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川。
空。
電柱。
それを上から眺める。
私。
クーラーの風。
コードレスイヤホン。
ガラガラの電車内。
綺麗なようで、綺麗じゃない。
そんなところが、好きなのだ。
東京の片隅。
そんな目立たない場所に住む、私。
個性もなく、平凡で、平和ボケした、ただ、流されるまま生きている。
私は、脇役にすらならないほど、個性がないのだ。
物語のキャラはキラキラしているから、良いのでもない。
たとえ、辛い過去があるような、一見無個性な3軍も、物語には、主人公にしやすい。
だけど、私は、キラキラしたヒロインでもなく、暗いいじめられっ子でもない。
細かく言うと、
「クラスで、目立っているわけでも、嫌われているわけでもない、普通に友達だっている、2軍女子」
というところ。
そんな私だから、将来の夢だってないのだ。
ほんとは、夢に向かって努力してみたい。
羨ましい。
夢を見つけたい。
何度思ったか。
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他にもいろいろ。
全部夢を見たことがある。
でも本気じゃない。
なれないから。
才能がないのだもの。
恥ずかしいのだもの。
いつも周りの目が気になり、自分の意見が自分でもわからない。
だから、夢もないのかな。
それに、ちっちゃい夢なら、あるのだもの。
あのアイシャドウが欲しい。
田舎に旅行に行きたい。
花火が見たい。
金魚掬いをやってみたい。
そんなちっちゃい夢しか無い。
努力せずともほとんど叶う。
ほとんどは、夏休み中に叶うだろうし。
まぁ、まだ、1年高校生だし、大学も4年あるし。
夢、見つかるかな。
…見つかんなくても良いか。
どうせ、つまらない人生なんだし。
〜♪♪♪〜
昔からずっと好きな曲。
サビ、1番好きなんだよね。
ラスサビが特に。
「お出口は、右側です。」
〜シュウウ…ガタン〜
ラスサビの前に、目的の駅に着いて、音楽はわざとかのように遮られた。
右側の出口。
私は反対側のドアの前に立っていた。
右側にいとけばよかったな。
〜プシュー…〜
イヤホンをつけたまま、いつも通り、操られているかのように、決まった道を歩いて行く。
夏は、暑くなければ大好き。
都会の夏は、ただでさえ人混みが苦手なのに、暑さで、余計嫌い。
人混みを潜り抜け、日陰で少し暑さもマシになる。
次の難関は、坂道なのだ。
目的地は、坂道を登らないと行けない。
今日は今までで1番暑い。
雲ひとつない晴天。
気温は昼になると35℃まで上がるらしい。
体力はまぁまぁあるものの、私には向いていない。
そこまでして行きたいところでもないのに、来てしまう。
登り終えた先に、見えたのは、ウッド系の、落ち着いた、どこか心地のよい雰囲気を纏ったカフェ。
〜カラン…〜
静かになる音。
やっぱり店内は涼しいな。
外からの風に揺れる、深緑の観葉植物。
それもまた、この落ち着いた空間をつくる要素のひとつだった。
そして、「いらっしゃいませ」と、不思議な感じの、ふわふわとした声の、女性の店長が言う。
年は、5、6程上だろうと思っている。
綺麗な人、可愛いと言う言葉ではなく、美しいと言う言葉が似合う。
ぱっちり二重で、お顔が小さい、鼻も口も整ってて、上品な黒髪ロングで、おまけにスタイルだって。
初めて会ったとき、不覚にも「羨ましい」と嫉妬したほど。
私は、いつも通りカウンター席に着いた。
そして、アイスコーヒーを頼み、やっぱり好きな、このカフェを見渡した。
ピアノの綺麗な演奏が流れていた。
小さなカフェで、人も少ない、でもふと入ったとき、このカフェが今までで1番落ち着くと思った。
窓から少し光が漏れてて、綺麗だ。
「お待たせしました」
観葉植物と、コーヒーの香りが混ざる。
「ありがとうございます」
コーヒーを飲もうとしたとき、スマホが光った。
壁紙の黒猫が、こちらを覗く。
少し、目を逸らしたくなった。
友達からのLINEだった。
妙に現実に戻された感じがした。
「明日、部活終わってから夏祭り行こうよ」
少し考えて、そのまま閉じた。
甘いコーヒーで、ほんの一口分だけ、ほのと幸せを感じた。