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お店を出て喫煙スペースに入る風天(ふうあ)と愛大(まな)。
「…ふぅ〜…っ!…」
「…ふぅ〜…」
2人で口から煙を吐き出す。
「うまっ」
呟く愛大。
「ご飯の後美味しいよね」
「ヤバいっすね」
「ただオレはタバコすら口痛いもんね」
愛大はタバコを人差し指と中指の間に挟んで合掌して
「ご愁傷様です」
と言った。
「はやく治ってほしいわ」
と言っていると喫煙スペースから人が出ようとしていたので、愛大に少しこっちに寄るように言おうとしたが
風天はタバコを咥えており、タバコを手に持って口で言うというのも時間がかかると思ったので
風天は愛大の左手を握り、軽く引き寄せた。スーツ姿のおそらくサラリーマンの方が、無言で
「すいませんすいません」
と顔の前で右手を前後させて通っていった。
「ごめんごめん。通るよって言おうと思ったんだけど」
「全然。大丈夫です」
「…すぅ〜…いてっ…。愛大ちゃん22でしょ?」
「ん?あ、はい。ふぅ〜…」
「まだ吸い初めて短いでしょ?いつから吸ってんの?」
「もう、20歳(ハタチ)になってすぐ吸い始めました」
「へぇ〜」
なんで?とキッカケを聞きたかった風天だがなぜか
「前彼の影響で」
とか言う回答だったら聞きたくないと思って聞かなかった。
「ずっとそれ?」
「いや、めっちゃいろんな種類吸いました」
と言うと愛大はタバコを右手から左手に持ち替えて指折り数える。
「ハピスト(HAPPY STRIKE(ハッピー ストライク)の略称)から入ってー
ヘッタ(Heaven star(ヘブンスター)の略称)、WEVIUS(ウェビウス)
赤ワル、ワルメン(WarlDaro(ワルダロ)シリーズ)、WingsOn(ウィングスオン)
fortissimo(フォルティッシモ)、アメスト(American Strike(アメリカン ストライク)の略称)
…あ、CANEL(キャネル)…Link(リンク)も吸ったな…
あとKenz(ケンゾ)も吸った…。もちろんPeake(ピーク)も吸いました」
「すごい吸ったね」
「たぶん覚えてないだけで、もっと吸ってるんじゃないかって思ってます」
「で今はWingsOnに落ち着いたわけだ?」
「…すぅ〜…っすねぇ〜。単純に安いし、バニラの香りがいい」
「値段気にせず吸うなら?」
「…んん〜…。もう今はこれに慣れちゃってるんで値段気にせずってなってもこいつ選ぶと思いますけど
選んでる当時なら…そうだなぁ〜。やっぱハピストかなぁ〜」
「ハピスト?全然タイプ違くない?」
「いやぁ〜。そもそも吸い始めたキッカケが」
おぉ。聞かずともキッカケの話になるか…。ま、そうだよな
となぜか聞く覚悟を決める風天。
「私の好きな芸人さんが吸ってたので」
「…え?げ、芸人さん?」
なんだか拍子抜けする風天。
「はい。こばちゃん。小林さんっていうんですけど。
こばちゃんがハピスト吸ってたんで、というか今も吸ってるんで私もマネして吸ったんですよ。
ま、そのコンビ、ヤニカスで、MyPipeでもタバコ吸いまくっててめっちゃおもろいんすよ」
「へぇ〜」
「相方さんは沖縄のタバコ吸ってるんですけど、それも吸って見たかったんですけど
私それ見つけらんなくて。安いらしいんですけどね?」
「沖縄のタバコ?じゃあ沖縄限定なんじゃない?沖縄の人なん?」
「いや、ゴリゴリ大阪っす」
「なのに沖縄のタバコなんだ」
「変わった人なんで」
「あの…缶のPeake吸ったことある?」
「両切りのやつですか?」
「あぁ違う違う。あの四角いケースのやつ」
「あぁ〜はいはい。1000円くらいのやつ」
「そうそう」
「高いんで買ったことないっす。通常のPeakeも高かったのに」
