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投稿ありがとうございます.ᐟ.ᐟ 1週間も桃さんに告白代行した方...、すっごく気になります.ᐟ🤭💗 仕事のオンオフをつけているような感じ桃さんっぽくて、 すらっと言葉が頭に入ってくる語彙力、、天才すぎます.ᐟ.ᐟ🎓✨ 続き楽しみに待ってます.ᐟ
他サイトが分からなくて永遠にこっちの更新楽しみです笑 続きもゆっくり待ってます♪
新しいお話! 依頼主さんは誰なんだろ〜! 続きめっちゃ楽しみです!
【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
限界社畜リーマン青×代行業桃パロ
毎日同じことの繰り返し。
タスクに追われ期限に追われ、山積みのそれが片付いた頃には次の山がやってくる。
上司からは圧力、下からは泣きつかれるという板挟みに苦しむ中間管理職。
変わり映えしない毎日に、それでも嫌気が差して病むような暇すらない。
そんなこと考える時間すら惜しい。
彩りもないその日常に、その日初めて鮮やかな色彩が入り込んできた。
まるでモノクロのような世界に、差し込んだのはまばゆいほどのピンク色。
突然目の前に現れた一人の男は、その桃色の髪を揺らし、あろうことか俺の前に跪いた。
「好きです、付き合ってください」
残業を終えて会社を出たところだった。
待ち伏せしていたのか、急に自分の目の前に姿を見せたピンク色。
センター分けから覗く額は狭く、髪と同じピンク色の瞳はゆるりと細められている。
上質なスリーピーススーツに身を纏ったそんな男に、見覚えなんてこっちはない。
あまりにも整いすぎた顔は同じ人間とは思えず見惚れてしまったせいで、相手の薄い唇からもたらされた言葉を認識するのに余裕で数秒かかった。
「……はい?」
正反対に、くたびれたスーツを着たしがないサラリーマンの俺。
そう問い返す俺の前に、ピンク色の彼はずいと何かを差し出した。
後ろ手に隠していたらしい。それはそれは大きな花束だった。
花の種類になんて詳しくないせいで、それが「青色」であるという認識しかできなかった。
思わず目の前のそれと、ピンク色の男を交互に見比べる。
ためらうこちらになんてお構い無しに、目の前の彼は「だからぁ」とさっきよりも少しだけ気怠そうに崩した声で言った。
「好きです、付き合ってください」
「…ちょちょちょ、ちょっと待って…!」
もう一度繰り返された言葉は、どうやら俺の聞き間違いではなかったようだ。
慌てて遮ろうとしたけれど、そこでハッと気付いた。
もう夜遅い時間とは言え、社内の人間はまだ近くにいる。
退社した瞬間に美形の男に跪かれて花束を差し出されている俺に、同じ社の人間のいくつもの目が好奇の色を向けてくる。
「人違いじゃないですか!?」
「合ってますよ。◯◯社のいふさんですよね。好きです、付き合ってくださ……んぅ」
3度目の言葉は最後まで言わせなかった。
周りの目なんて気にすることなくとんでもない発言を繰り返す口を、バッと両手で押さえて遮る。
「ちょ、ちょっと、場所変えましょう!」
慌ててそう言った俺。
口を押さえられたピンク男の瞳は、瞬きを繰り返した後、やはり愉快そうに細められた。
「だ、代行…?」
「そ」
もう人気の少ないコーヒーショップの1番隅の席につき、俺は目を丸くした。
こんな時間では酒を飲みに行く人間が多いせいか、閉店間際のカフェはほとんど客がいない。
一通り事情を聞いた俺に、「ないこ」と名乗った目の前のピンクの男は短く応じた。
「ネタバラシ」をしたことで、ないことしてはもう全て終えたつもりらしい。
持っていた花束は断ることも許されず押し付けられ、今俺の隣の椅子に置かれている。
「代行って…つまり、さっきの告白の?」
「そ」
これまた短い返事。
もうやることは終えたと言わんばかりに、ないこは敬語だった口調も崩してアイスコーヒーをストローでぐるぐるかき回している。
ないこの話をまとめるとこうだ。
こいつは「代行業」という職に就いているらしく、今回は顧客の一人に代理で告白するように頼まれた、とのこと。
