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【鈴木side】
…ここはどこなんだろう。
自分はどこにいるんだろう。
『あははは!』
!!
誰かが笑ってる。
誰だろう。
ただ興味本位で、大きいとは言えないトンネルに足を踏み込ませる。
こんな所にトンネルがあるなんて。
しかも何度も見たことがあるもの。
さっきまで草むらの中にいたのにな。
『おーい!こっちだよ!!』
誰かが呼んでる。
『来ないのー?』
どこから聞こえてくるか分からないままトンネルを抜ける。
そこには…
『…!なんだ、凛子かよ』
ああ、なんだ、凛子か。
そして、さっきのトンネルは、あの秘密の崖の近くにあったものじゃんか。
なんで忘れてたんだろ。
こんなにも会いたかった人の声を、誰だと思ったのが恥ずかしい。
…ん?
まてよ?
なんで会いたかったんだっけ。
『チョモ?どうしたの?』
『なんでもないよ。考え事ー』
あれ、思ってないことが口から出る。
『ねぇ、みて、これ!面白いよ』
『…ス…マホ…?』
え、スマホ…?
見て?
何を?
ダメ。みてはいけない。
見ちゃダメだ。
でもなんで。
分からない。分からないけど。
『ほら!面白いよ?』
『…?ッハッ…ッあっふっ…うッ…!』
『ほら!なにしてんの?』
苦しい。なのに誰も助けてくれない。
なんで?
どうして?
『…もう…呆れた』
『あっ…ちがうッ…まっ…待って、!!』
行かないで。
『…鈴木ちゃん?』
えっ。
『大丈夫?』
気づくと、あたりは警備室。
ああ、フラッシュバック起こしてただけか。
『大丈夫です』
顔は引きつっているだろうに、それでも頑張って笑顔を向けた。
でも。
苦しい感じはしなかった。
ただ、軽く笑顔が貼り付けられるのは簡単になったって解釈すればいい話。
『チョモ!』
っ!
『鈴木ちゃん?』
また、この声。
どっち?
僕は
どっち?
『『どっち?』』
ふたりが声を重ねて僕に問う。
なに?どうして2人ともこっちを除くの?
どうして凛子はここにいるの?
『チョーモ』
『なぁ…』
…なぁに?
ダメだ。返事なんてしちゃ。
『鈴木ちゃん』
彼の方を振り向く。
と、自然と凛子は砂になる。
『…ッ』
居ない。居ない。居ない。居ない。
いない。
『『チョモ』』
だれ?
僕は…
¿¿¿¿¿¿
だれ…
「ッハァッ、ハァはァ、…ッハッ…はっ、」
汗だくの体と、乱れる呼吸。
汗とは別に頬を伝う何か。
「ふーっ…」
髪の毛を後ろにかきあげながら、額に滲んだ汗を共に拭う。
これで何度目か。
こんな最悪の目覚めをするのは。
もう何度もほぼ同じ夢を見ているはずなのに、夢では、まるで初めて体験したかのように、何度も何度も同じセリフと同じ風景で、僕をかき乱す。
僕は、近くにあったペットボトルの水の残りを全て飲み干す。
「…っはァ…」
小さいため息の中に、自分の全てが詰まってんじゃないかと言うほど、心の何かが放出された気がした。
「…気持ち悪い…」
夢のこともそうだが、何より汗だくになったこの体がだ。
今すぐにでもシャワーを浴びたいが、それより先にやることがある。
「砂鉄起こすか」
これは、自分の日常に追加された、自分の仕事。
小さい時から、砂鉄は早くに起きるのが苦手だ。
それは、僕もそうだったが、今はあの厄介な悪夢のせいで、寝ようにも寝られない。
しっかり寝付けたことなんてほぼない。
「砂鉄〜…」
砂鉄の部屋としている、元物置部屋の戸を開ける。
「…んー」
聞いているようで聞いていない彼の返事はうんざりする。
こっちは悪夢で大変だっつーの。と、言いたいところだが、このことは誰にも話してはいない。