「まあそうね」
なんてタバコ談義をしてタバコを灰皿に捨てて喫煙スペースを出た。
「次どうします?」
「お。お昼だけじゃなくて付き合ってくれる?」
「逆にお昼きりで捨てるつもりだったんすか!?」
驚き半分、信じられない半分みたいな表情を風天に向ける愛大。
「人聞き悪い言い方しないで」
「冗談っす冗談。でも割とガチでお昼だけのつもりでした?」
「ん?いや…」
「ん?ん?んん〜?」
クネクネと近寄ってきて顔を覗き込む愛大。
「いや、まあ…流れでって感じ?」
「ほおほおほお」
とイタズラっぽい顔をして風天の顔を覗き込んだ後パッっと離れてクルッっと回転して
「じゃ、次はどこへ連れてってくれるんすか?」
と笑顔で言った。赤い髪が靡いて、無数のピアスがキランと光る。
風天には愛大自体が輝いているように感じた。
「おっし!家具見に行こー」
「家具?」
「家具屋巡り。したことないでしょぉ〜?」
「しないでしょ。ふつー」
「お。関西弁。出ましたね」
「大阪弁ね?」
「あ、なんかすいません」
「話戻りますけど、家具屋巡り?」
「そ。やったことないでしょ」
「だからやらへんってふつー」
「でもこれがおもしろいんだなぁ〜」
「ほんまっすかぁ〜?」
「ほんまなんす」
ということで疑心暗鬼な愛大を連れて家具屋さんへと向かう風天。
「まずは、言い方は悪いけどテキトーな家具屋さんに入ります」
テキトーな家具屋さんに入る2人。
「うわぁ〜…。割とガチで人生で初めて来たかも」
と珍しそうに店内を見回す愛大。
「マジか」
「小さい頃とかは覚えてないですけど、物心ついてからは行ってないんじゃないかな」
「へぇ〜。そんなもんなんかな」
「ま、家具屋巡りなんてのはしたことないのはたしかです」
と笑う愛大。
「じゃあ、家具屋巡りの楽しさを教授しよう。坂木田さんはー」
間取りはどんな感じの家に住んでるの?と聞こうとして
レディーの家の間取りとか聞いちゃダメか
と思い立ち「ん?」という顔をする愛大に
「すー」
「す?」
「住めるんならどんな間取りの家に住みたい?」
と質問を変えて質問した。
「どんな間取り?間取りとかはわからへんけど、住めるんならデッカい家に住みたいですよ」
「おぉ。大阪弁強くなった。まあぁ〜…デカすぎるとちょっとアレなのでぇ〜…。
じゃあ、ま、デカくはないけど1LDKにしよう。
リビング、ダイニング、キッチンが分かれていて、それに加えて1部屋」
「うんうん」
「坂木田さんならどうする?」
「どうするってなにがですか?」
「たとえば、リビングにベッドを置いて寝室兼リビングにして
1部屋を趣味部屋にしたりとか倉庫にするって手もあるし
オーソドックスにリビングを寛ぎのスペースにして1部屋を完全寝室にするパターン」
という質問に対し、愛大は腕を組み
「あぁ〜…。私はぁ〜…。せやなぁ〜…。ムズいな…。
リビングに…めっちゃ置いてもええし、趣味部屋作ってもええなぁ〜…」
と組んだ腕の二の腕に小指から順に波打つように動かしあてながら考える。
「へっ…部屋の大きさはどれぐらいですか?」
考えすぎて鬼気迫る顔になっている愛大。
「あぁ〜…せ、狭め?で」
「狭めかぁ〜…それやったらリビングを趣味兼寛ぎ部屋にして
ま、してというよりもせなアカンことになると思うんで。んで、1部屋を完全寝室にします」
「オッケー?じゃ、それを想像してね?」
「ん?はい」
「じゃあぁ〜。まずはなにがいる?」
「んん〜…ソファー」
「オレもソファー見んの好き」
とおもちゃコーナーへ向かうような無邪気な笑顔に心が動き
「ソファー見んの好きってなんやねん」
と呟きながら風天の後をついていく愛大。
「ご覧の通り、ソファーにもたくさん種類と形があります」
「ふんふん」
「肘掛けありのタイプ?それとも背もたれだけで横はフラットとか
