「……ぐすっ、うん、アリアの愛をいっぱい感じる……愛してる……アリア……」
「わたしも愛してるよ、サーシャ」
よかった、泣きやんでくれた。
あとは落ち着くまで抱きしめてあげればいい。
愛をこめてずっと……。
「私の幸せはやっぱりアリアだった……アリアを愛して愛される、それが私の幸せ……」
「嬉しいよ。わたしもサーシャを愛して愛されると幸せ……」
……ちょっと痛いよ。抱きしめる加減を間違えてない?
「……癒しの氷。サーシャ、あーん」
「あーん……。美味しいよ……ありがとう……」
「うん……」
よかった、普通のぎゅに戻った……。
愛の氷はちょっと過剰表現になるみたいだね。
愛はちょっと特殊な感じがするし、変な副作用があるのかもしれない。
非常時専用の魔術にしよう……。
「……もう一度、愛の氷を食べたいな……」
うっ……サーシャのお願いは断れないよ……。
「愛の氷……はい、あーん」
「あーん……んっ」
「!?」
指ごと食べられた!? 指を味わってる!?
ちょ、それ、指! 氷じゃないから、そんなに舐め回さないで!
「ゴメンね、ちょっと悪戯しちゃった」
「ビックリしたよー……」
ホントにビックリしたよ。
獣の本能が目覚めたとかで、人肉を食べたくなったとかだったらすごく怖い。
イタズラでホントによかった……。
「その指、舐めてみて」
「へ?」
「私の味を感じてほしいから。私ばっかりアリアの味を感じるのは不公平でしょ?」
「う、うん……」
わたしの味は魔力の味であって、唾液の味ではないんだけど……。
でも、いつもわたしの味って言ってるし、そういう意味ではそうなのかな?
うーん……意味がわからない……。
せっかくのサーシャの好意だし、いってみる?
「んぐ! ……んん? ふむふむ、むむむ、んー……美味しい……」
サーシャの唾液付き自分の指は以外に美味しかった。
「もう一回食べる? 愛の氷ちょうだい」
「うん、愛の氷……あーん」
「あーん……」
舐め回されわたしの指……ふやけて削れないよね……。
「……はい。いいよ」
「うん……んぐ、ふむふむ、ふむふむ、んんー、やっぱり美味しい!」
「直接味わう?」
「へ?」
え? それって、キスってこと……? サーシャが指を自分の口に入れて微笑んでる。
……これは冗談言ってる顔だね。久しぶりに見たよ。
さっきからサーシャの様子が今までとちょっと違うように感じる。
冷静で頼もしいお姉ちゃんから、明るくてイタズラ好きのお姉ちゃんになってる。
「ゴメンね、冗談。今日はこれで我慢する」
「むぐ!」
サーシャが自分の口に入れた指をわたしの口に入れた。
あ、これも美味しい……。隅々まで残さず味わう。
なるほど、サーシャもこういう気持ちで舐めてたのか……わかるよ、美味しいものは残したくないもんね。
「ありがとう、元気になったよ」
笑ってる……いつもより明るい感じのサーシャの笑顔だ。
わたしの口に入れた指を舐めながらイタズラっ子っぽく笑ってくれてる。冗談が言えるくらいには立ち直ったようで安心した。
「ゴメンね、一緒にいてあげられなくて……」
「もういいよ。明日からはずっと一緒、それで十分だよ」
「ありがとう、愛してるよサーシャ」
「私も愛してるよ、アリア」
それからちょっと抱き合ってトイレから出た。
……すごい、もう愛が自然にわかる。
サーシャと自然に腕が絡むけど違和感を感じない……これが愛なんだね。
「道場に……あ、図書室にカバンを置きっぱなしだ!」
「ゴメンね、私がトイレに誘ったせいで……」
「ううん、大丈夫。サーシャを愛せたから嬉しいよ」
「ありがとう、アリア」
図書室でカバンを回収して下校する。
ずっと周囲から見られてるけど、やっぱり今朝の殺す発言のせいなのかな……。
きっと陰口を叩いてるんだね……もう二度と好きにはさせないよ、サーシャはわたしが守る!
「サーシャ、もっとくっついて!」
「え? もっと?」
「うん、もっと!」
今はただ腕を絡めて肩を寄せてるだけだ。
もっとくっついてわたしが守れるようにする!
