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食後、ティルをルーシーの家に招いた。満腹でベッドに転がり、丸まって眠りこけるティル。ルーシーが明日こそはと、調査資料を整理するために図書室へ籠もった。
リビングには僕と、月明かりを背負ってソファに深く腰掛けるメリルの二人だけがいる。
僕はお茶とルーシーの作り置きのアップルパイをテーブルに置き、彼女の正面に座る。マジシャンにとって、沈黙は観客の期待を煽る演出だが、今のこの空気は、もっと重く、冷たい。
「これ、いただいていい? お腹が空いてて」
「どうぞ」
メリルはお茶を一口飲んだ後、パイを頬張った。しばしの沈黙。パイが半分ほどなくなったところで僕は話を切り出した。
「少し前から気になっているというか、気づいたことがあるんです」
「なぁに?」
メリルはどこか僕をからかうような甘い声で応えた。だが、僕は逃げない。
「メリルさん、あなた……」
彼女の瞳をまっすぐと見据える。
「あなた、本当は不老不死じゃないですよね」
初めて、彼女の顔から完璧な笑みが消えた。まるで世界から音が消えたような静寂。僕は構わずに、カードをめくるよう言葉を続ける。
「厳密に言うと、あなたは不老不死ではなくなった。それもつい最近」
「……どうしてそう思うの?」
感情の抜けた、無機質な声。それが彼女の地声なのだろう。
「最初からおかしいなと思うことばかりでした。初めて会った日のルーシーとの会話。『最近お肌の調子が悪い』と言いましたね。不老不死者は老いることがないはずです。つまり細胞の劣化が起きないはずなのに、肌の調子が変わるというのは、生物的なリズムが戻った証拠だ」
メリルが小さく頷く。やはり、当たりだ。
「それだけじゃありません。あなたが回復魔法を使っていたという噂も聞きました。首を切られても一瞬で治るはずの『不死者』が、わざわざリソースを割いて回復魔法を使う必要はない。それに……さっきのパイ。お腹が空いたと言って食べていた。空腹は代謝がある証。不老不死なら、栄養摂取すら不要なはずだ」
「本当に美味しそうだったから、ついポロっと言っちゃった」
メリルの声に、少しだけ人間味のある艶が戻ってきた。自嘲気味な、薄い微笑。
「あなたが不老不死の力を得たという噂が広まったのは、二十五年前。調査団の記録にもそうあるらしい。呪いには何か代償が必要だ。二十五年前に払った代償の効果が最近、切れた。そしてあなたはなぜかこの町でなにやら不穏な動きをしている。この近くで起きた最大の異変は、僕が異世界からやってきたこと。ちなみに――僕は二十五歳です」
メリルの表情が完全に消えた。冷たい彫刻のような横顔。
「あなたは、僕のお母さんですね」
「……そうよ」
肯定の言葉は、驚くほど短かった。