テラーノベル
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扉が開き、樹の靴音が白い部屋に響く。木製の椅子に樹は腰を下ろした。
「掟(おきて)を知っているな」
向かいに座る男が低く言い、樹が頷く。
「誰かを愛し愛されたとき、死神の務めは終わる」
「おまえは長い間よくやってくれた。現世を終えた者の最期に丁寧に寄り添って、来世に送り出してくれた。ご苦労だった」
テーブルの上に載った白い湯飲みに、男が視線を向けると樹は弱く首を振った。
「お茶は飲みません。現世の記憶を、彼女との記憶を消したくないので」
樹は男に頭を下げると、銀色の扉を通り長い階段を昇って行った。
「乃江、タクシー来たから行くわよ」
「はあい。今行きます」
乃江は一から音楽の勉強をする為に、桜子たちと一緒にアメリカに行くことにした。
コートのポケットから懐中時計を取り出して握り締めた。仰ぎ見た空が霞かすんで見えるのは、春の空の独特のことだろか。それとも乃江の目に涙が浮かんでいたからだろうか。
樹…。
それが彼の本当の名前であることを彼に出会った瞬間乃江は思い出していた。そして遠い昔に彼と出会い、愛し合った日々があったこと。真っ白い部屋で向き合ったとき、樹がグリム・リーパー(死神)であることを知り、乃江の一回目の人生を見送ってくれたこと、来世でも必ず会いに行くと約束し合ったこと。全部全部覚えていた。
乃江の肩に乗った桜の花びらが、春の風にひらりと舞い上がった。
コメント
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みぅ🤍🥀です。 第10話、読み終わりました……。 樹が「お茶は飲みません」って、彼女との記憶を自ら選び取るシーン、本当に胸が締め付けられました。死神としての務めを終える=愛を知る、って掟も切ないのに、それでも記憶を手放さない強さが美しすぎる……。 乃江が全てを思い出して、空を見上げるラスト、桜の花びらが舞う描写がすごく映像的に浮かんで、涙腺に来ました。また会える、って信じたくなるラストでした🌙