「ゴメン、これ以上は無理かな……」
「じゃあ、わたしがくっつく!」
「え?」
よく考えたらサーシャの方が身長がかなり高い。
向かうからくっつくより、わたしがサーシャの胸に抱きついた方が密着度が高い。
横からサーシャの胸に抱きつき周囲を威嚇する。
「ぐるるるるる……」
「アリア、これはちょっと、周囲の目が……」
「大丈夫だよ、周囲の嫌な視線なんて全てわたしが威嚇するから! サーシャはわたしが守る!」
「……ありがとう」
「うん! ぐるるるるる……」
わたしが横から胸に抱きついてサーシャが肩を抱いてくれる。
これだけ未密着してれば安心だ。いつでもすぐに守れる。
「道場に行く前に、うちとアリアの家に寄っていかない? お母さん達に結婚の報告をしたい」
「……そうだね。結構大事になっちゃったから、早めに言っといたほうがいいかもね」
「うん」
すごく嬉しそうな笑顔だ。
サーシャはおばさんのこと大好きだもんね。
わたしも昔から色々とお世話になってるし、好感度的にはお母さんよりおばさんの方が高い。
優しくておっとりしてる……うちのお母さんと正反対の存在。お小遣いもくれるし、美味しいお菓子もご飯も作ってくれる。 お小遣いなしとか、お風呂掃除とか、長時間のお説教がない理想の母親……。
あれ? うちのお母さんよりいいんじゃないの?
「わたし、サーシャの家に住もうかな……」
「そう言ってくれて嬉しいよ。でも、ダメだよ」
「え、なんで?」
「私がアリアの家に住む。昔からの決定事項だから、これは譲れないかな……ゴメンね」
「う、うん」
……昔からの決定事項? 昔からわたしの家に住むって決めてたの?
昔からわたしと一緒に住みたかった……愛されてたってこと?
わたし、サーシャの気持ちを完全に理解していたつもりだったけど、ホントに「つもり」だったみたい。
サーシャは昔からわたしを愛してくれてた。だから、結婚の時もすんなり愛してるとか一生愛するとか言えたんだ……。
「……ゴメンねサーシャ、今まで気付けなくて……」
「どうしたの急に?」
「わたし、サーシャのことが大好きだったけど、愛がわかってなくてサーシャの気持ちに気付けなかった。昔から愛してくれてたのにそれに気付けなくて、わたしはただの大好きな友達だと思ってた。だから、ゴメンね。今までの分、今日からいっぱい愛してあげるから」
「……うん、ありがとう……」
可愛い笑顔がちょっとうれし泣きしそうだよ。
サーシャを喜ばせることが出来てる……。嬉しい、このままいっぱい幸せになってもらおう。それがわたしの幸せだから。
「ただいま」
「おかえりなさい。アリアちゃん、こんにちは」
「こんにちは、おばさん」
「……二人とも、なにか嬉しいことでもあったのかしら? 幸せそうでよかったわ」
「うん。少し話があるんだけど、いい?」
「ええ。リビングで待ってなさい、ジュースとお菓子を準備するから」
「ありがとう、お母さん」
おばさん優しすぎるよ……うちのお母さんと交換してほしい。
ん? サーシャと結婚したんだから、もうわたしのお義母さんさんなのでは?
おばさんじゃ失礼だよね……次からはお義母さんと呼ぼう。
「サーシャの家はホントに落ち着くねー。わたしの家は常に戦場だからうらやましいよ」
「ふふ、私にとってはアリアの家が天国だよ。早く一緒に生活がしたい」
「そっか……他人の家って良く見えるとか聞くもんね……それかな……」
「ふふ、そうかもね」
サーシャが声を出して笑ってる……ホントに嬉しそうだ。最近は声を出して笑うことは少なかったからすごく新鮮に感じる。 きっと、わたしと結婚したことが原因だよね。ずっと一方通行だった愛がやっとお互いに通じるようになったんだもん、相当嬉しいんだと思う。
「お待たせ、アリアちゃん」
「あ、お義母さん、ありがとうございます」
「「え?」」
ん? 二人が硬直したよ? お互いがポカーンとしてる……。
「どうしたの、サーシャ?」
「……アリア、今、お義母さんって……」
「うん? 結婚したんだし、もうわたしのお義母さんだよね?」
「うん……そうだよ……アリアの、お義母さんだよ……」
「だよね」
サーシャが涙ぐみを超えてちょっと泣いてる。
「ほら、拭いてあげるよ、サーシャ」
「ありがとう、アリア……愛してる」
「うん、わたしも愛してる……だからほら、泣かないで」
「うん……。お母さん……私、幸せになったよ……」
あ、お義母さんのこと忘れてた。
硬直からのサーシャの涙のせいでそっちに意識がいっちゃった……。
……お義母さんは号泣してた……幽霊ショックのサーシャの逆バージョンだ。
口を両手で押さえて震えて泣いてる……だけど、これは嬉しすぎて泣いてるんだよね。
「ザナーシャ……やっと自分の幸せを手に入れたのね……おめでとう」
「ありがとう、お母さん」
サーシャとお義母さんが抱き合って喜んでる。
いいなー、仲のいい家族だ……。
混ざってもいいかな? いいよね? もうわたしも家族だし……。
わたしは二人が抱き合ってる上から抱きついた。
「サーシャもお義母さんも大好き、愛してる」
「「……」」
……もしかして、わたしはお邪魔だった? 感動の抱擁が無心の抱擁になった気がする……。
離れた方がいい、かな?
