TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)が床に横になっていると、どこからか鳴き声が聞こえた。


「……今なんか声が聞こえたような……。気のせいかな?」


彼がスッと立ち上がり、外に出ようとするとユヅキ(天使型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 零《ぜろ》)とヒサメ(悪魔型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 零《ぜろ》)がそれを止めた。

二人は両手を広げて、彼の前に立ちはだかっている。


「ナオトー、どこ行くのー?」


「ナオトさん、今はまだ雨が降っています。ですから、雨が止むまで家にいましょう」


「いや、それは分かってるんだけどさ、今なんか声が聞こえたんだよ」


二人は顔を見合わせると、小首を傾げた。


「そんなの聞こえなかったよ」


「はい、私にも聞こえませんでした」


「いや、たしかに声が聞こえたんだよ。なんというか、こう……ただの鳴き声じゃなくて、悲しくて泣いている時の声というか、なんというか」


二人は彼の両サイドに移動すると、彼を部屋の奥に連れていこうとした。


「や、やめろ! 俺はこれから偵察に行くんだ! だから、離してくれ!」


二人は急停止すると、彼の顔をじっと見つめ始めた。


「ねえ、ナオト。どうしてナオトは自分から厄介ごとに首を突っ込もうとするの? ねえ、どうして?」


「ユヅキちゃんの言う通りです! ですから、この部屋から出ないでください!」


「残念だが、それはできない。なぜなら、俺は……」


「ナオトはどうしても外に出たいみたいだね」


「……ハルキ」


ハルキ(四聖獣《しせいじゅう》の一体である青龍の本体)は彼の頬に手を添える。


「ねえ、ナオト。本当に、その何の鳴き声かも分からないものを調査するために外に出る気なの?」


「ああ、そうだ。もしそれが傷ついたモンスターとかだったら手当てしないといけないし、人だったら保護しないといけない。だから……」


ハルキは彼の唇《くちびる》に人差し指を押し当てる。

まるでそれ以上言わなくてもいいよと言わんばかりに。


「ナオトは本当に他人思いのいい人だね。でも、それは別にナオトがしなくてもいいことなんだよ?」


「たしかにそうだな。けど、俺は自分でやるって決めたことを途中でやめたくないんだよ」


「ナオトさんらしい考え方ですね。私は嫌いじゃないですよ」


トワイライト・アクセルさん(実はショタコン)は、さりげなく彼の頭を撫で始める。


「そうかな? 別に普通だと思うけど……って、ちょっと触り方がおかしいぞ? もっと普通に撫でられないのか?」


「無理です。我慢しろと言われても制御できません」


「そこをなんとかできないのか?」


「無理ですねー」


彼女はニコニコ笑いながら、彼の頭を執拗《しつよう》に撫でている。


「……コホン。まあ、そういうわけだから、俺はこれから偵察に行ってくる」


彼がそんなことを言うと、ミノリ(吸血鬼型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 一《いち》)が現れた。


「はぁ……やっぱり、こうなるのね」


「ミ、ミノリ……。あ、ああ、そうだよ。俺は気になったら即行動しないと気が済まない厄介な性格の持ち主だよ」


「そんなの、みーんな知ってるわよ。あんたがペンギンなら、その性格はペンギンたちの役に立つけど、あんたは一応、人間なのよ? もう少し考えてから行動しようと思わないの?」


「うっ……そ、それは……」


ミノリ(黒髪ツインテールと黒い瞳が特徴的な吸血鬼)はトワイライトさんを睨みつけた。

トワイライトさんは彼女の意図を察したのか、ナオトから離れる。


「でも、あんたがそうしたいなら、あたしたちは喜んで協力するわよ。それが世界征服とかだったら、ちょっと無理だけどね」


「そんなこと考えたこともねえよ。でも、まあ、ありがとな。ミノリ。俺のわがままに付き合ってくれて」


「そんなの今に始まったことじゃないでしょ? でも、通行料くらいは払ってもらわないと困るわね」


「通行料?」


「そう。あたしという関所を通るんだから、当然でしょ?」


「そんなの今までなかったと思うのだが」


「じゃあ、この話はなかったことにしてもいい?」


そういうことか。

こいつ、協力するとか言っておきながら本当は俺を外に出したくないんだな。


「分かったよ。払えばいいんだろ? 払えば。それで? いくら払えばいいんだ?」


ミノリ(吸血鬼)は右手の人差し指と中指と薬指を立てる。


「三? えっと、単位は?」


「あんたよ」


「え?」


「だーかーら、三ナオトよ」


「そんな単位は存在していないと思うのだが?」


「今さっき、あたしが作ったのよ」


「む、無茶苦茶だ!」


「嫌なら別にいいのよ。雨が止むまで、あんたを監禁……じゃなくて、あんたをここから出さないようにするだけなんだから」


今、こいつ監禁って言ったよな?