オットマンみたいに背もたれもない、完全フラットなものもあるけど」
「へぇ〜。完全フラットのタイプもいいですね」
と座ってみる愛大。
「これはこれでね。どの方向からでも座れるからいいんよ」
「でもぉ〜…」
愛大は立ち上がり別のソファーに腰を下ろす。
「私はソファー買うなら背もたれありのタイプかなぁ〜」
風天も同じソファーに腰を下ろす。
「まあわかる」
背もたれに寄りかかる2人。
「色は?」
「んん〜…黒…白…」
「ネイビーも結構主流よ」
「そうなんですか?」
「うん。坂木田さんみたいに黒と白で悩む人が多くて。ソファーってリビングでは花形だから」
「花形?」
「ま、部屋の印象を決める要因の大きな1つってこと」
「ほお。あぁ、たしかに」
「で、白だと部屋が明るくなるんだけど、でも白って汚れ目立つから」
「そうなんですよ!よくぞおわかりで!」
「伊達に家具屋巡りしてないんで」
かけてもないメガネをスチャッっとする風天。
「で、ネイビーとかグレーっていうのが最近多いかな。
あとは素材もただの布じゃなくてメッシュ素材のものが多いかな」
「それはなぜに?ですか?」
「ま、ベッドってデカいし」
と話し始めた風天に対し
ソファーのこと聞いてんねん
と心の中でツッコミを入れる愛大。
「値段も張るからソファーをベッド代わりにする人もいるわけよ」
「あぁ。ソファーの話やった」
「ん?そうだよ?」
「あ、お話続けてください」
「ん?うん。そう。ソファーのほうがお手頃な価格だし。ま、ベッドに比べればだけどね?
それを見越して背もたれが可動式になってるタイプが多くて…これは…ならんタイプか。
んでベッド代わりにして寝る人が多いから、通気性がいいようにってメッシュが多かったりする」
「あぁ〜。なるほど」
「しかも可動式のほうが意外と安かったりするんだよねぇ〜」
「なんでなん?ベッドにもなるんならそっちのほうが高いでしょ」
「そうなんだけどー…。たぶん可動式じゃないほうが作り的にしっかりしているー…っていうと
可動式がしっかりしてないって聞こえるかもだけど違くて…。
うん。ま、いいや。どうする?あ、じゃあ理想は何色?」
「理想かぁ〜…理想はクリーム色っぽいやつ」
「なるほどね。形は?こんな感じの?」
「うんー…。肘掛けがなくて、あとなんか…ちっさいやつもほしい」
「オットマンかな?」
「オットマンていうんや。それもほしいっす」
「じゃーソファーはそんな感じで、他にリビングで必要不可欠なのは?」
「本棚」
「本棚?おぉ〜。オレも最近こだわり出したけど」
「そうなんですね」
「よし。行こう」
と2人でソファーから立ち上がり、戸棚コーナーというよりは
部屋の1角のようにレイアウトされたコーナーへ。
「おぉ〜。オシャレやなぁ〜」
「ま、“本棚”として扱ってるところは少ないかもなぁ〜。マルチディスプレイというか“小物を置く棚”で
横板が好きに動かせるみたいな感じで本棚にもなる。みたいなのが多いかな。
本棚としてほしいんだもんね?」
「そうですねぇ〜。本しか置く予定ないって感じで思ってます」
「なるほど?ま、じゃあ無理にこーゆーことで買わずともネットで
あ、もちろんこういう家具屋さんのネットがいいよ。他のところでは建て付け悪かったり
パーツ欠けてたり…ま、家具屋で買ってもたまにあるらしいけどね」
「あぁ…」
「ま、本棚とか棚に関してはメジャーで部屋の縦横測っていろいろ…ってのがいいよ」
「なるほど?」
愛大は頭の中でソファーを置いて、本棚も置いてマンガをびっしり詰める。
「…。足りひんな」
「ん?なにが?」
「本棚が」
「本棚メインに据える?」
「据える!」
「じゃあ“本棚に囲まれた暮らし”ということで」
「なんか聞いたことある」
「となるとソファーに座って…」
マンガか?小説か?