もちろん、話すつもりは無い。
なぜって、人によって理由は違うが、砂鉄に関してはこれ以上迷惑をかけたくなかった。
今は明らかこっちが迷惑してるが。
「起きろー。朝なってるぞー」
ある程度声をかけ、揺さぶる。それでも起きない場合、ほぼ完全放置にする。起こすこと自体が面倒だし…。
「…今何時?」
目が覚めたのか覚めてないのか、砂鉄は寝起き声で僕に問う。
「…6時ぐらい…」
「…早えーよ。寝るわ」
まじかこいつ。僕はわざわざ起こしに行ってんだぞ。
益々面倒だ。
「…どっちが支えてんだか」
「俺」
「まじか」
僕の独り言が聞こえているということは、どうやら起きてはいるらしい。
うつ伏せになりながら、親指を自分に向けてカッコつける砂鉄を見ると、なんだか気が緩んで口角が自然と上がる。
ただ、こいつは今から二度寝をする宣言をしたばっかだけど。
「…じゃ、おやすみ」
そう言っても返事は返ってこなかったが、いつもの事なので淡々とドアを閉める。
そのままそそくさと風呂場へ向かう。
「…あーッ……ダルっ」
昨日の疲れが残っているのか、はたまた先程の夢のせいか、それとも両方か。
自然とこぼれた自分の口の悪さに少し驚いてしまう。
服を脱ぎ捨て、逃げ込むようにシャワーを浴びた。
「…」
シャワーを浴び終わり、いつもの黒パーカーを着て、頭をタオルで拭きながらリビングへ向かうと、一番面倒なのは、朝っぱらから始まる自分の部屋掃除。
それも、砂鉄が起きていることなどほぼないので毎日一人でだ。
面倒なことは分担した方が楽だと聞くが、正直自分はそう思ったことはなく、むしろ、一人でさっさと終わらせる方が楽だ。
だから、別に砂鉄が起きていたところで手伝わす気は一切ない。
じゃあ、何が面倒なのか。
僕は手術を受け約一年。普通に生きてはいるが、当たり前に後遺症はあるわけで。
あんな、治りどころのない、しかも、寿命付きの病気を治せるってだけで十分ファンタジーなのに、これで後遺症もなくハッピーに過ごせるんなら、それこそ本物のファンタジーだ。
その後遺症は、別に痛いことはないし、痒い訳でもない。
特別発作に発展することも無い。
…後遺症と言っていいのかというレベルでしょーもない後遺症だ。
それは…
「…んっ…ッ」
たった今僕は、床にある、ある程度の大きさがあるダンボールを持とうとしている。
が、それはそうと簡単には持ち上がらない。
そう、これが僕の“後遺症”。
別に特別重たくはないし、中に重いものも入ってない。
一般男性が簡単には持ち上げられる重さのはず。
だけど、腰中心に手術を受けたせいか、厄介な“後遺症”が腰に残り、こうして、自分の腰を大幅に使おうとすると、こんなふうに持ち上がらなくなるという訳だ。
「…はぁー、面倒だな」
結局床を引きずってゴミ分別のことろへ持っていくはめになる。
どうせ治っても、後遺症が残って生きずらいと感じるなら、そのまま金の無駄遣いをしとけば良かったと心底思う。
さて、掃除も終わったし、砂鉄は寝てるし、暇だから散歩行くか。
朝に行くのは慣れないし落ち着かない。まず差し込む光が嫌だ。
だけど人間は、暇してる時が一番弱るらしいから、なんて変な理由をつけて、無意識のうちに玄関のドアノブに手をかけている。
…嫌なんじゃないのか。
ただ、今日この日は、家には家に居たくなかった。
先程の夢のせいで、砂鉄が目の前にいること自体に悲しみを引き起こしてしまう気がして。
いや、それ以前に、手術を受けたあとから、ずっと見ていた悪夢に、クズが映るようになったのが理由かもしれない。
なんにせよ、泣きそうな自分を嫌でも光に当てたかった。
僕は、また帰ったら砂鉄に怒られるな、と思いつつ、静かにドアノブを捻った。