怖い、怖い。

俺、幼女に監禁されるの?

それは普通に嫌だなー。


「わ、分かったよ! 払うよ! それで? 俺はどうすればいいんだ?」


「三分間、あんたはあたしの言うことを何でも聞く。ただそれだけよ」


「……!? お、俺は奴隷になる気はないぞ?」


「奴隷になれだなんて言ってないわよ。あんたはただ、じっとしてればいいの。ね? 簡単でしょ?」


できるのが当たり前みたいな顔をされても困るのだが。

まあ、じっとしているだけなら、別にいい……かな?


「分かった。もう好きにしろ」


「ありがとう。それじゃあ、みんなー。これから三分間、ナオトを好きにしていいわよー」


ミノリの合図と共にゾンビのようにじりじりとナオトに近づく女性陣。

その光景を目の当たりにしたナオトは身の危険を感じた。

彼がその場から逃げ出そうとすると、ミノリ(吸血鬼)が固有魔法を使った。


「『|絶対命令《アブソリュートドミネイト》』!!」


「うっ!!」


彼の動きが止まると同時に彼女たちは一斉に彼の体を求めて走り始める。


「ミ、ミノリ……お前……!」


「あんたはいつから、あたしがあんたの味方だと思ってたの?」


「お、鬼! 悪魔!」


「褒め言葉として受け取っておくわ」


彼女はそう言うと、彼の額《ひたい》にキスをした。

悪意しかないそれは彼の精神にかなりのダメージを与えた。

それからのことはよく覚えていない。

俺はただ、じっとしていただけだった。

三分という時間が、あんなに長く感じられたのは生まれて初めてだった。



「……酷い目に遭《あ》った。女の子、怖い」


ナオトが部屋の隅《すみ》でシクシクと泣いていると、シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)がやってきた。


「ナオ兄、大丈夫? 頭、撫でてあげようか?」


「いや、大丈夫だ」


彼がスッと立ち上がると、シオリは彼をギュッと抱きしめた。


「ナオ兄、泣きたい時は泣いていいんだよ?」


「泣きたいのは山々なんだけどさ、お前もあの中にいたよな?」


「あ、あれは、ナオ兄を三分間、好きにしていいって言われたから……」


「俺はどうせ、みんなの欲求不満を解消するための道具にすぎないんだろ?」


「そ、そんなことないよ。みんな、ナオ兄のことが大好きだから、つい求めちゃうんだよ」


「そうなのか?」


「うん、きっとそうだよ」


「そうかな……」


ナオ兄、かなり落ち込んでる。

このままだと女性恐怖症とかになっちゃうかも。

彼女は彼をギュッと抱きしめる。

自分の体温で彼の体を癒してあげたいと思ったからだ。


「シ、シオリ……。く、苦しい」


「あっ! ご、ごめんなさい。苦しかった?」


「いや、ちょっと意識を失いかけただけだ。それに、お前なりに俺を励《はげ》まそうとしてくれたんだろ?」


「そ、それは……まあ、そう……かな」


「そっか。ありがとな、シオリ。お前は優しいな」


「ナ、ナオ兄……不意打ちは反則だよ」


「え? 何がだ?」


「し、知らない。え、えっと、もう大丈夫そう?」


「え? あー、まあ、そうだな。お前のおかげで元気になったよ。ありがとう」


「どういたしまして」


彼女は彼から離れると、右手を差し伸べた。


「えっと、この手はなんだ?」


「握手して」


「え? いや、まあ、別にいいけど」


彼が彼女の手を握ると、彼女は彼の優しく握り返した。


「帰ってこなかったら、許さないからね」


「ああ」


「ナオ兄は知らないかもしれないけど、みんなナオ兄がいないと壊れちゃうんだよ?」


「ああ」


「だから……その……走馬灯が見える前に逃げてね」


「ああ、分かった。それじゃあ、行ってくる」


彼はそう言うと、彼女の真横を通り過ぎる前に彼女の頭を優しく撫でた。


「……いってらっしゃい。気をつけてね」


小さな手を振りながら静かにそう言ったシオリの目には涙が浮かんでいたが、悲しげな表情は浮かべていなかった。

彼女にできることは、彼が無事に帰ってくるのを信じて待つことだけだったからだ。

loading

この作品はいかがでしたか?

25

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