わからなかったので
「本を読むって感じかな?」
と漠然と“本”という括りにしておいた。
「そうですね」
「ってなるとサイドテーブルがほしいかな」
「サイドテーブル?」
「ま、主にスタンドライトを置いたり、飲み物ーくらいなら置けるかな。あとはおつまみ程度の小皿くらい」
風天に言われて想像する。
「めっちゃオシャレやん!」
「そ!オシャレなんよ。ま、本棚はこれとしておいて。サイドテーブルはどんなんがいいかなぁ〜」
まるで自分の部屋のレイアウトを決めるように楽しむ風天。
その様子を見ていると自分まで楽しくなってくる愛大。
「どんなんがいいですかねぇ〜」
「ソファーがクリーム色だから、統一感出すためにサイドテーブルも白系がいいと思うんだよね」
「たしかに」
「んで、クリーム色って色の印象的には柔らかい感じだと思うんだよね」
「ふんふん。たしかに」
「となると材質も柔らかいものがいいと思うんだよねぇ〜」
「柔らかい材質?」
「そ」
「そんなんあるんですか?」
「ラタンっていう蔓の編み込みの家具があるんだけど」
と言ってスマホで検索して画像を見せる風天。
「あぁ!あつまれせいぶつの森に出てきてた」
「あ、そうなんだ?それ。ま、基本は染料なしの素材そのままが多いんだけど
白系もあるっちゃあるから、それがいいかもね。
んで、たぶんラタンが売ってるとこは統一してラタン家具置いてるから、スタンドライトもラタンがいいかな」
想像する愛大。
「ええやん?」
「そうそう。で、ま、ソファー前のローテーブルは白樺でもいいし
白系の木材のものでもいいし、ラタンでもいい。ただローテーブルも部屋の印象を決定付ける1つだから
ローテーブルをラタンにするとラテン系の部屋って印象が強くなるかな」
「へぇ〜?」
「ソファーだけじゃなくて、床に座りたいと思うときもあるだろうからラグも欲しいよね」
「欲しい」
「クリーム色ベースだとラグは毛足の長い丸いラグかなぁ〜」
「いいですね!」
「で、テレビはマエダ電気とかで買うとして、テレビ台かな。ソファー周りを白系で固めて
本棚とかテレビ台を茶色系とかトーンが低い木材のもので統一すると
寛ぐスペースが少しスポットライトがあたってるように特別感が出る」
愛大は想像してみる。
「たしかに!」
得意げな顔で頷く風天。
「部屋のライトをつけてるときはもちろん、サイドテーブルのライトだけにしたときなんか…お客さん」
「…おぉ〜」
「で!ここからです」
「?」顔を風天に向ける愛大。
「お忘れかな?家具屋“巡り”ということを」
「あぁ!忘れてた」
「という部屋のイメージを持ったまま次へ行きます」
「?ほい」
ということで2人はお店を出て次の家具屋さんへ。
「おぉ〜。なんか似てるけど違う」
「そう。ま、だいたい家具屋さんって配置とか似てるんだけど、置いてある家具が違うから
パッっと見の印象は同じだなぁ〜って通り過ぎることが多いと思うけど、ちゃんと見ると違うってわかるのよ」
「…」
ぷっっと吹き出す愛大。
「ん?」
「いや…。めっちゃ当たり前のことゆーてるやんって思って」
と言われて自分の発言を思い出す風天。ぷっっと吹き出す。
「たしかに」
2人で笑ってまずはソファーコーナーへ。
「おぉ〜。違う」
「そう。形はどうしても似か寄るけど、ソファーの角の丸さとか背もたれのクッションが外れるかとか
似てる形のソファーでも片方のメーカーはオットマン出してるけど片方は出してないとか」
「ほおほお」
「だから同じメーカーで固めるも良し、どうしても気に入って
