テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
奏.KaNaDe
28
仁名
524
「」せりふ ()こころ
桃 side .
すち の 部屋は 、 いつだって 甘くて 、 静かで 、 俺 を 無条件に 肯定してくれる 場所 だった 。
「ほら 、 らんらん 。ココア 淹れたよ 。 あったかいから 、 全部 飲んでね」
「 …… うん 。ありがと 、 すち」
差し出された マグカップを 両手で 受け取る 。
じんわりと 手のひらに 伝わる熱が 、 冷え切っていた 俺の心 を 少しずつ 溶かしていくよう だった 。
すち の 家の リビングの ソファ 。
隣に 座る すち は 、 俺の頭 を 愛おしげに 何度も 撫で 、 それから 俺の肩 を 抱き寄せて 自分の胸元 へと 引き込んだ 。
すち の 胸の鼓動が 、 規則正しく 耳に届く 。
その音を 聞いているだけで 、 学校で 味わった あの 息が詰まるような 恐怖や 、 先生の事故への 罪悪感が 、 遠い世界の 出来事のように 薄れていった 。
(ここにいれば 、 誰も 傷つかない 。 俺 も 、 すち も 、 誰も)
すち は 消えない 。
俺 の 呪いは 、 すち には 効かない 。
その 事実だけで 、 今の 俺 には 十分すぎるほどの 救いだった 。
「らんらん 。 もう 、 あの 学校には 行かなくていいからね」
すち が 俺の耳元 で 、 まるで おやすみの挨拶でも するかのように 、 優しく 、 けれど 拒絶を 許さないトーンで 言った 。
「え …… ? でも 、 俺 、 まだ 高校生だし …… 」
「いいんだよ 。 あんな 不吉なことが 続く場所に 、 らんらん を 置いておけない 。 らんらん が 怯えて 、 あんな 路地裏で 一人で 泣くような場所 、 俺 が 許さない」
すちの瞳 が 、 じっと 俺 を 見つめる 。
その 瞳の奥 には 、 濁りのない 純粋な 『愛』 だけが 満ちているように 見えた 。
俺 を 心配して 、 俺 を 傷つけまいとする 、 あまりにも 深い愛情 。
「学校の ものは 、 全部 俺 が 片付けて おくからね 。 らんらん は 何も 心配しなくていいよ 。 これからは 、 ずっと ここで 俺 と一緒に 暮らそう」
「俺 が 毎日 、 らんらん の 美味しい ご飯を 作るし 、 欲しいものは 何でも 買ってきてあげる」
「すち …… 」
すち の 言うことは 、 世間一般から 見たら きっとおかしい 。
高校を 辞めて 、 恋人の家に 引きこもるなんて 、 許されるはずがない 。
だけど 、 今の 俺 には 、 すち の その 過保護な 提案が 、 世界で 唯一の 『正しい逃げ道』 のように 思えてしまった 。
俺が 外の世界に 出なければ 、 もう 誰も 消されない 。
誰も 血を 流さない 。
学校という 社会から 消えることは 、 俺の 『呪い』 を 封じ込めるための 、 唯一の 方法 なのかもしれない 。
「うん …… 分かった 。 俺 、 もう 学校行かない」
俺 が 小さく 頷くと 、 すち は 歓喜に 満ちた顔で 、 俺の唇 に 何度も 何度も 優しい キスを 降らせた 。
「お利口だね 、 らんらん 。 大好きだよ 。 俺 には らんらん しか いないし 、 らんらん にも 俺 しか いないもんね」
すち は そう言って 、 俺 の カバンから 教科書や ノートを 引っ張り出し 、 容赦なく ゴミ袋へと 詰め込んでいく 。
昨日まで 俺 が 学校に通っていた証が 、 目の前で 次々と 『処分』 されていく光景を 、 俺 は ぼんやりと 見つめていた 。
スマホも 、 すち が 「壊れてたみたいだから」 と言って 、 どこかへ 片付けてしまった 。
外部と 連絡を 取る 手段は 、 これで 完全に 失われた 。
でも 、 怖くは なかった 。
だって 、 目の前には 俺 を 世界で一番愛してくれるすち がいる 。
すち が 俺のすべて に なってくれるなら 、 外の世界なんて 、 もう 何もいらない 。
「ねえ 、 らんらん 。 今日は 一緒に ベッドで 寝ようね 。 らんらん が 寂しくないように 、 俺 が ずっと 抱きしめてて あげるから」
すち が 俺の手 を 引き 、 寝室へと 歩き出す 。
俺 は すちの大きな手 を 強く 握り返した 。
外の世界との 繋がりが 、 一本ずつ 綺麗に 切り離されていく 。
自分 が 今 、 すち の 作った 『檻』 の中に 自ら 進んで 閉じこもろうと していることに 、 俺 は まだ 、 心地よい 安堵しか 感じていなかった 。
【し】
episode 6 . fin_
コメント
3件
あまぁい ショートケーキの苺より10倍は甘すぎてありがとうって感じ(?) 桃様は自分が学校にいなくなれば呪いは軽くなる(?)と思ってるけど、翠様は片付けようとしてる… その違いがなんか楽しかった(?) 文の書き方丁寧&うんめぇ これからも頑張れっ.ᐟ.ᐟ
ああ、もう、胸がぎゅっとなりました……。すちの「らんらんには俺しかいないもんね」って台詞、甘くて優しいのに、じわじわと閉じていく檻の鍵の音が聞こえるようでした。桃くん自身も「心地よい安堵」と自覚しながら、外との繋がりが一本ずつ断ち切られていく描写、本当に丁寧で美しいけれど苦しい。次が気になります。💭