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戻ってきたムームーが見たのは、小屋の前に累々と横たわる屍の山だった。


「総長何やってるんですか……」

「ぜぇ…ぜぇ……おぅもどったか。てつだってくれないか?」

「助っ人ですか!」

「ありがたい! 覗き魔どもを縛ってくれ!」


ピアーニャと女性数名が、小屋の前に立ちはだかり、男達を張り倒していたのだ。

違う場所でニンジンの着ぐるみを脱いで、ウエイトレス風の服に着替えたムームーは、糸を出して紐を作り、倒れている男達を縛っていく。


「……なんかこっちにも女性が混じってません?」

「面白そうだからってノリで覗きにかかってきたので、一緒にブチのめしました」

「ノリ!?」


ノリならば仕方がない。

ピアーニャは引き続き見張り兼撃退に立ち、防衛側で覗き魔全員を縛り上げた所で、小屋のドアが開いた。


「騒がしいですけど、何かあったんですか?」

「おそいわっ! いままできがえてたのかっ」

「違いますー。アリエッタを可愛がってたんですー」

「よけいワルいわっ」


小屋の中ではアリエッタがグッタリしている。着替えついでに色々されてしまったようだ。

そして小屋を防衛していた女性陣が、仲間になりたそうにミューゼを見ている。しかし気付かれない。


「ん?」


ピアーニャが何かの気配を感じた気がした。


「……きのせいか?」


振り向いても何もいないので、気にしない事にした。


「ところで総長、キュロゼーラからの情報をまとめたんで、至急会議を開きたいんだが」

「ん? わかった。それぞれのグループのリーダーでいいか?」

「おう、それで問題ねぇ」

「よーしミューゼオラ。いっしょにこい」

「……へ?」




小屋から離れた壁際に、シーカーの拠点がまとまり始めていた。施設こそは無いものの、いくつか魔法で柱を建て、目印になっている。足場になっている枝はかなり太く、集落程度なら問題無く作れるので、今は塔や周辺施設の設計をしているようだ。

シーカー達は塔建設予定地の隣にある、リージョンシーカー支部予定地に集まり、会議をする事になった。


「えっと……これでいいですか?」

「ありがてぇ。お前の魔法って本当に便利だなぁ」


植物魔法を使って大きなテーブルと丸太椅子を作らされたミューゼは、バルドルに礼をいわれてこの場を離れようとした。


「いやいやもどるな。ミューゼオラもカイギにさんかするんだよ」

「へ? いやいや、あたしまだ下っ端ですよ?」


ミューゼはまだシーカー歴1年以内である。重要な会議に出られる立場とは到底思えない。


「いやだってオマエ、ショクブツにくわしいじゃないか。このリージョンにくるキッカケにもなったし。キュロゼーラのジンカクのモトだし。いまこのナカじゃ、いちばんのジュウヨウジンブツだぞ?」

「えぇぇ……」


横のバルドルも、周囲のリーダー達も、うんうんと頷いている。

渋い顔でどう断ろうかと考えていたが、何故かキュロゼーラが蔓でポンポンと肩を叩き、ふるふると横に体を振った。


「………………」


よく分からない雰囲気になったせいで、ミューゼの目が点になり、なんとなく諦める気分になったのだった。

追加で椅子を作り、ピアーニャを抱っこして座ったところで、ようやく落ち着いた。


「ってまて! おろせ!」

「……いやでーす」


いきなり会議に参加させられた嫌がらせである。

他のリーダー達がクスクスと笑ったところで、バルドルが会議を始めた。


「おぉい! わち、わちがまだムリだっ!」

「いや大丈夫っす。総長はそのままで」

「ダイジョウブじゃなああい!」


総長の現状は、全力でスルーされた。

会議が終わった後の事が怖いと考えたリーダー達も、さっき笑ったから助けても助けなくてもどうせボコボコにされると考え直した。それならば今は弄り倒して、会議後は全員で抵抗するべきだと、視線だけで一致団結。シーカー達の結束は、総長にとって嬉しくない方面でかなり固いようだ。


「……それで、なにかわかったのか?」


ムスッとした顔で、ミューゼの腕の中から話を切り出すピアーニャ。途端に温かい目になるシーカー達に怒りが込み上げてくるも、今は話を進めたいので我慢している。


「まずはこのリージョン……名前は『ネマーチェオン』でいいっすかい?」

「うむ、もともとナマエがあってラクだな」


念のためリージョン名を確認したところで、本題である。


「実はこの『ネマーチェオン』に、ドルナがいます」

「そうかそうか、ドルナが……は?」


いきなりの情報に、ピアーニャの反応が遅れた。ミューゼも渋い顔をしている。

ドルナとは、夢のリージョン『ドルネフィラー』から漏れた、夢の生命体である。夢の元となった存在の見た目や記憶をそのままに、夢の世界であるドルネフィラーから独立してしまった存在で、色々なリージョンに散ってからは大小様々な混乱を起こしているのだ。