でもオットマンが欲しいなら、違うメーカーでも似てるオットマンだけを買えばいい」
「なるほどぉ〜」
と話しながらいろんなソファーを眺めたり座ったりする2人。
「うわ。ネイビーのソファーもこう見るといいなぁ〜」
と言う愛大。
「じゃ、頭の中のイメージのソファーをこのネイビーのソファーに変えてみて?」
と風天に言われて先程の家具屋さんで構築したイメージのレイアウトのソファーを
ネイビーのソファーに置き換えてみる。
「…。あ、合わねぇ」
引き攣る愛大の顔に思わず笑う風天。
「合わないねぇ〜。ネイビー系の家具とラタン製の家具の組み合わせってどうも合わないんだよねぇ〜」
「ネイビー系だったら?」
「そうだなぁ〜。ネイビー系は基本落ち着いた色に分類されるから
ローテーブルも角張った、ガラスの天板のものとか」
想像する愛大。
「はあはあ」
「サイドテーブルは白系でもいいけど、木製の小さなキャビネット的なもので
上に置くスタンドライトはユニークなものでも、オシャレなものでも合うと思う」
「おぉ〜…。はいはい。たしかに」
「で、ラグはバカみたいに派手な色とか柄物じゃない限りは合うと思う。
青系のペルシャ絨毯とか敷くと一気にエレガントになるし
青みが強いグレーの無地のラグだとシンプルな印象。
白地に青いラインとかそういうラグだとカジュアルさが出る」
「おぉ〜」
いろんな家具を見て
「んじゃ次は」
家具屋さんを出てまた次の家具屋さんへ。
「高級な家具屋さんです」
「錦家具?」
「家具好きには有名なところです」
「へぇ〜」
入店する。
「うっわ。匂いが違う」
「すうぅ〜(鼻から息を吸い込む)…ふぅ〜…(鼻から息を出す)この香りね」
「レイアウトもなんか違う」
「今までの家具屋さんはいろんなメーカーさんの家具でレイアウトしてるんだけど
大手家具メーカーさんは自分のブランドの商品のみでレイアウトしてるから
ちょっと違うんだよね。パッっと見で違うのがわかるっていうか」
愛大はブンブン縦に首を振る。見て回ることに。
「でもこういう高級店で試座(しざ)するのは」
「ちょっと躊躇うよね」と言おうとしたら
「んん〜。なんか硬いな」
と思い切り座っている愛大が視界に入り言うのをやめた。スッっと愛大の横に座り
「すごいね。オレこーゆー高級店だと座るの躊躇うんだけど」
と言うと
「そうなんですか?すいません私のがさつな部分が」
「いや、そのお陰でオレもスッっと座れたから。むしろありがとう」
と話していると店員さんが寄ってきて
「いかがですかぁ〜」
と聞いてくる。
「あぁ〜。めっちゃいいです。このいい布地を使ってるからこそのこの反発感というか」
と風天が言うと
「ありがとうございます。お詳しいですね」
と店員さんが食いつく。
「いやいや全然全然」
と店員さんと風天が話しているのを横で聞きながら
あ、なんか硬いなと思っとったけど、ええ布地使ってるからなんや
と思った愛大。
「お2人でお使いですか?」
と店員さんに聞かれる。風天と愛大は顔を見合わせる。
「いや、違」
と風天が言おうとしたところで、腕をグッっと引き寄せられ
「そうなんですぅ〜。まだ部屋も決めてないんですけどぉ〜
こんな素敵な家具があったらええなぁ〜って話してたところなんですぅ〜」
と愛大が笑顔で言った。
「そうなんですね。素敵です」
「ありがとうございますぅ〜」
「ではごゆっくりご覧くださいませ」
「はいぃ〜」
と店員さんはペコリと頭を下げて去っていった。
