テラーノベル
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n217
スマホの画面はしばらく光ったままだった。
『選別、次の対象を決定中――』
その文字を見つめていると、胸の奥がゆっくり冷えていく。
これは警告じゃない。
脅しでもない。
ただの、事実の通知だった。
周囲を見渡す。
さっきまで叫び声が響いていた通りは、異様なほど静かだった。
沈んだ人たちの姿は、どこにもない。
血も、荷物も、靴さえ残っていない。
あるのは、地面がわずかに低くなった跡だけ。
最初から、存在しなかったみたいに。
「……消えたのか」
その瞬間、足元が小さく振動した。
ドン、という鈍い音。
地震とは違う。
街の奥深くで、何か巨大なものが動いたような感覚。
僕は反射的に、地面から距離を取った。
スマホが、再び震える。
『観測地点へ移動してください』
地図アプリが勝手に起動した。
目的地に表示されたのは、街の中心部。
今は封鎖されている、旧地下開発区画。
数年前、理由も説明されないまま工事が止まった場所だ。
誰かが、僕を誘導している。
それははっきり分かった。
でも、不思議と拒否する気にはならなかった。
むしろーー行かなければいけない気がした。
歩き出す。
さっきまで不安定だった地面が、嘘みたいに安定している。
沈まない。
揺れない。
まるで、通行を許可された道みたいだった。
地下入口に近づくにつれ、空気が変わっていく。
重い。
湿度じゃない。
音が、吸い込まれていく感じ。
遠くで、規則正しい機械音が聞こえた。
心臓の鼓動みたいな、一定のリズム。
シャッターの隙間から、下へ続く階段が見える。
奥で、白い光が脈打っていた。
――街は、自然に沈んでいるんじゃない。
はっきり、そう思った。
これは災害じゃない。
事故でもない。
誰かが、街を動かしている。
沈む人間と、沈まない人間を、意図的に分けている。
階段に足をかけた瞬間、スマホに最後の通知が届いた。
『観測者、対象と接触』
『第五段階へ移行』
画面の下に、小さく表示された一文。
「沈まない理由を、あなたに開示します」
そのとき、背後で地上の街が大きく軋んだ。
戻れない。
直感的に、そう分かった。
それでも足は止まらなかった。
僕は階段を下りていく。
街の底へ。
答えが待つ場所へ。
――選ばれたのは、偶然じゃない。
そう思った瞬間、地下の光が強く脈打った。
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