「どんなドルナだ?」

「実はまだよく分からないんですよねぇ。聞いた感じでは植物っぽいなーとは思うんですけどぉ」

「明確に生きて動いているらしいんだ。だけど俺達の知らない生き物みたいで……」


情報をキュロゼーラから聞いていたシーカー達が、口をそろえてよく分からないと言う。キュロゼーラ達も、外界の事はミューゼの記憶でしか分からないので、特徴はいくつか挙げているが、それが植物かどうかなどは分かっていない。

キュロゼーラ達の証言は、次の通りである。


ニンジン型A「ネマーチェオンの養分ヲ吸収していマす」

ホウレンソウ型C「時々根付こウとしているノか、ネマーチェオンを突いていルのデすが通り抜ケてしまイます。しかし、じワじわと入ってくる時もありマす。その時に吸収シているのデしょう」

トマト型B「あレは根ではないカもしれませン」

モヤシ型H「ヨく水の中で寝ていマす」

ニンジン型T「伸ビている中ノ1本が、半透明なんですヨ。こレはおそらくドルナの証拠でス」

イモ型C「最近コの近くでうロついてイます」

キャベツ型F「会話は出来ないですネ。試しに近寄ってミましたガ、襲い掛かってきて、お口の中ヲすり抜けテしまいまシた。食べてもらエないとは残念でス」


「……うん、ドルナっぽいな」

「それも狂暴な生き物かも……」

『はぁ……』


ピアーニャとミューゼが、同時にため息を吐いた。こうなると、自分達が主体となり、アリエッタの力に頼る事になるのだ。どういう生物のドルナなのか分からない以上、あまりアリエッタを連れて行きたくはない保護者達。

事情をある程度知っているバルドルも、その考えを察したのか、口を挟んだ。


「こうなったら、本部から対ドルナ用武器を取り寄せるか」

『うっ……』


代案を出したら、今度はシーカー達が渋い顔になった。

対ドルナ用武器とは、アリエッタが色をつけた武器で、その効果は触れる事の出来ないドルナを討伐出来るという物。特に、パフィの持つナイフは炎の絵が描かれていて、アリエッタの髪が虹色になっているか、アリエッタが触れている時に限り、斬ったモノを炎上させる事が出来るのだ。

しかし、アリエッタが依頼されて塗った対ドルナ用武器は、パステルカラーに花柄や動物の絵や模様が描かれていて、とてもファンシーに仕上がっている。屈強な大人達が持つには、ビジュアル的に厳しいのだ。


「いやいや、ここはすぐに対策を練れる総長が一番いいですって」

「そうそう! 近くにいるなら早急に対処すべきです!」


極秘事項であるアリエッタの事を知らないシーカー達は、ドルナの件をパフィ達に任せるつもりでいた。しかし、ピアーニャがジト目で拒否する。


「わちとパフィとムームーはともかく、ミューゼはシンジンだし、ラッチはみならいだぞ。いけるわけないだろ。アリエッタコドモもいるしな」

「いや…その……」

「でもなぁ……」


今回は調査の経験を積む為と、ミューゼが必要だからという事で、総長同伴という条件で同行を許したのだ。トラブルに積極的に首を突っ込むのは、流石に許容出来ないのだ。

先程の巨大な花は、巻き込まれただけで、遭遇しなければ他の者に任せていた筈である。


「とにかく。ブキのとりよせをたのむ。ぜんいんぶんな」

「了解した」

『うわああああああああ!!』


アリエッタにコツコツ頼んだ武器は、ここにいる武器所持者全員分は揃えられる。ラッチのように武器を持たない面々の分は、流石にどうしようもないが。

可愛らしい武器を持って、延々と探索する未来が決まってしまったシーカー達は、絶望のあまり頭を抱えて叫ぶのだった。


『うわああああああああ!!』

「おまえらうるさい!」


叫び声が一気に大きくなり、文句をいうピアーニャだったが……


「へっ? いや、今のはあっちだ!」

「ん?」


叫び声が自分達以外の場所から聞こえ、叫んでいたシーカー達が駆け出した。

展開について行けないピアーニャとミューゼだけが、その場に残されてしまった。


「……ミューゼオラ。でるぞ」

「ほっ!?」


ピアーニャは叫んだ本人ではなかった為、確かに反応は遅れたが、すぐに動けなかったのはミューゼに拘束されていたからだったようだ。

我に返ったミューゼが、立ち上がって振り返った。ピアーニャを抱えたまま。


「いやおろせよ!」


文句を言うが、ミューゼは固まってしまって離さない。ピアーニャがその視線の先を追ってみると、それはいた。


「……えぇ」

「何か変なのがいる……」


それは逆さまになった巨大なニンジン。だいたい人の大きさで、下にある蔓を使ってウネウネと歩いていた。蔓の1本が半透明になっていて、全身は見るからに布で出来ている。

その姿に、ミューゼ達は見覚えがあった。


「あれって、マンドレイクちゃんの服?」

「だよな?」


先程まで着ていた着ぐるみである。

周囲のシーカー達も距離を置いて、それを警戒しながら囲んでいる。ただ、その中にいるムームーが愕然としていた。


「なんで……なんでわたしの服がドルナになってるのおーーー!!」


その時、男達の目がギラリと光った。

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