「アリアちゃん」「アリア」
二人が片手を伸ばしてわたしを間に迎えてくれる。
お邪魔じゃなかったみたいでよかったよ……。
ああ……幸せだよ……こんな風に抱きしめられたことなんかない。
うちは戦場、ここは天国……間違ってない気がする。
「アリアちゃん……ザナーシャのこと、これからも一杯愛して、幸せにしてあげてね」
「はい、もちろんです、お義母さん」
「ふふ、自慢の娘が二人になっちゃった。お母さんは幸せものね。ありがとう、ザナーシャ、アリアちゃん」
「私、お母さんを幸せに出来てる?」
「ええ、すごく幸せよ。ザナーシャは親孝行者のいい子。嬉しいわ」
「うん……よかった……」
サーシャとお義母さんはホントに仲良しさんだ。うちとは正反対……。
結婚の報告をしたら、お母さんもこうやって喜んでくれるのかな……。
「お母さん……私、今日からアリアの家に住んでいい?」
「ええ、お母さんは精一杯応援するって言ったでしょ。大丈夫、あなたはもう間違えない、自由にしていいのよ。ただ、アリアちゃんのご家族がいいって言ってくれたらね」
「うん」
「準備は出来てるのよね?」
「うん。あとはアリアのご両親に結婚の挨拶と、同居のお願いをするだけ」
「そう……。お母さんもクレアさんに挨拶をしたいから準備するわね。ゆっくり休んでなさい」
「うん」
……え、今日からうちに住むの? 早過ぎない?
それに準備が出来てるって……そんな簡単に同居の準備なんて出来ないよね?
どれだけ前からわたしのこと愛して、一緒に住むことを考えてたのかな……。
……もしかして、お母さん達はサーシャの気持ちをかなり前から知っていた? サーシャだけの準備じゃ、今日からうちに住むなんて無理だよね……お母さん達も協力して準備とかをしてたに違いない。
「サーシャはいつからわたしの家に住む準備をしてたの?」
「……聞きたい?」
「うん」
「……6歳の頃からだよ。だから6年前かな」
「ほえ?」
え? なんて言ったの? ろく、歳? 6年前?
それって、小学1年生ってこと?
サーシャが6歳ってことはわたしは4歳だ……そんなに昔から?
さっきの話で昔から愛してくれてるはわかってたけど、考えが甘かったみたい。わたしの考えてた昔って、せいぜい1~2年前だ。
わたしが記憶にないくらいちっちゃい頃から、サーシャはわたしを愛してくれてた?
わたしの一番古い記憶……サーシャが隣にいて、友達みんなでの公園での鬼ごっこ……。その時からずっとわたしを愛して、一緒に住むことを考えてくれてた?
(嬉しい……ずっと一緒にいてくれたのは、わたしを愛してくれてたからなんだね……)
わたしは今日初めて愛をしったけど、この気持ちがあればずっと一緒にいたいっていう気持ちは理解できる。今日1日だけですごくサーシャを近くに感じるし、もっと一緒にいたいと感じる。
……この気持ちを、6年間もずっと持っていた? わたし、ホントにバカバカの大バカだよ……。
どれだけサーシャを寂しい気持ちにさせてたんだろう……。6年間も気持ちが伝わらず、ずっと我慢して側にいる……。わたしだったら耐えられない。愛想をつかしてとっくに離れていると思う。
サーシャはホントにすごいな……すごく強い心の持ち主だ……。
「ゴメンね、サーシャ、気持ちに気付いてあげれなくて……そんなに昔からわたしを愛してくれてるなんて思わなかった……寂しかったよね、辛かったよね……ホントにゴメン……」
抱きしめて謝った。それしか思いつかない。
6年分の謝罪なんて全く思いつかない。
「ううん、アリアは悪くないよ。私が気持ちを隠してたから気付かなっかっただけ。私こそゴメンね」
「……どうして気持ちを隠してたの?」
不思議に思う。わたしはサーシャがしてくれること、言ってくれることは全部大歓迎だ。ちっちゃいころからずっと。
わたしが1年生の時に愛してるって言ってくれたら、最初は戸惑うかもしれないけどすぐに受け入れてたと思う。
……どうして言ってくれなかったの?
「……私ね、アリアに出会って1日目で好きになって、2日目で大好きになって、3日目で愛してるって気付いたの」
「え?」
……1日で好き、2日で大好き、3日で愛してる?
