「勇斗、なんか怒ってる?」
撮影終わり、なにか言いたげな。それでいてなにも言わない勇斗に声をかける。
「別に、なんもねぇよ」
「いや、さすがに無理あるて」
舜太を泊めた話をした後から勇斗が纏う空気が少し重くなり、俺に対する当たりが強くなった。
威圧するかのような「めずらしいね」とか沖縄の焼き肉の件引っ張り出してきたり、俺と行った焼き肉忘れて「お前と行ってないし」って突き放すように言われたり、勇斗に言われて嫌われたくないからあの日からちゃんと焼くようにもなったのに。
「確かに、舜太は泊めた。でも、別になにもない。ベッドは貸したけど、シーツとかはちゃんと変えてあるし」
「あーわかったって。さっきの撮影中も聞いたし、別に怒ってるわけじゃねぇって」
「気にすんな」って態度でどっかに行ってしまう勇斗の態度が気に入らない。
言いたいことがあるなら言ってくれんとわからん。溜めこんで離れていかれるくらいなら怒鳴ってでもちゃんと伝えられたほうがいい。
それに、納得してない理由もわからない状態で謝罪なんて絶対しない。
「おっ…と」
「わりぃ」
部屋から出ようとした勇斗と入ってこようとした太智が出入り口でぶつかる。
「って佐野さんそんな顔してどこ行くん?」
「は?」
俺から勇斗の顔は見えない。見えるのは背中だけ。
「なんや、納得いかんみたいな…怒っとるん?」
「だから、怒ってないって仁人も太智もなんだよ」
ちらっと太智と目が合う。
「あーなるほどな。怒っとらんのやったらー、心配やったんやな」
「……」
心配?
黙る勇斗。
「でもさ、佐野さん、それは言葉にしたらんとわからんよ。あの人さ、あー見えて鈍感やん。今もなんのこっちゃーって顔しとーよ」
太智にわかって俺にわからない勇斗がむかつく。
「ちゃんと話したんがええで?仁人もどーせ勇斗の顔ちゃんと見てないやろ」
確かに勇斗に怒られるのが怖くて見れてない。
「スタッフさんとか舜太とか柔太朗とかにはうまいこと言っとくけん」
勇斗の体を無理くり俺のほうに向けて扉を閉めて出ていく太智。
二人の間にまた微妙な空気が流れる。
「…心配って?」
嫌われるくらいなら好かれたくない。
でも、好きになったなら嫌われない努力はする。
勇斗が何を心配して何を思ってるのか教えてほしくて自分から声を発する。
「勘違いされたくないからちゃんと言うけど、舜太を泊めたこと別に怒ってない」
「それはわかったって」
「怒ってもないし、心配ってのも俺的には違うんだけど」
黙って勇斗の言葉を待つ。
「腰」
腰?
「俺が嫌がるだろって思って舜太にベッド譲ったとしても仁人が腰痛めるくらいだったら一緒に寝とけ。俺の気持ちとかそんなんより仁人の身体んが大事だろとは思ってんの」
あーなるほど。互いに相手を思いすぎてすれ違ってんだ。
「思ってんだけど、やっぱやだなって解決策ねぇのにわがまま言えねぇしさ」
だから、「気にすんな」って。
「じゃ、やっぱり舜太泊めた俺が悪いじゃん」
「誰が悪いとかねぇの。これに関しては」
「さすがにダサすぎんだろ…」と凹むようにしゃがみこんだ勇斗に近づいて普段見ることないつむじを見下げる。
「まじ、重くてごめん」
謝る勇斗にかける言葉なんて一択で。
「そんな佐野さんも好きなんで」
ばっと見上げられた顔はまさに困惑顔。
なのにすぐに立ち上がってさっきまで見上げていた目線はもう俺を見下げて。
「も、もっかい!」
「言いません」
ふいっと顔をそらせば視線だけをひしひしと感じる。
「重い俺は嫌い?」
「嫌いじゃないですよ?」
ずるい聞き方にずるい返し方。
「じゃ、なによ?」
「なにがですか?」
するりと勇斗の脇を抜けて部屋から出て太智達の元へ。
佐野さんが重いのなんて今更。
それに、そんなあなただから好きなんです。
なんてな。
END
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