スーツで決めて行くのも、青い花束を持って行くのも依頼人の指定らしい。
「あかん…全然理解できん…」
「まぁそうだろうね。俺もさすがに男に告白したのは初めてだわ」
はは、と笑うと八重歯が覗く。
その歯でストローを噛むようにして咥えると、吸い上げられたコーヒーはストローを黒く彩ってないこの口内へと昇っていった。
「代行業って、こういう告白を代理ですることなん?」
「それだけじゃないよ。レンタル彼氏みたいなこともするし、退職代行みたいなこともするし。暑い日の草むしりだってするし、冬は雪かきもあり。要は頼まれたことは何でも代わりにやってあげるって感じ」
「便利屋やん」
「何でも屋さんって言ってほしいなぁ。便利屋っていうとテイよく使われてるだけっぽいじゃん」
俺からしたら大差ないが、ないこにはないこなりのこだわりがあるらしい。
冗談めかした口調で、それでもきちりとこちらの言葉を訂正してくる。
「…それで、誰なん? 俺に告白してなんて頼んだ人」
吐息まじりに尋ね、グラスを持つ親指で表面の水滴を拭った。
それを冷たいと思う感情すらなく、ただ混乱する頭を落ち着けようと尽力する。
「依頼人に関しては守秘義務があるから」
…答えられない、ということか。ますます理解できない。
「その人、何がしたいん? 自分が誰かも明かさんまま他人に告白頼んで『付き合ってください』って…俺が「うん」って言うわけないやん? だって誰からの告白かも分かれへんねんから」
「知らないよ。俺は頼まれただけだし」
「……」
「でもさ、そういうとこなんじゃないの?」
汗をかいたようなグラスが、紙製のコースターに染みをつくっていく。
徐々に広がっていくそれが、今の俺の困惑を表しているようだとも思った。
「俺に告白代行を頼んできた依頼人に、心当たりないの?」
「…そ…れは…」
さっきから回らない頭で考えてはいる。
だけど誰一人として思い浮かばない。
同じ社内の人間に密かに好かれているなんて自覚はないし、昔どこかで絡んだ人間の顔を思い浮かべてみても告白されるような心当たりもない。
ましてや行きつけの店やコンビニの店員…なんてドラマみたいな展開は、自分みたいな地味な人間には現実味がない。
「分からんよそんなん…」
「だからじゃない? 告白して『君、誰?』なんて言われたら立ち直れないじゃん。好きな人の心に自分が全くいないことを自覚するのって怖いんじゃないの」
「…ないこはそうなん?」
「……一般論だよ」
まろはさ、とないこは言葉を継いだ。
周囲の人間からは「いふ」「いふまろ」なんて呼ばれているとさっき話したところ、1番妙な部分をあだ名として取り上げたらしい。
「そういう弱い人間の気持ち理解できない? 強い人間ばっかりじゃないんだよ。想いを伝えたいと思っても、体当たりするみたいに本人に直接ぶつかっていける人間ばかりじゃないんだよ」
「いや、それは分かるよ…!? 分かるけど、この手段は何の意味もないやん…?」
だって誰か分からない以上、俺は絶対に受け入れるわけにはいかないのに。
「意味があるかないかは、依頼人が決めるんじゃない? 自分で」
ずず、と音を立ててないこはアイスコーヒーを最後まで飲み干す。
既にぐしょりと濡れたコースターにそのグラスを戻すと、かたんと椅子を引いた。
「まろがどう思おうが、俺は依頼人から7日間毎日まろに告白代行するように頼まれてるから」
「は…!?」
今日だけちゃうん!? そう言いかけた言葉を紡ぐ前に、ないこが笑った。
「また明日来るね」
「いらんて…!」
ウィンクしながらテーブルの上の伝票を持ち上げるないこに、思わず呻くような声を返した。
こちらの抗議口調なんて気にかける素振りもなく、あいつは笑いながら身を翻す。
「なんなん…この状況」
遠ざかっていく後ろ姿を見送って、小さな呟きが漏れた。
毎日毎日、代わり映えしない生活だった。
つまらない人生…そう思う暇すらないほどに忙しさに追いやられていて。
そんな色褪せたモノクロの世界に、急に差し込んできたピンク色。
少しだけ……ほんの少しだけ、明日が楽しみになっている自分に気づいて自身で驚いた。