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その日の夜、ブリテン政府からティナの提示した要望を伝えられた合衆国政府はホワイトハウスにて緊急会議を開いていた。今回も異星人対策室からジョン=ケラー室長と技術部主任エドワード教授も参加。 その席上で早くもハリソン大統領は頭を抱えていた。
「陸上兵器に関する全ての技術を無償で提供か……全く次から次へと。マイケル、ブリテンはなんと言っている?」
「はっ。駐英大使によるとブリテン政府はティナさんに対して最先端の軍事技術を持っているのは合衆国であり、そのご要望には合衆国が誠意ある対応をしてくれると返答したそうです」
「あの国は……全く」
「軍事技術を全て無償で開示せよと仰るのか!?流石にそれは到底受け入れられませんぞ!」
「アードだけならばいざ知らず、他国にも流出する危険性があります!国防の観点から言っても拒否するべきです!」
軍部を中心に反対を表明。これは当然の反応と言えた。だが。
「やれやれ、頭が固い。これだから戦争屋は」
「どっ、ドクター!」
肩を竦めて見せたのはエドワード教授である。慌ててジョンが諌めるが、会議に参加している軍人達は一様にエドワードを睨む。
「戦争屋とは随分な言い種ですな、技術屋!」
古来より軍人と技術者は仲が悪いと言われるが、強ち間違いではない。
「落ち着きたまえ。教授、場を乱すような発言は控えていただきたい」
「これは失礼を、大統領閣下。しかし見返りとして提示されている技術を考えれば、現在の軍事技術を提供することなど些末なことです」
「些末なこととは聞き捨てならんな!」
「将軍、良く考えてみたまえ。フィーレ君が最初に提示したパルスドライブシステム、つまり超光速航行技術は数百年先の技術なのだよ」
「教授、それは実現可能なのかね?」
「はい、大統領閣下。フィーレ君から触りとして簡単な設計図の提供を受けていますが、どうやら地球にある資源と現在の技術レベルで実現可能です。こちらの資源や技術を調べた上で改良したのでしょう。もちろん完成させるためにはそれなりの時間や資源を頂きますが、数年以内に我々の技術は飛躍的な発展を遂げるでしょう。様々な分野に応用可能な技術でもありますからな」
「つまり得難い技術と言うことか」
「資源の枯渇が見えてきた昨今、宇宙開発は急務であることに議論の余地はありません。残念ながら自力で開発しようにも、完成するより先に資源が底を突く方が早いでしょうな」
「ううむ、そう言われては断るのも惜しいですなぁ」
「これから必要になる膨大な時間や費用を短縮できるならば……」
エドワード教授の言葉に財務を司る官僚達が頷く。既に地球の地下資源は枯渇しつつあり、宇宙開発にしても技術面から見てコストも膨大である。
だが、これから必要なコストを大幅に下げられて宇宙開発が飛躍的に早まるならば断る理由もない。
「教授の話は理解できた。ここは我が国が率先して技術を提供することで最大限の利益を得ようじゃないか」
「ブリテンが“仲介手数料”を求めてくるかもしれませんな」
「彼らにも一枚噛ませるさ。色々とうるさい国を一部黙らせるのに役立つだろう。ケラー室長、貴方の意見を聞きたい」
「ティナの要望はちょっと厳しいことは理解しますが、応えてあげれば得られる利益は図り知れません」
「うむ。しかし、今さら我々の軍事技術を必要とする理由がわからないな。それも陸上兵器限定か」
「推測になりますが、アード人は空を飛べる。となれば主戦場は空となりますからな。陸上戦力に対する技術が発展しないのも無理はありません」
「そうですな、想定される主戦場が違うならばケラー室長の意見も頷ける。しかし、軍事技術の開示は……」
「将軍、駄目かね?」
「ううむ……アードのみが利用し、他の勢力に技術が流出しないとの確約。これだけは譲れません。見返りがあるにしても、我が国の国防に関わる問題ですから」
「ケラー室長、将軍の意見はどうかね?」
「提供した情報の管理をアリアに任せれば万事解決するでしょう。私からも一言添えます。大丈夫、ティナは約束を守る娘です」
「そこは私も疑っていないよ。よし、開示する方向で調整してくれ。可能ならばパルスドライブシステム以外の革新的な技術が得られれば尚良い」
「わかりました、頑張って交渉してみましょう」
海を隔てた大国で国を率いる大人達が、難しい顔をしながら真剣に議論を交わしている頃。ブリテンのロンドン市内に用意された最高級ホテルの最上階にあるスイートルーム。ロンドン市内の美しい夜景が一望できるこの部屋で。
「里長~、このブルーピーコック式核地雷って面白いんだよ!地球の最大火力の核兵器を地面に埋めて起爆させるんだって!再現してみたいから、オメガ弾一発使って良ーい?」
「いーよー☆」
「駄目に決まってるでしょ!ばっちゃんも簡単に許可しない!」
オメガ弾とはフロンティア彗星を破壊したアレである。
「フェル姉ぇ~フェル姉ぇ~。このグランドスラムって爆弾は地球最大記録なんだって!重さはなんと十トン!」
「へぇ~」
「取り敢えず負けたくないから、マナ結晶を十トンくらい作って!」
「分かりました」
「そんなもの作らないで!フェルも気軽に許さない!と言うか作れるの!?」
“マナ結晶”とは高濃度のマナを結晶化させたものであり、十トンもあればツァーリボンバを軽く越える規模の魔力爆発を引き起こす。
「んー、やっぱり四連装って格好いいなぁ。銀河一美少女ティリスちゃん号の主砲を全部四連装に換装したら、元々二連装だから単純に火力が二倍になるよ!」
『その場合集弾率の低下及び各砲門の故障率が悪化します。また稼働率も50%を下回る可能性もありますが』
「大丈夫大丈夫!壊れても門数の多さでカバーすれば良いから!」
『畏まりました』
「大丈夫じゃない!火力上がっても故障したら意味ないでしょ!アリアも気軽に了承しないで!」
四連装は色々と欠陥が多い。
「じゃあさ、ティナ姉ぇ。対空砲を改良しようよ。これ、ポンポン砲って言うんだけど」
「見るからに故障する奴じゃんか!」
英国の誇る対空砲である。マレー沖海戦での故障率は最早伝説である。
「はぁ、頭痛い……日本に連れていくのが怖くなってきた」
珍しくティナが頭を痛めていた。