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睡蓮
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#異能力バトル
名無の男2
382
水瀬葵
312
半透明だった魔法の障壁が消える。
ドラゴンが次の火球を撃つために息を吸い込む。
「『連鎖招雷』!」
女剣士の持つ剣の先から迅雷が飛び出し、ドラゴンに直撃する。巨大な体躯を光が駆け巡るが、ほとんど効果はない。
「黒の一桁では足りないか……、なら!」
彼女の持っていたロングソードに赤、青、黄の順で光が宿り、輪郭を濃くしていく。
「伝説級の火竜……、貴方の力試させてもらうわよ! 転生の勇者様、離れてて!」
転生の、勇者様……?という疑問はあったものの、状況的に身体が先に動いた。
直後、女剣士を中心に迸る異物感が一帯を飲み込む。重力が歪んでいるような、星の引力が暴走しているような、不思議な感覚。
彼女の全身から三色のエネルギーが溢れ出して、剣に収束していく。
「黒の一、黒の二、黒の三、並列敢行。 魔力限定解除! 極初期型合体魔法、『三属性解放剣』!!」
全長が身長ほどまで伸びた巨大な光剣が、腕力任せに勢いよく振り下ろされる。
何が起きたのか、すぐには理解ができなかった。
剣に集約していたエネルギーの塊が斬撃の形を維持したまま射出されたなんて、初見で誰が理解出来るものか。
それは地面を削りながらドラゴンに向けて直進していき、そして、今にも火炎を吐かんとする上顎に直撃した。
爆音と共に汽笛のような叫び声があがったのを聞くに、あの斬撃がドラゴンにクリティカルダメージを与えたのだと分かる。
「逃げるわよっ、こっち!」
「どわっ!?」
圧倒的な出来事を前に呆然としていると、いきなり手を掴まれて森へ逃げ込んだ。
指は細いが、剣を振るう人間の硬くハリのある手のひらに引っ張られ、抜き身の剣を片手に持ったまま森の木々を抜けていく。
どこに向かっているのかも伝えられぬまま走り続け、ドラゴンの追跡を振り切ろうと息を切らした。
―――――――――――――――――――――
「ここまで来れば……、大丈夫でしょう……」
「はぁ、はぁっ……! キッツ…………」
女剣士に手を引かれて辿り着いたのは、平原って感じの開けた場所だった。
近くには馬車の轍の乗った道もあり、その先には風車らしきものも見える。まだしばらく歩く必要はありそうだが、やっと人里に降りてこれたのでホッとした。
汗を流し、悲鳴をあげる身体を引きずって、やっとこさ道と思える道に立つことができたことに小さく喜んでいると、
「……勇者様。 これから、貴方をヴィクトーリア王国にお連れいたします。 貴方の授かった女神の恩恵の力を、国と民のために……!」
「えっと……、ごめん。 オレなんも分かってないんだけど、君は?」
「私はヴィクトーリアの剣士、アーシアです。 森の奥に流れ星が落下しているのを発見し、お迎えに向かわさせていただきました。 力を授かった勇者様の前では、例え伝説級のドラゴンでも負けることはないと分かってはいましたが、万が一の為に……」
「いやいや、アーシアが来てくれなかったらオレは今頃、ドラゴンの胃袋の中か消し炭になってたって。 本当に助かった、ありがとうな。 ……で、さっきから話してる力って、何の話だ……?」
「勇者様は、別の世界から転生していらっしゃったはずです。 森に落下する前に、空の上で寵愛の女神様とお会いしませんでしたか? これまでお会いした勇者様は皆、ここへ来た経緯にそう仰られているので、貴方も同じかと……」
話の流れ的に、彼女からはオレの落下が流れ星みたいに見えてたようだ。空よりも高いところから落ちてきたのだと思っているらしい。
真実は空にぽっかりあいた大穴から放り出されただけだったんだがな……。
ってなると、恐らく寵愛の女神ってのはマリアのことだ。仮面の権能で異世界への『窓』を開き、送り込む『少数派』のテロリスト。
そう言えばあいつも、『選ばれし者』がどうとか言っていた。まるで、オレと理紗以外にも異世界へ送り込まれた被害者がいるみたいな言い草で。
つまりそれが本当なら、アーシアの言う通り現実から来た『勇者』ってのはオレ達以外にも複数いて、しかもあの青い空間でオレが断った、何でも望んだ力を貰える導きの儀ってのを通ってきてるはずだ。
ならば「女神の恩恵」と呼ばれているのはきっと、マリアから受け取った力のことを指しているものと推測できる。
「……なんか期待してくれてるみたいだけど、オレはアーシアの言う力を持ってないんだ」
「いえ、そんなことはないはずです。 ヴィクトーリア王国には、こんな言い伝えがあります。 天上より星降る勇者に、一切の魔を除ける女神の加護あらん、と。 私が見てきた勇者はみな、言い伝え通り女神様から力を授かっていらっしゃいました。 ですから、そのようなご冗談は……」
「いいや、それがガチなんだって」
「ガチ……?」
「あー、えーと、本当にって意味。 オレも言われたんだよ、女神から直々に望んだ力をやるってさ。 でも断っちまった。 だから、その……、勇者なんて呼ばれるような存在じゃあないんだよ、オレは」
「め、女神様の加護を断ったのですかぁ!?」
あまりの驚愕っぷりに、鼓膜が張り裂けかける。
「嘘ですよね!? 冗談ですよねー!?」と両肩を掴まれ問い詰められるが、真実だと答え続けると、アーシアはその場にガックシと崩れ落ちてしまった。
「そんなぁ……、最後の希望だと思ったのに……」
「……なんか、期待外れだったみたいですまねえな。 もしかして、魔王とかいうのを倒す人材を探してたとか?」
「はい……。 でもそれだけじゃないんです。ヴィクトーリアの若き王、エドガー……。 私の兄、エドの暴挙を止められる方を探していたんです」
「王様が兄? ってことはお前……、王の妹!? 貴族、いや王族じゃねえかよ!」
そう言われてみればアーシアは剣士にしては美しい、手入れされて品位のある艶やかな赤髪をしている。軽装から覗く脚もしっかりした肉質で美しく、無垢に澄んだ青色の目は映ったものをすっぽり飲み込んでしまいそうな爽快さに溢れ、仄暗さなどを感じる余地はまるでない。
鎧と剣さえなければ紛うことなき絶世の美少女だ。しかも、王族の血を引く高位の。
「……ですから、このような開けた土地で無防備に立ち話しているのは少々……。 勇者様もお疲れでしょうし、今晩は近くの村で休息いたしましょう」
そう語るアーシアの後を追い、大きな風車が回る地平線の村に向かって歩き始めた。
コメント
1件
わあっ、第114話、一気に読んじゃいました…!🖤 ドラゴン戦の緊迫感がすごくて、特にアーシアの「三属性解放剣」、めっちゃカッコよかったです。あの一撃でクリティカル入れたのに、主人公が「力を持ってない」って告白する場面でアーシアが「えぇっ!?」って崩れ落ちるところ、思わず笑っちゃいました。笑 王族の剣士でありながら、兄である王の暴挙を止められる人を探してるっていう設定も気になります…。力を持たない主人公がどう立ち向かうのか、次がすごく楽しみです🥀