ついつい声が弾む。
本当に、前田さん始めスタッフのみんなにはよくしてもらってるから。
『楽しそうで良かったよ。不安でドキドキしてるかなって、ちょっと心配だったからね』
「もちろん不安だよ。でも、慧君やみんなが支えてくれてるから……安心できてる。だんだん楽しみになってきたよ」
『俺は、雫ちゃんを支えられてないよ。全然、力になれてない』
声が沈んでいくように聞こえた。
「そんなこと言わないでよ。いろいろ相談にのってもらったし、こうして電話で励ましてもらってすごく力になってるよ」
『雫ちゃんには店に行けば会える。それは嬉しいけど……』
慧君の言葉が数秒止まった。
「慧君、大丈夫?」
『この前、俺……好きな人がいるならフッてくれとか、また誘うからとか言ったけど、本当はフラれるの、すごく怖い。雫ちゃんを誘う勇気もない。こんな情けない自分が嫌になって……でも、どうしても今、雫ちゃんの声が聞きたかったんだ』
スマホを持つ手から慧君の感情が伝わる。
こんなにも私を想ってくれて……
でも、どう言葉にしたらいいのかわからなかった。
「……」
『とにかく、ご飯は行こうよ。イベントが終わったら』
きっと、精一杯の気持ちを言葉にしてくれたんだと思った。
それは素直に嬉しかった。
「うん。終わったら……お礼にご馳走させてね。私、頑張るね」
『待ってる。それまで俺も頑張るよ』
「慧君、本当にありがとう」
私は、そう言って電話を切った。
フーっと長い息を吐き、そして、唇を噛み締めた。
「掃除……しよっ」
私はシナモンロールを食べてしまってから、普段できない場所の片付けを始めた。
無心になって掃除した。
昼を回った頃、また電話が鳴った。
スマホの画面には「渡辺 希良」と出てる。
慧君に引き続いて、希良君からの電話。
「はい。希良君?」
『雫さん元気?』
爽やかな明るい声が、私の心を少し落ち着かせてくれた。
「元気だよ。希良君は?」
『うん、なんとかね。大学も2年だし、ちゃんと勉強も頑張らないとって思ってる。雫さんもイベントもうすぐだよね、頑張って』
相変わらず敬語無しで……でも、それが希良君の良いところ。
「ありがとう、頑張るね。希良君も2年生で大変だね」
『この前さ……大学であの人に会った』
「あの人?」
『うん、『杏』でバイトしてる……直江さん。たまたまバッタリ』
「そうなんだ。果穂ちゃんと同じ大学だもんね」
東英大、本当に2人とも頭がいいんだな。
『あの人って、どういう人?』
「どういうって……?」
『僕は人のことを悪く言うのはあんまり好きじゃないけど、あの人は自分の思いが前のめりで、他の人の気持ちとか……わからないのかなって』
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