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朝はいつも通りに始まった。
目を覚まし、制服に袖を通し、家を出る。
違和感はない。
少なくとも“分かりやすい形”では。
教室
席に座る。
前の席の生徒が振り返って (おはよう) と言う。
「……おはよ」 声はちゃんと出る。問題ない。
ただ一つだけ。後ろの席がやけに静かだった。
「(……こんな静かやったかな)」
疑問は浮かぶがすぐに流れる。
理由が見つからないから。
昼休み
雲雀は無意識に購買へ向かう。列に並びパンを取る。いつもと同じ。
――なのに。
「……?」
ふと足が止まる。“誰かと並んでいた” 感覚だけが残っている。
顔も、声も、名前もない。
ただ、隣にいたという事実だけ。
放課後
音響調査のため旧校舎へ向かう。一人。
(今日は単独ですか)
先生が確認する。
「はい」 即答。
それが普通だと思えた。
音楽準備室。静寂。
以前はここに入ると胸がざわついた。
今は何もない。
「回収 開始」 独り言。
その声は壁に吸われて消える。
作業は滞りなく終わった。効率的。正確。
誰も困らない。
帰り道 夕焼け。
校門を出たところで雲雀は立ち止まる。理由は分からない。ただ、胸の奥が少しだけ冷たい。「(……なにか、忘れてる)」
でも思い出せない。忘れているという自覚すら本当は曖昧だった。
夜
部屋で机に向かう。勉強は進む。音楽は流さない。流そうという発想が出てこない。静か。
それが “正しい状態” のはずだった。
布団に入る。目を閉じる。
その瞬間――
ほんの一瞬だけ。胸の奥で何かがきしんだ。
名前にならない引っかかり。
「……」
雲雀は小さく息を吐く。
不安でも悲しみでもない。
ただの空白。
翌日もその次の日も。
世界は何も変わらず回り続ける。
誰もいなくなったことに気づかない。
いなくなった “意味” だけが、最初から存在しなかったみたいに