すごい、まるで恋愛小説みたい。
運命の出会い……そんな表現がぴったりの出会い。すごく嬉しいよ……でも、だったらもっと早くに言ってくれてれば……。
「おかしいでしょ? たった3日で4歳のアリアに愛情を感じたんだよ。愛してる、ずっと一緒にいたいって……」
「全然おかしくないよ。運命の出会いって感じがしてすごく嬉しいよ」
「ありがとう。でもね、急な気持ちの変化に行動がおかしくなっちゃたんだ……」
「え?」
おかしくなった? まさか、幽霊に乗っ取られたとか……。
「詳しくは言えないんだけど、そのせいでアリアやアリアの家族に一杯迷惑をかけちゃったの。だから私は気持ちを隠して、気持ちを押さえた。みんなに迷惑をかけたくなかったから」
「そうなんだ……」
詳しくは言えない……きっと、わたしなんかが想像できないことがあったんだ。サーシャが6年間も愛を隠すほどのなにか……。
言いたくないってことは、わたしにしってほしくないってこと……だったら聞かない。わたしの為に隠してるって信じてるから。
「でも、あの癒しの氷のおかげで気持ちを抑えられなくなっちゃった……」
「あの時はゴメンね……」
「……私は心のどこかで、アリアに愛してるって言ったら嫌われると思ってたのかもしれない。私は愛してるけど、アリアは私をただの友達としか思ってないかもしれないって……」
「そんなことは……」
「うん、そんなことは全くなっかった。あの氷にはアリアの気持ちがいっぱい詰まってた……大好き、ずっと一緒だよって言う気持ち。そして、私の心の傷をその気持ちが埋めてくれた。その時に感じたの、私はアリアに愛されてるって。それを知ったら後はもう我慢が出来なくなった……愛してるって言いたい、愛してるって言ってほしい、そんな気持ちが溢れて止まらなくなっちゃった」
正確には、後遺症の回復と魔力の回復、そのせいでああなったんだよね……。
氷のせいで愛してるって言って勢いで結婚……なんかヤダな……。それって、ホントの気持ちなのかな……。
「氷のおかげでアリアの気持ちがわかって、目が覚めた後のアリアの言葉で結婚したくなった。もう離れたくない、愛したい、愛されたい、夫婦になりたいって」
「わたしの言葉?」
目が覚めた後は傷も癒えて魔力満タンの正常状態だったはず……。後遺症や氷の影響で感情が高ぶってない普通の状態。その状態のサーシャに結婚を決意させた……。
……わたし、なにか言ったっけ?
目が覚めたらボーっとしてて、サーシャが氷を食べたいって言ってただけな気がする。そして急に「結婚して」って言い出した。
……わたしの言葉が結婚の決めて?
「うん、アリアの言った「わたしの味でずっと染め続けてあげる」……これで決心がついたんだ」
うん、言ったね「わたしの味でずっと染め続けてあげる」って。サーシャの魔力のコップにわたしの魔力を入れ続けるって意味だけど。
……それが結婚の決めて? なんで?
「その言葉を聞いた時に私はこう思ったんだ。ずっとアリアに染め続けられる、ずっと愛され続けるって……すごく嬉しくて、泣きそうだった。私はアリアだけのもの、他の誰のものでもない。愛され続けるなら愛し続ける。もっと近くにいたい、もっとアリアを感じたい……だから結婚したかった、夫婦になりたかったの」
結婚したかった、夫婦になりたかった。ホントの言葉でホントの気持ち……嬉しい……。
「……サーシャ……愛してるよ……ずっとわたしで染め続ける、わたしだけのサーシャだから」
「うん、アリアの愛で染め続けてね、私はアリアだけのものだから。愛してるよ、アリア」
わたしの味……そんな表現は失礼だった。
サーシャにとってあれはわたしの気持ちで、わたしの気持ちで染まり続けるんだ。
嬉しい……ずっとわたしだけのサーシャでいてほしい……。
「愛し合ってるところ御免なさいね、二人とも。準備できたわ」
「あ、はい」
いつの間にかお義母さんが横にいた。全く気が付かなかったよ……。
お義母さんはすごくいい笑顔をしてる。
わたしたちをからかってるとかじゃない、心の底からわたし達の関係を喜んでくれてる笑顔。
「本当に邪魔をして御免なさい。二人の邪魔したくなかったのだけど、時間を忘れて愛し合ってるみたいだったから声をかけさせてもらったわ。日が暮れる前に、アリアちゃんのご家族に挨拶に行きましょうか」
「はい」「うん」
ホントだ……結構な時間がたってる……。
ジュースとお菓子、全く手をつけてないよ……。
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