(………ぶ?)
俺は、一体どうなったんだ?
(………ょうぶ?)
そうだ、思い出した。
ゴブリン・イクシードとの戦いの後、洞窟の崩落に巻き込まれたんだった。
じゃあ俺は、死んだのか?
体が石のように重いため全く力が入らず動かせない。
それに光も全く感じない。
でも、なんでだろう。
何かに優しく包まれている、そんな気がする。
(………だいじょうぶ?)
声が…聞こえる?
聞こえるというより頭に響いてくる…?
この可愛らしく、そして透き通るような綺麗な声。
どこかで聞いたことがあるような…
でも思い出せない。
誰なんだ、君は?
(…覚えてない?前に森で私を助けてくれたでしょ)
森で助けた…?
誰も助けた覚えなんか…
あっ。
そうだ、思い出した。
森で初めてゴブリンと遭遇した時に誰か分からない声が聞こえたんだった。
思い返してみればその時の声と何だか似ている気がする。
(…覚えていてくれたんだ。ありがとう!)
覚えていたかと言われれば…
まあそういうことにしておこう。
ところで君は誰なんだ?
(私…?私はね、この森で生まれた精霊だよ)
精霊…?
君はこの森の精霊なのか?
(この森は私の故郷なんだ。だから守ってくれて、ありがとう…!)
もしかしてゴブリンたちのことか?
そうなのか、誰かの役に立てたのなら良かったよ。
俺の犠牲は無駄じゃなかったってことだ。
(…犠牲になんかさせないよ。だって私の恩人だもん!)
…ありがとう、そういってもらえるだけで嬉しいよ。
でも俺はもう…
(あなたはまだ死んでないよ。周りをよく見てみて!)
俺は言われた通りに石のように重いまぶたを持ち上げて周りを見てみる。相変わらず真っ暗闇なのだが、徐々に暗闇に目が慣れてきたのか岩のようなものが見えてきた。
洞窟の崩落に巻き込まれたはずなのに、なぜか俺の周囲だけ岩が避けられている謎の空間がある。まるで何かの力によって守られているかのように。
…まさか
(そうだよ…!私があなたのまわりに空気の障壁を張っておいたよ)
そう、だったのか。
ありがとう…俺も君に助けられたんだね。
(でも私、攻撃魔法は使えないから岩からあなたを守るので精一杯なんだ…)
…そうなのか。
大丈夫だよ、その気持ちだけで十分ありがたいよ。
最後にこうやって君と話せただけでも俺は嬉しいし。
(ここから出たらもっと話そうよ!…だめ、かな?)
駄目じゃない、駄目じゃないんだけど。
…申し訳ない、俺はもうゴブリン・イクシードとの戦いで魔力を使い切ってしまったんだ。せっかく守ってもらったのに申し訳ないんだけど、正直俺にはここから脱出できるだけの力はもうないんだ。
本当に申し訳ない。
(…ってことは魔力さえあれば脱出できるってことだよね?)
うん、そうだけど…
すると突然、暗闇の中に一つの光が現れた。それは手のひらに収まるほどの小さな光だったが、そこから発せられる光を見ていると何だか安心感が湧いてくる。
「じゃあ…あのね。これからも、私と仲良くしてくれる?」
その光から先ほどまで聞こえていた声が聞こえる。
そうか、これが君なんだね。
死の淵で助けてくれた君には感謝しかない。
もしここから出られるのであれば君と一緒に笑いあって、楽しい生活を送ってみたい。
俺は君と仲良くなりたい。
だからこそ、返事は決まっている。
「…もちろんさ」
直後、その小さかった光がさらに強くなり辺りを強烈な光が包み込む。
その光に包まれると同時に体中から力が湧きあがってくるのを感じた。
「こ、これは一体…?」
今まで重かった体も徐々に軽くなっていき、気づけば俺のMPが完全に回復していたのだった。
「…これからもよろしくね!」
えっと、一体どういうことなんだ?
突然のこと過ぎて頭がついていっていないんだけど。
《条件を満たしました。スキル『精霊召喚』を習得しました》
《条件を満たしました。称号『精霊と絆を結びし者』を獲得しました》
う~ん、余計に分からないことが増えたな。
精霊召喚はなんとなく分かるけど、この称号は一体なんだ?
「これで君に魔力を渡せたよね?じゃあここから脱出しよう!!」
もしかしてさっきのが俺に魔力を譲渡する条件だったのか?う~ん、分からないことだらけだけどとりあえず魔力が回復できたんだから早くここから脱出しよう。
俺は動ける程度に回復魔法で体の傷を癒す。脱出するために貴重な魔力は温存しておかないといけないからな。立ち上がって回復した体の状態を確認したが、問題はなさそうである。
「ありがとう!そういえば、自己紹介がまだだったね。俺はユウト。君は?」
「ユウト…ユウトね!私はね、ただの精霊だから名前はないよ」
そ、そうなのか。
名前がないとちょっと不便だよね。
う~ん、どうしようか。
仮でも何か呼び名があった方が話しやすいしな…
俺の命の恩人だから、救う…回復…癒し…
「…セラピィ、良かったら君のことセラピィって呼んでもいいかな?」
「…セラピィ?ありがとう!!すごく嬉しい!!!」
するとセラピィがさらに大きくなり、光もさらに強くなった。そういえば、よく異世界のお話だと名付けって重要な行為だけどここでももしかしてそうなのかな?
「よしっ、じゃあここから脱出するとしますか!」
「うん!」
ゲングさん達も心配しているかもしれないし、さっさと脱出しますか!
俺はセラピィのおかげで回復した魔力を使い、この洞窟から脱出するための進んでいく。
土魔法で岩を崩し、外へと向かって進んでいく。
また崩落されたら困るので掘るのと同時に周囲の壁を硬く補強することにした。
そして約20分後、俺の目に久しぶりの日の光が差し込んだ。
久しぶりの外の空気はとても気持ちがいい。
空はすっかり夕焼けのオレンジ一色に染まり、長い一日の終わりを告げているようであった。
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