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ひより
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鷹槻れん@コノカレコミカライズ

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百はな🍑
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第70話 魔力ゼロのはずでした
同じ頃。
アイリス領の前線では、再びウィステリア軍が不気味な進軍を開始していた。
敵の数は、一向に減らない。
むしろ後方から、次々と新たな兵が送り込まれてくる。
王妃派の私兵。ウィステリア領の兵。そして、盾代わりに最前線へ連れてこられた農民兵たち。
その列の中に、何人かの不自然な兵が混ざっていた。顔を真っ青にした男たちが、胸元に赤黒く明滅する魔石を抱え込むようにして歩いている。
前線を指揮するアレクは、その魔石を視界に捉えた瞬間、叫んだ。
「――下がれ!」
ベルシュタイン家の騎士たちが、一斉に緊張を走らせる。
「公爵様?」
「あれは禁制の自爆魔石だ」
その言葉に、騎士たちの顔色が変わった。
自爆魔石。本来は鉱山の開発や岩盤破壊などに使われる、危険な魔道具だ。
人に持たせ、戦場で起動させることは禁じられている。
それを、王妃派は強制徴兵された兵に持たせていた。
兵は泣きそうな顔で首を振る。けれど、彼らの背後から王妃派の私兵が容赦なく怒鳴った。
「進め! 逃げたらその場で一族もろとも斬り殺す!」
追い詰められた兵は、震える腕で赤黒い魔石を振り上げた。
「全員、伏せろ」
「ですが、公爵様――!」
返事を待つ猶予などない。アレクは単身、前へ飛び出した。赤黒い闇魔法が、彼の手から防壁のように広がっていく。
次の瞬間。地面に叩きつけられた魔石が、激しく明滅した。
ドオォォォン!!
凄まじい轟音が、戦場を引き裂いた。爆風が土を巻き上げ、視界が白く弾ける。衝撃波で多くの騎士たちが吹き飛ばされた。
だが、幸いにも致命傷を負った者はいない。アレクの闇魔法が、爆発の莫大な力を正面から受け止めたからだ。だが。
「……公爵様!」
煙がうっすらと晴れた先。アレクは、そこに立っていた。
立ってはいた。けれど、彼の左肩の鎧は裂け、深い傷を負っていた。焦った騎士が駆け寄ろうとする。
「来るな」
アレクは短く制した。
「その傷は……!」
「まだ動ける」
アレクは剣を強く握り直した。剣先に、赤黒い魔力が揺らめく。けれどその光は、いつもより明らかに細く、弱まっていた。
それでも彼は、倒れなかった。倒れるわけにはいかなかったからだ。
***
神殿の診療所で、ルピは数少ない癒やしの存在だった。患者たちのベッドを回っては、そっと寄り添う。
包帯が緩んでいれば、「きゅーきゅー!」と鳴いて神官たちに知らせてくれる。
誰もが疲弊した診療所の中で、ルピの存在は小さく温かな灯りのようだった。
「ルピ……?」
私の呼びかけに、ルピは振り返らない。何かに引き寄せられるように歩いていく。
「ねえ、待って!」
辿り着いたのは、中庭の奥。青みを帯びた聖水が、こんこんと湧き出る噴水の前だった。
神殿の聖水は、わずかに治癒の魔力を含む。だから、普段から患者の治療にも使われている。
ルピはその水面へ、吸い寄せられるように近づいていった。
「ルピ? だめよ、そっちは……!」
私が駆け出した瞬間、濡れた噴水の縁で、ルピの前足が滑った。
「きゅっ……!」
小さな身体が、水面へ傾いていく。
「ルピ!」
考えるより先に、私は手を伸ばしていた。指先が、ルピの柔らかな毛並みに触れる。
――けれど、私の足も濡れた石床で滑った。
「あっ――!」
次の瞬間。
バシャーン!!
激しい水しぶきを上げ、私はルピを抱え込んだまま、噴水へ落ちた。冷たい水が、頭から全身を包み込む。
「っ……!」
鼻と口に水が入り、反射的にもがく。
「ぷはっ……! げほっ、げほっ……!」
咳き込みながら顔を上げ、私はルピを胸元へ抱き寄せた。
「ルピ……大丈夫……?」
ルピが、私の腕の中でかすかに鳴いた。
「きゅ……」
その時、異変に気づいた。水が、光っている。
青みを帯びていた聖水が、細かく泡立ちながら、淡い金色に輝き始めていた。
水中を走る、無数の細い光の筋。
その光が、水に浸かった私の腕へ、胸へ、指先へと、まるで吸い込まれるように流れ込んでいく。
「……なに、これ……?」
ありえない。だって、私は魔力ゼロのはずだ。
「バイオレッタ様!?」
足音と共に、大神官と神官たちが中庭へ駆け込んできた。私はルピを抱きしめたまま、黄金に輝く噴水の中で呆然と座り込んでいた。
大神官の目が、ありえない輝きを放つ聖水に釘づけになる。
「……聖水が……バイオレッタ様に反応している……?」
私は濡れた髪を頬に貼りつかせたまま、呆然と大神官を見上げた。
「どういうこと、なの……?」
大神官は、信じられないものを目撃したかのように私を見つめた。
聖水の光は、なおも私の身体へ流れ込み続けている。
「あれ……?」
急に、頭がぐらりと揺れた。身体の芯から、すべての力が抜けていく。
腕の中の小さな温もりだけは離すまいと、私は指先にぎゅっと力を込めた。
けれど、もう自分の身体がいうことを聞かない。
視界の端が、暗く滲む。私はルピを抱えたまま水面へ崩れ落ちた。――そして、意識は途切れた。
コメント
1件
うわっ……まさかの♡♡♡が金色に輝く展開! 魔力ゼロのはずのバイオレッタに何が起きてるんだろう……。噴水に落ちたはずが、逆に彼女の中で大きな変化が始まった感じがして、めっちゃ気になる〜。そしてルピ、小さくて健気で本当に可愛い存在だよね。アレクの負傷も気になるし、続きが早く読みたい!🥀