テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
夜の街はまだ静かだった。マイッキーはコンビニの明かりを背に、スマホをポケットにしまう。
画面はもう暗い。
通話も、通知も、全部消した。
「……よし」
誰に会っていたか、何をしていたか。
それを言うつもりは、最初からなかった。
言わなければ、問題にならない。
帰れば、いつも通りになる。
そう思って、鍵を回す。
時計は、また朝に近い時間を指していた。
「……おかえり」
リビングの電気はついていて、ぜんいちは起きてた。
同じ光景。
同じ時間。
マイッキーは一瞬だけ目を逸らして、
「ただいま」とだけ言う。
「また朝なんだけど」
ぜんいちの声は低い。
怒ってるというより、疲れてる。
「ちょっと外出てた」
マイッキーは靴を揃えながら言う。
「昨日も同じこと言ってた」
「そうだっけ」
軽く返す。
それだけで、ぜんいちは少し黙る。
「……何してたの」
「一人」
「ほんとに?」
ぜんいちは近づいてくる。
顔を覗くみたいに。
「誰とも?」
「俺がぜんいち以外見ると思う?」
即答。
迷いも、間もない。
ぜんいちはその目をじっと見て、
やがて視線を落とした。
「……そうだよね、ごめん」
信じた。
疑う理由がないから。
マイッキーはそれを見て、ほっと息を吐く。
いつもこうだ。
ぜんいちは、信じるほうを選ぶ。
「心配かけてごめん?」
マイッキーはそう言って、距離を詰める。
ぜんいちは一瞬だけ身構えてから、
そのまま受け入れた。
「……まぁ、人それぞれ用事はあるよ」
「連絡はほしいけど」
「次はするよ」
また、嘘。
でも優しい声で言えば、それで終わる。
マイッキーはぜんいちの頭を撫でて、
軽く笑った。
「そんな顔しないで」
「ちゃんと戻ってるでしょ」
ぜんいちは、その言葉に弱い。
戻ってきた、という事実だけで安心する。
「……うん」
小さく頷く。
マイッキーはその様子を見て、
これ以上何も言わせないように、
ソファに一緒に座らせた。
「ほら、眠そう」
「少し寝よ」
誤魔化すみたいに、距離を縮める。
触れてしまえば、ぜんいちは深く考えなくなる。
本当のことは、夜の外に置いたまま。
嘘は、また静かに重なっていく。
それでも、
ぜんいちは今日も信じてる。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!