「おぉ。なるほど」
と風天が左掌に右拳をポンッっと乗せる。
「あの店員さんはオレたちに買ってもらおうと営業に来たけど、オレたちが金がないカップルだと思って
営業かけても無駄だと思って去っていったわけか。ナイス坂木田さん」
「おぉ。私そんなつもりなかったけど」
2人はハイタッチする。
「てかそんなつもりなかったんだ?」
「はい。単純にそう言ったほうがおもろいかなぁ〜って思っただけで」
「まあ。おもしろく…なったのかな?」
「これあれなんすね。高いから硬いんですね」
「んん〜。まあ、そうかな?」
「ちなみにおいくらなんですか?」
「えぇ〜っとねぇ〜。たしか錦家具は大抵の店舗で」
と風天は立ち上がってプラスチックのパネルの前に行く。
「ここに…。うん。書かれてる」
と言う風天の横へ行く愛大。
「んんー?どれだ〜?」
ソファーと書かれている部分を見つける。
「は!?嘘やろ!?」
22万7000円。
「アホちゃうん!?」
実際に店員さんに見られたわけではないがさすがに店員さんの目が気になり
「ね?いいもの使ってますもんね?すいませ〜ん。失礼しまぁ〜す」
と愛大を連れて店を出た。
「あ、すいません。本音が」
「まあまあ。ちょっとおもしろかったから全然いいんじゃね?」
と笑う風天に安心する愛大。
「あ、ちはみに錦家具で20万越えは普通だし、なんなら安いほうだからね?」
「は?安いほうって…ヤバすぎでしょ」
という話をしながら次の家具屋さんへ。
「ま、さっきの錦家具のソファーを主軸に考えてもいいけど」
「ま、たしかに、正直魅力的ではありました」
「そうなのよ。家具って服と違って、高い理由がわかるっていうか」
「たしかに」
「いいよ?実際買い揃えるわけじゃないからあのソファーでも」
「でもあのソファー木製のフレームで肘置きも木だったじゃないですか」
「うん。そうだね」
「だいぶ部屋の印象変わりません?」
「まあ変わるね。でも本棚に囲まれてるっていう前提だと
木製フレームのソファーを置くと全体に統一感が出るけど」
「あぁ〜。なるほど。統一感というのもあるのか」
「そ。ということを踏まえてソファーから見てみよー」
「おぉー!」
ソファーを見て、2人で座って想像して
そのソファーに合うサイドテーブルを愛大が提案したりして風天が難色を示したり
逆に風天がスタンドライトを提案して愛大が首を横に振ったりとひと通り楽しんだ。
「ま、スマホとかテレビで事足りるだろうけど
インテリアの1つとして時計とかも部屋に合うやつ選ぶのもおもしろいよ」
「時計ね!こだわったことなかったけど」
と2人でお店がレイアウトしている時計を見る。
「え。もうこんな時間なん?」
「ね。オレもびっくりした。夜時間大丈夫?」
「大丈夫っす」
「じゃ、行く?」
と古のジェスチャー、人差し指と親指でおちょこを持つような手をつくり
その手をクイッっと傾ける仕草をする風天。
「いいんすか?奢りっか?」
愛大もそのジェスチャーを真似する。
「いいよぉ〜。居酒屋でよければ」
「最高です。吸えますしね」
と愛大がタバコを吸うジェスチャーを見せる。真新宿の街を歩いていく。
「immature lure portion(インマター ルーア ポーション)(小声)…お。へぇ〜。
…マジックバーだって。行ったことある?」
と風天がマジックバーという看板を見つける。
「ないっすないっす」
「行ってみる?」
「いいんすか?高そうですけど」
「んん〜…。一旦行ってみよっか?」
