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力を感じないとは言ったが、それでも警戒しているのだろうか。【力天使】は俺から少し離れた位置に降り立った。
仰向けの状態からでも視界に入ってくる光を放つ巨体。
やはり10メートル以上はありそうに見える。
今の俺なら、あの足で踏まれただけでお陀仏だろう。
『【力天使】のエネルギーが集束していくのを計測しました。おそらく向こうの世界への時空を開くつもりだと思われます』
「――おい」
暗に時間が無いことを告げられた俺は、特に何の考えも無いまま話しかける。
「えらく余裕じゃねえか?もう俺に勝ったつもりでいるのか?」
この状況を見たら、十人が十二人そう思うだろう。
向こうは無傷に見える大天使。
こっちは全身傷だらけで血まみれの人間。
「――その体でも話すことが出来るのだな しかし 質問の意味は不明 今のお前からは 私に抵抗し得るだけのエネルギーを感じない だが その力が何なのかは知る必要がある」
完全に俺が何も出来ないことを察しているようで、話をしている間にも【力天使】の目の前に魔力のようなエネルギーが集まっていくのが見える。
「――【熾天使】」
その言葉に【力天使】が僅かに反応した。
「やはり お前は「Angelorum inimicus」を知っているのだな 人類の生き残りか いや それでは時間軸が合わない 逃げ延びた者の子孫なのか どちらにせよ 連れて帰れば分かることだ」
「俺がわざと動けないふりをして、【熾天使】のところへ連れて行くように誘導してるとは思わないのか?」
まあ、本当にそうなんだったら自分から言うはずは無いんだが――
「何だと?」
こいつらもAIを元に作られた知性のある生命体ならば、演算で導き出される全ての可能性を完全には捨てきれないはず。
人が相手なら戯言でしかない言葉も――今、この場においては、時間稼ぎ程度にはなりそうだった。
「俺はその【熾天使】という奴を斃す為に存在している。そんな俺を考えなしに連れていって良いもんなのか?」
連れて帰るという方へ傾いている天秤の傾きを、俺をこの場で倒す方へと戻していく。
その戻るまでの間が稼げる時間。
一気に傾けてはいけない。
徐々に、徐々に、ゆっくりと――
『収束していたエネルギーが拡散していきます』
「再測定開始……測定完了 残存するエネルギーでの【熾天使】へ危害の及ぶ確率0% 戦闘データ照合開始……照合完了 観測エネルギーでの【熾天使】へ危害の及ぶ確率23% 脅威レベル5」
「脅威レベル?」
『中々に優秀な演算装置を積んでいるようですね。驚異レベル5は 「God’s Creation Plan」の定めていた最大警戒レベルです。地球上では不滅の存在であるはずの【熾天使】を、《魔ギア》であれば滅することが出来るということに気付いたのですね』
「つまり?」
『回収することは諦める可能性が高くなりました。暫定ですが、80%以上の確率で攻撃を再開するものと思われます』
少々煽り過ぎたか……。
『【力天使】のエネルギーの上昇を確認。高出力のエネルギー弾のようです。回避不能』
「危険分子を排除 情報を回収出来ないのは残念だが ここで全て消してしまえば 問題ないと判断」
思ったよりも切り替えの早い奴だったようだ。
再び収束させていくエネルギーから強い光が放たれ始める。
身体の治療も進んでいるので、今なら何とか立ち上がるくらいは出来そうだが、この距離から躱すのは無理そうだ。
『残念ですが、時間稼ぎは失敗のようですね』
「……そうでもないさ」
何の勝算も無い、ただの独りよがりの賭け。
これは引くはずのないカードにベットしたような、まるで勝ち目のないギャンブルだった。
「――!?」
【力天使】の顔が歪む。
AIは、天使の器官にそれぞれの機能は無いと言っていたが、表情だけは豊かなようだ。
その体躯が左に傾いていく。
収束されていたエネルギーは再び宙に霧散していく。
唐突に左のふくらはぎ辺りが真っ二つに切断された【力天使】は、自らの質量を支えきれなくなり、大きくバランスを崩した身体は轟音を響かせながら大地に伏した。
「アベルさん!!」
ゆっくりと身体を起こし、俺の名を叫ぶ人物へと目をやる。
今にも泣きだしそうな表情でこちらを見ている青年。
「よう、カイン」
俺は酷く痛む右手を軽く上げて微笑んだ。