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俺たちはリビングでゲームをしながら、他愛もない雑談をしていた。
「蓮花、また負けてるぞ」
凪くんが淡々とした口調で画面を指差す。
「えー!?なんで!?さっきまでいい感じだったのに!」
蓮花さんが悔しそうにコントローラーを握りしめる。
「単純に俺のほうが強いだけ。」
凪くんは淡々とした口調でそう言いながら、画面をじっと見つめたまま指を軽く動かす。
凪くんの言葉に、蓮花さんはぷくっと頬を膨らませる。
「…次は絶対勝つ!」
「次はって何回言った?」
「うっ……それは……。でも次こそは勝つわ」
蓮花さんは負けを認めたくないのか、コントローラーをぎゅっと握りしめながら真剣な顔をしていた。
俺はそんなやり取りを眺めながら、帆乃さんの声が聞こえないなと思いそっと横を見る。
「……すぅ、すぅ……」
帆乃さんがソファに寄りかかり、静かに寝息を立てていた。
「疲れちゃったのかな」
「帆乃が人の家で寝るの珍しいな」
凪くんがチラリと帆乃さんを見て、驚いたように目を見開いた。
「そうね。私たちの前以外で寝てる姿見たことないもの」
蓮花さんも驚いている。
帆乃さんは性格的に、どこでも気を張っているタイプだと思う。学校でも人前ではあまり気を抜かないだろうし、ちょっとした昼寝ですら誰かの前ではしないだろう。
思わず帆乃さんの寝顔をじっと見る。
安らかな表情、微かに揺れる肩。
こうして彼女が無防備に眠っているのを見ると、胸の奥がじんわりと温かくなった。それと同時に、なんとなく守りたくなるような感覚が広がる。安心しきった寝顔を見ていると、彼女が自分の近くでこんなに気を許してくれていることが分かり嬉しい気持ちになった。
「もしかして湊も特別枠に入ったのかもね?」
蓮花さんがニヤリと口角を上げ、からかうように言う。しかし、その瞳はどこか探るようで、ただの冗談ではないように感じられた。
「確かにな」
「そんなことないと思うけど。もしそうだったらいいな…」
俺は、気持ちよさそうに寝ている帆乃さんの方を見てそっと微笑む。今まで誰かとこんなふうに過ごしたことがなかったからこそ、心の奥で少しずつ何かが変わっていくのを感じる。
「帆乃も寝ちゃったことだし、3人で恋バナでもしましょうよ」
蓮花さんが嬉しそうに言った。
「俺は構わないが」
「俺もです…」
いざ3人きりで話すとなると、どう話を切り出せばいいのか分からなくなってしまう。
ふと視線を感じて顔を上げると、蓮花さんと凪くんが俺を見ていた。蓮花さんはいたずらっぽく微笑みながら頬杖をつき、凪くんは無表情ながらも、じっと俺を見つめている。
「それで、湊は帆乃のことどう思ってるのよ?」
そう蓮花さんに問われて、俺はドキリとした。
「ど、どうって…」
頬が熱くなるのを感じた。
「帆乃のこと好きなんだよな?」
凪くんにそう言われて、胸の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚えた。
「うん…好きだと思う…」
言葉にした瞬間、心臓が跳ねるような感覚がした。
ずっと曖昧にしていた気持ちを、口に出したことで少しだけ実感する。
驚きと同時に、どこかホッとするような、不思議な感覚だった。
だけど、それと同時に、不安が込み上げてくる。
もし、帆乃さんが俺と同じ気持ちじゃなかったら?
