菜々子先輩や夏希、梨花ちゃんも楽しんでいるみたいだし、他のメンバーもみんなが笑顔でホッとする。
今日は朋也さんの歓迎会なのに、私達の方が楽しんでいる。
こんな素晴らしいバーベキューを主催しても、朋也さんは全然偉そうにしない。
自分がアートディレクターの立場になって、みんなとの距離を縮めようと頑張っているようにも見えた。
私に対しての強引さはまだまだあるけれど、年上には当たり前のように敬語も使えるし、周りへの気配りもできる。朋也さんは、すごく常識人なんだと思う。
会社を背負う重圧は計り知れないだろう。
私には全くわからないけれど、朋也さんはきっとたくさんの思いを持って生きてきたに違いない。
私のところで将来をゆっくり見つめ直したいと言ったことは本心なんだと思った。
「恭香ちゃん、食べてる? さっきからお手伝いばっかりしてるけど」
一弥先輩が、優しく声をかけてくれた。
「あ、はい、しっかりいただいてます。あんまり美味しいから食べ過ぎて、お腹いっぱいになってきました」
「うん、僕も。久しぶりにお腹いっぱい食べたよ。本宮君のバーベキューは予想を遥かに上回ったね。正直、ここまで豪華だとは思わなかった」
2人で笑った。
「最高でした。生まれて初めてこんな美味しいものを食べました」
「僕もだよ。本宮君と社長には感謝しないとね」
「はい。本当ですね」
私……
一弥先輩と話しても心から笑えている。
この人にフラれて泣いてたのは、ほんの数日前なのに。
「そういえばさっき社長と2人で話していたけど、何の話だったのかな? ずいぶん社長が優しい顔をしていたから……ちょっと気になって」
「……あ、えと……」
まさか朋也さんのことを話していたなんて言えない。
「……内緒の話?」
「あっ、いえ。そういうことじゃないです……あ、今のプロジェクトのことです。CM撮影のこととか」
「……そうなんだ。それなら恭香ちゃんに聞かなくても、本宮君に聞けばいいのにね」
「えっ、あ、ああ、そうですよね。た、たぶん、私がたまたま通り道に1人でいたから、話しかけやすかったんだと思います。コピーも良かったよって……」
私は、どんどん嘘を重ねてしまった。
「そうなんだね。だったら、社長にほめられて良かったね。あの人とはなかなか話せないし、ましてや直接褒めてくれるなんて、聞いたことないから。恭香ちゃんはすごいね」
「いえいえ、すごくなんてないです」
私はもう、苦笑いするしかなかった。
「ねえ、恭香ちゃん。あのね……」
「……? どうかしたんですか?」
「うん……。今度さ、良かったら映画を観に行かないかな?」
映画を観に行く?
どういう意味だろう。
私は一弥先輩に誘われているの?
まさか……ね。
「あ、あの……。あっ、みんなでってことですよね。いいですね、最近、忙しかったんで映画を観る時間がなくて。私、観たい映画があるんです」
「……い、いや。みんなで……じゃなくて、恭香ちゃんと2人だけで……。観たい映画があるなら、それを観ようよ」
「……」
その先の言葉が出てこなかった。
一弥先輩が私を誘う理由がわからない。
菜々子先輩が近くにいるのにどうして……