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橙×水
会議室には、分厚い資料と複雑なタイムスケジュールが並んでいた。
🍣「……というわけで、ここのMC明けは15秒で着替えて、Bステージに移動。その後、しょうとほとけは逆サイドのクレーンね。……ほとけ、大丈夫?」
💎「……えっ、あ、うん。……クレーン……ひだり……だよね?」
🍣「いや、今の説明だと右だよ。さっきの図解で説明したよね?」
ほとけの脳内は、すでに限界を迎えていた。数字、左右の指示、図面の立体把握、知的障がいの特性上、複数の情報を同時に処理しようとすると、頭の中が真っ白な砂嵐のようになってしまう。
いふが、苛立ちからではなく、純粋な確認として問いかける。
🤪「ほとけ、さっきからメモ取ってないけど大丈夫か? ここ、間違えたら演出機材にぶつかって危ないで?もう一回、自分の口で手順言ってみて」
💎「えっと……15……びょう……で……、……」
言葉が、出てこない。 喉の奥がヒュッと鳴り、酸素がうまく吸い込めなくなる。
隣に座るしょうが、心配そうに資料を覗き込んできた。
🐰「いむくん? 無理せんでええよ、ここ赤ペンで印つけとこか?」
その優しささえも、今のほとけには「自分ができないことへの証明」に感じられ、脳がパニックを加速させる。
視界がチカチカと明滅し、目の前の香盤表の文字が、まるで這い回る虫のように歪んで見え始めた。
💎「……っ、……あ、……ぁ、……!!」
突然、ほとけは自分の両耳を、ちぎれんばかりの力で強く塞いだ。
「音」という情報までもが脳を攻撃してくる感覚。
🍣「ほとけ!? どうしたん!?」
ないこが立ち上がりますが、ほとけにはその動きさえも、巨大な壁が迫ってくるような恐怖に映る。
彼は椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がると、会議室の隅へ後ずさり、激しく首を振り始めた。
💎「わかんない……っ、わかんないの……!! 15が、どこかに行っちゃうの……っ、右が……右がどっちか、……僕の頭、わかんなくなっちゃった……っ!!」
そのまま床に蹲り、ほとけは自分の頭を拳で何度も叩き始めた。
自傷的パニック。脳内の混乱を、物理的な痛みで静めようとする、障がい特性特有の苦しい防衛本能。
🦁「ほとけ! やめろ、自分叩くな!!」
ゆうすけが咄嗟に駆け寄り、背後からほとけの両腕をガッチリと抑え込んだ。
💎「……あぁぁぁ!! 放して、あにき……っ! 壊れてる、僕の頭、壊れてるの……っ!!」
🤪「……っ、おい、なんやねんこれ……」
いふは、持っていたペンを落とした。
ただのドジや、やる気の問題ではない。目の前で、魂を削りながら「理解できない世界」に怯えるほとけの姿に、全員が言葉を失った。
🦁「……みんな、一回黙れ!! 情報いれんな!!」
ゆうすけの怒鳴り声に近い制止で、会議室が静まり返る。
ゆうすけは、暴れるほとけを床に座らせ、そのまま強く抱きしめた。
🦁「大丈夫や……。数字も、右も左も、今は全部忘れてええ。……ほとけ、ゆっくり息しろ。俺の心臓の音だけ聞いとけ」
数分間、ほとけの激しい過呼吸と、床を蹴る音だけが響いた。
やがて、ほとけの体から少しずつ力が抜け、ぐったりとゆうすけに体重を預ける。
💎「……あ、……にき……。……ごめん、……なさい……」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げ、ほとけは震える声で、ずっと隠し続けてきた事実を絞り出した。
💎「……僕、……みんなみたいに、普通に考えられないの……。……知的障がい、……っていうのがあって……。頑張っても……頑張っても……、みんなの言ってる『15秒』が、どれくらい長いか、……わかんないの……っ」
会議室の空気は、凍りついたまま動かない。
ないこは資料を握りしめ、いふは目を逸らし、りうらは震える手でほとけを見つめています。
それは、いれいすが「完璧なアイドル集団」という虚像を捨て、剥き出しの「ひとりの人間」としてのほとけと向き合った、残酷で、でも最も大切な瞬間だった。