そんな考えが頭をよぎり、無意識に拳を握りしめる。
それでも——
「やっぱりな」
凪くんがニヤリと笑いながら、軽く腕を組んだ。
蓮花さんもどこか安心したような表情を浮かべている。
「良かったわ。このまま曖昧じゃ、私たちもやりにくいもの」
「え?」
俺は戸惑いの声を漏らした。
「実はね、会った時からあなたの気持ちはなんとなく分かっていたのよ」
蓮花さんは軽く笑いながら言ったが、その目はどこか優しげだった。
「え?!」
「ああ。お前の顔見りゃすぐ分かったぞ」
凪くんも、ほんの少し口元が緩んでいる気がした。
「じ、じゃあ帆乃さんも…?」
俺が不安げに尋ねると、蓮花さんと凪くんが同時に首を横に振った。
「いや、帆乃は分からないだろうな」
俺はホッと胸を撫で下ろしたが、少し複雑な気持ちになった。
「あの子、恋愛に関してはすごく疎いから」
「そうなんだ…」
そういえば、2人でいる時は恋愛の話は話題にあがらなかったな…
それに、特別誰かを意識しているようにも見えなかった。
でも——
もしかしたら、俺が知らないだけで、帆乃さんには好きな人がいるのかもしれない。
そう思うと、胸の奥がザワついた。
「帆乃さんは、今好きな人いるとか言ってた…?」
つい興味本位で聞いたつもりだったけど、その裏には、自分でも気づかない焦りがあったのかもしれない。
「うーん。それは私たちの口からは言えないな〜」
蓮花さんは小さく肩をすくめ、意味ありげな笑みを浮かべた。まるで自分で確かめてみろと言わんばかりの表情だった。
「そっか…」
「なになに、気になる感じ?」
「ま、まあ…」
「そんな湊に、いい事教えてあげるわ」
蓮花さんのその仕草は、もったいぶって焦らしているようにも見えるし、単にこの状況を楽しんでいるだけのようにも思えた。
なんだろう。
すごく気になる。
俺は気づけば、無意識のうちに身を乗り出していた。
「ふふ。帆乃はね、初恋がまだなの」
「え、それって——」
「恋愛したことないってことだ」
凪くんは腕を組みながら言ったが、その目はどこか遠くを見ているようだった。
「だからね、恋愛が分からないって言ってたわ。」
蓮花さんは微笑みながら、ちらりと帆乃さんの寝顔を見つめた。
「ここからは、本人に直接聞いてちょうだい」
——目を覚ますと、見知らぬ天井。
ぼんやりとした視界が少しずつクリアになり、全身がじんわりと重い。まだ夢の中にいるような感覚で、意識がゆっくりと現実に戻っていく。
ここは…
ゆっくり体を起こすと、如月くんと凪と蓮花がこちらを見ていた。
「あ、起きた」
「おはよう。よく眠れた?」
蓮花が優しく微笑みながら、そっと私の髪を整えてくれる。
「うん…」
まだ、頭がボーっとする。
4人でゲームをやってた記憶はあるけど、それ以降の記憶がない。
いつの間に寝たんだろう。
ぼんやりとした頭の中で、必死に思い出そうとする。でも、気づいたらソファに横になっていた。
途中で眠ってしまったのだろう。
……やってしまった。
人の家で寝るなんて、私らしくない。
迷惑をかけたんじゃないか。呆れられてないだろうか。
そんな考えが次々と浮かび、心臓がざわざわと落ち着かない。
そんな私の気持ちを察したのか、如月くんが穏やかな声で言った。
「大丈夫。全然迷惑じゃないし、むしろ俺に心を開いてくれてるってことが分かって、ちょっと嬉しい」
彼の言葉は優しく、まるでそっと包み込むようだった。
「だから、そんなに気にしなくていいよ」
その言葉に、不安でざわついていた心が少しずつ静まっていくのを感じた。
「もうこんな時間だし私たちは帰りましょうか」
「そうだな」
「うん!」
帰る支度をしてると、蓮花がふと如月くんの方を見て口を開く。
「湊、私のことは呼び捨てでいいからね」
「俺も」
凪も静かに頷く。
「分かったよ」
驚いた。
私が眠っている間に、そんなに仲良くなっていたとは。
なんだか置いて行かれたような気がして、胸の奥が少しチクリと痛む。
でも、そんなことを口にするのはおかしい気がして、私は何も言わずに微笑んだ。