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「ただいまー……」
玄関で靴を脱ぐと、妹の夏が出迎えをする。
「お兄ちゃん!ご飯できてるよ」
「悪い、後で食べる!」
そう言って階段を駆け上がった。
「……変な影山」
バッグを床に放り出し、ベッドに大の字で倒れ込む。
天井を見上げると、真っ暗な視界に、さっきの影山の顔が鮮明に浮かび上がった。
「お前の全部に、いちいち調子狂わされてんだよ」
「お前だけだ」
あんなに余裕のない影山なんて、見たことがない。
いつも自己中で、自信満々で、バレーのことしか頭にないはずの影山が、自分を腕の中に閉じ込めて、震える声であんなことを言ったのだ。
「……お前だけって、なんだよ」
無意識に、巻き直してもらったマフラーを触る。
まだ、影山の指先が触れたような感覚が残っている。首元が、そこだけ熱を帯びているみたいだ。
(あはは、なんて笑っちゃったけど……)
思い出すたびに、胸の奥がざわざわとする。
あれは「『相棒』として頼りにしてる」なんて言葉とは、全然違う響きだった。
「っ……!」
不意に、影山の腕の中にすっぽり収まった時の感触が蘇った。
肩を掴む手、耳元で聞こえた吐息。
自分の心臓がうるさかったのは、転びそうになった恐怖のせいだと思っていた。だけど、今こうして一人でいても、ドクドクと拍動が早まっていくのは、、、
熱くなった顔を隠すように、枕に顔を埋めた。
「……おれも、なんか変だ」
窓の外では、まだ冷たい冬の風が吹いている。
けれど日向の部屋だけは、春の予感でのような微熱に包まれていた。