テラーノベル
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庭の芝の上を、枯葉がカラカラ音を立てて飛ばされていく。
外の風が肌に刺さるようになってきた季節。
私と喬一さんが出会った日も、こんな冬の日だった。
逆プロポーズしてしまった形になったけど、後から喬一さんからプロポーズされたし、私が言わなくても、喬一さんも兄も父もお見合いさせようと計画していたわけで。
あんなに素敵な人を好きにならないわけはないので、どちらにせよ結婚していたんだと思う。
どうして喬一さんみたいに完璧な人に私なのかと、首を傾げたくなるけども。
私は隣にいることが幸せだと、きちんと伝えていこうと思う。それぐらいしか彼が喜ぶことが思いつかない。
「冷え込んできたから、散歩はやめとく?」
「そうですね。今日は窓から日光浴かな」
喬一さんは車を見送ったその足で、倉庫からクリスマスツリーの飾りを取り出している。
お客様がチビたちと沢山遊んでくれたので、ぐっすり眠ったようだ。
「左京さん、もう少しゆっくりしていけばいいのに」
紅茶を飲んだコップを下げようとして、さり気なく奪われる。
私には、あっちだとソファの横に並ぶベビーチェアーの方へ誘導された。
「新婚で、乳児がいる家に長居するほど常識がないやつじゃないんだ」
「それでも、せっかく来てくれたのに……」
お正月の一件で左京さんが謝罪したいと連絡があった。
以前、麗一さんに酔った父が迷惑をかけたことがあったので、左京さんの気持ちはよくわかった。なので、謝罪したいと言われたけど、お姉さんにだけで大丈夫ですと断って、それから喬一さんは少しずつ接触していたようだ。
左京さんは、分家筋というよりは家督も継がず、海外を飛び回る商社マンで、自分から柵である家を出たと言っていた。
喬一さん以外にも、分家だ、本家だとルールを押し付けるやり方に不満がある人たちは多いようだ。
今は左京さんがうまく不満があるご年配たちと、不満を持ってる喬一さんたちの間をもっているらしい。
喬一さんは親戚付き合いは面倒だと愚痴をこぼしているけど、私を巻き込むぐらいならばとせっせと連絡を返している。
最近は、色んな親戚の人を紹介してもらっているが、皆、家督とか本家のなにかに媚びへつらう人たちではない。普通に小さな頃から遊んでいる従兄弟として、接してくれている感じだ。
その分、ご年配たちの態度の方が難色があるのがわかる。
彼らも対応に疲れるとこぼしている。
でも左京さんは、そんな皆とご年配たち両方から好感を持たれて頼りにされているようだ。
「優しい人でしたね」
「ああ」
臭いものには蓋と言わんばかりの態度だった喬一さんは、同年代の親戚たちと少しずつ交流を再び始めたようだ。こっちの毒気を抜いてくれるような、穏やかな左京さんとはなんやかんや言って一番交流がある。
お互い、家を継がなかった共通点もあるからか、ぐんっと親密になったような気がする。
クールだと勘違いされている喬一さんに物怖じせずに話してくれる人は少ないから、私はもっと仲良くなってくれたらいいのにと願っている。
「しかも和菓子まで持って来てくれて、本当に嬉しいですね」
「そうだね。食べるならお茶入れようか?」
「一個だけ。でも、自分で淹れますよ」
「いいから、やっと落ち着けるんだから座って」
クリスマスツリーの装飾品を床に置くと、すぐにお茶を用意してくれる。
左京さんがくれた和菓子。本当に顔を見て、出産祝いと「授乳中は和菓子の方がいいって聞いたから」とお花の形の最中をもってきてくれた。
最中は好き。和菓子も大好き。
もちろん、喬一さんの料理も全部文句なしで好き。
肉じゃが、生姜焼き、筑前煮、ほうれん草のお浸し、もつ煮、スペアリブ、ビーフストロガノフ、クリームパスタ、たけのこご飯。
素朴で、出汁で味がついた和食が喬一さんは得意で、私もそれが好きだった。
でも今は、今は違う。
タルトタタン、ミルフィーユ、ティラミス、エクレア、クイニーアマン、アルカザール、シュークリーム、チーズケーキ、ソフトクリーム、プリン、チョコレート、ドーナツ、駅前のカフェで食べられるガトーショコラ、会社の近くで偶に売りに来る石焼き芋。ああ、甘いデザートが食べたい。
「甘いお菓子が沢山食べたい。バターが沢山入ったクッキーが食べたい」
「それは、俺不足だから甘いものが欲しいってことでいい?」
「うー。違うけど、違うくない。でも食べたい」
「我慢の方が体に悪いよ、ほら」
「ありがとうございます」
お茶を受け取って、包みから薄桃色の花形の最中を取り出して口に放り込む。
餡子が甘すぎず、上品で美味しい。
美味しいのに物足りなさを感じて、悲しくてお茶を飲む。
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