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突然、教室に現れた美少年。彼が私を昼食に誘っている。
クラスメイトではない異性。手紙にも書かれていない人物。
「チャールズ様よっ!」
彼が教室に現れた途端、女生徒の甲高い声が上がる。
チャールズ、その名前をマリアンヌから聞いたことがある。
チャールズ・ツール・マジル。隣国マジル王国の第二王子。二学年の生徒だったはず。
そのチャールズがどうしてマリアンヌを昼食に誘うのだろう。
二人の接点が見つからず、私は食事の誘いに戸惑っていた。
「リリアンとの話は終わったのだろう? だったら食堂へ行こう」
聞き心地の良い声で誘い、私に手を差し出した。
チャールズとマリアンヌはどういう関係だったのか分からない。だけど、チャールズの存在は今の私の状況を覆す一手になる。
「はい。ご一緒しますわ」
私はチャールズの手を取った。
そのまま食堂へ連れていかれると思いきや、リリアンに片腕を引っ張られる。
「お待ちください、チャールズ様」
リリアンはチャールズに声をかける。私に話しかけてきたときよりも高い声で、明らかにチャールズを意識している。人によって態度をコロコロ変える人はいるけれど、ここまではっきりしていると、笑えてしまう。
私に向けてキーキー喚いていた現場をチャールズも目にしているだろうに。
「どうして?」
チャールズから笑みが消える。私はその瞬間に背筋がぞくっとした。
リリアンを突き放すような冷たい声。
リリアンもチャールズの豹変に言葉が詰まっていたが、彼に意見する。
「わたくしの婚約者だからです!」
リリアンとチャールズは婚約者。
タッカード公爵家とマジル王家との婚約。これを聞いてピンと来たのは”政略結婚”だ。
メヘロディ王国はマジル王国の技術力が欲しい。だけど、メヘロディ王国はマジル王国に差し出せるようなものがない。あるとすれば、位の高い令嬢を差し出し、二国間の関係を深めること。それがリリアンとチャールズなのだ。
(婚約者がいるのに、食事に誘われたのは私……)
チャールズが食事に誘ったのは婚約者のリリアンでなくてマリアンヌ。私だ。
たぶん、これがリリアンがマリアンヌを嫌う理由。
次のチャールズの発言で、答えが分かる。
「君は親が決めただけの存在だろ?」
「ええ! だから、こいつよりわたくしのことをーー」
「”こいつ”?」
リリアンが私を指して”こいつ”とチャールズに言った。
リリアンの性格上、私の事をそう呼ぶのは当然だし、婚約者なのだから親の言う通りにするべきだろうという意見も正しい。
対するチャールズはリリアンを”親が決めただけの存在”と定めており、婚約者を紳士的に扱うつもりはないようだ。
リリアンが発言する度に、チャールズの声に苛立ちが加わる。
「俺の命の恩人に”こいつ”と呼ぶな。目障りだ」
「……申し訳ございません」
「お前らの提案をしぶしぶ飲んでやってることだ。対等だと思うなよ。早くマリアンヌの手を放して俺から失せろ」
「はい」
チャールズがリリアンに罵倒を浴びせる。
私は二人のやり取りを見て、メヘロディ王国はマジル王国よりも弱い立場であることが分かった。それならば、チャールズが婚約者を軽視するのも納得だ。
罵倒を浴びたリリアンは、掴んでいた私の腕を離した。そして、駆け足で教室を飛び出た。涙ぐんでいて、きっとどこかで大泣きしているだろう。
「マリアンヌ、見苦しい所を見せてしまったね。行こう」
「あ、はい」
手ひどいやりかたでリリアンを教室から追い出した直後だというのに、チャールズは彼女の事を気にも留めず、私と共に食堂へ向かおうとする。声音や張り付いた笑顔も元に戻っていた。
(これがマリアンヌを虐める理由)
リリアンがマリアンヌを虐める理由。それはマリアンヌがリリアンの婚約者を奪ったからだ。
私はそう確信した。
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