んでいた選手が絶望し、ダメになっていく姿。
「……なんか、口やかましい先生みたい。白井だから今日からしろせんせーって呼ぶね。」
しろせんせーは拳をグッと握った。
「……お前、話聞いとらんかったやろ。ぶっ壊れる前にやめとけ言うてんねん。」
苛立ちで声が震え、拳に更に力が入る。
「おれ人の事追っかけただけで壊れるほどやわじゃないも〜ん」
しろせんせーをおちょくるようにりぃちょは口を尖らせさっさと歩いて行った。
嫌悪感と羨望が頭の中でぐちゃぐちゃになって、しろせんせーはむしゃくしゃしたままりぃちょの後を歩き出した。