ということでマジックバーに行こうということになった。しかし
「まだ開店前か」
お店はまだやっていないようだったので
「今度また来てみよっか」
「ですね」
ということで居酒屋へ行くことにした。
「「かんぱーい!」」
ビールで乾杯して、小鉢の料理などをつまみながら話す。
「大阪帰ったりするの?」
「しますよ。粉もん食べたくなったりしたら帰りますし、正月も帰りますね」
「粉もん。お好み焼きとかたこ焼きとか?」
「ですね」
「でもこの居酒屋にもたこ焼きあるし、ってか最近じゃどこの居酒屋でもたこ焼き置いてるでしょ」
と風天が言うと、愛大は人差し指を横に振りながら舌を
「チッチッチ」
と鳴らす。
「違うんすよ。味が」
「へぇ〜。頼む?たこ焼き」
「あ、いいです」
「そんな違うんだ?」
無言で顔を横に振り
「ちゃうちゃう。全然別もんっすよ」
「そうなんだぁ〜」
「信じてないでしょ?」
「いや?」
「嘘やね」
「いや」
「じゃあ今度家(うち)来てくださいよ!タコパするとき呼びますんで」
「タコパってそんな頻繁にするもん?」
「まあ、しますね。海綺(うき)呼んだときはほぼ毎回」
「おぉ〜。いいねぇ〜」
「そんとき呼ぶんで来てください。本場大阪のたこ焼き食べさせてあげますんで」
「お。楽しみにしとく」
「でもやっぱり好きな店の味には程遠いんすよねぇ〜。
あと父親が焼くたこ焼きとも違うんすよ…。悔しいことに。
というか泥好木(どろすき)さんは北海道帰るんすか?」
「あぁ〜。最近帰ってないかもな」
「遠いですもんね」
「ま、飛行機だから遠さはそんな感じないけどね」
「ま、そっか」
「でもなんか、会社入って落ち着いたときは帰ってたけど
最近はチケット取るのも面倒になってきて帰ってないわ」
「夏休みっすか?お正月?」
「正月だね。夏休みは申請して休み取らないとだけど、正月は決まって休みだから」
「なるほど」
「あぁ〜…。あと寒すぎて行きたくないってのもある」
「へぇ〜。北海道の人って寒さに強いイメージでした」
「ずっと住んでればね?もう無理よ」
なんていう東京出身ではない者同士ならではの話をタバコを吸いながらして
風天が奢り、風天が愛大を家まで送り、愛大はいい気分で家へと帰った。鍵を開けて家に入ると
「お。おかえりぃ〜」
と海綺がいた。
「たっだいまぁ〜」
荷物を置いてベッドに座る。
「はあぁ〜。ソファーほしっ」
「ソファー?」
「ま、この狭さでは邪魔になるだけやな」
「なにしたの?」
と聞かれた愛大は
「んー?」
笑顔で
「めっちゃおもろいことしてきた」
と答えた。
「だからそれがなにかって聞いてんの」
「秘密やろそんなもん。てか海綺こそなにしてたん」
「ん?昼食べてギター弾いて、眠くなって寝て、起きてカップ麺食べて寛いでた」
「女として終わっとんな」
「失礼な!」
「水貝井(みかい)さんとか誘えばよかったやん」
「誘おうと思ったけど、休日でご迷惑かなぁ〜って思ったり」
「考えてすぎやって。嫌やったら嫌やって言うし。とりあえず誘ったったらええねん」
「みんながみんな愛大みたいな人じゃないからね」
「ん?ん?どーゆーこと?」
「大阪人特有のガサツで大雑把ってとこだよ」
と海綺が言うと
「んだとぉ〜」
と海綺をベッドに引き摺り上げる愛大。
「ええか。大阪のことはバカにしてもええけどな?うちのことバカにするのは許さへんからな!」
と海綺をくすぐる。
「ふつー逆だろ!やめっ!タバコ臭い!」
「うらうらうらぁ〜」
と女子2人で盛り上がっていた。