テラーノベル
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『…』
待て待て私まだわかんないじゃん。
毎日のように送り迎えしてくる人達と同じタトゥーをこめかみに入れてるからといって、この人も私に話しかけるかなんて。
エントランスの出口付近のソファーに座り、時計をちらりと見ては、パソコンを弄くる男性。
何も知らないフリをして、なるべく端っこを歩いた。産まれたての子鹿のように。
通り過ぎて、勝利のガッツポーズを小さくして安心していると不意に肩を叩かれた。
「終わったなら言えよ。俺も時間ねぇんだ。」
『…人違いでは…?』
「ねぇな。」
『どのようなご用事で…』
「…夕食、食ったか?」
…??
『まだ、ですけど…』
「ん。なら良い。じゃあ行くぞ」
拉致…?とうとうギロチンにかけられるの私?もしかして一昨日と昨日の人達は見張り的な役割だったってこと…?
ぼーっと遠くを見つめるように突っ立ていると、男の人はせかすように「はやくこい」と言った。
ブラック企業(上司の命令は絶対!)で働いている私は反社的に返事をしてすぐに追いかけてしまった。
『あの、』
「…一だ。そう呼んでくれて良い。」
『はじめ、?さん、こちらのいかにも高級そうな料理は一体ナンデショウカ?』
何故が五つ星以上とか星沢山付きそうなお店に連れてこさせられた。受付の人とかめっちゃヤクザだったからビビりまくってます。
「何って、晩飯。」
『…』
なるほど、なるほど。なるほど。沢山食わせてから殺すスタイル。ヘンゼルとグレーテル状態に陥っているのか私は。
「中華は嫌いだったか?」
『…食べます食べたいです』
小籠包
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意外にも弾んだ会話をしながら食事を終え、お会計の為にお財布を出したら、はじめさんに取られて、戻ってきた時には見知らぬ100万入ってました。
『え?』
「チップ的なやつだな」
『あ、いや、払います』
「もう払った」
『返します』
「受け取っとけ。今日は久しぶりに笑えたからな」
借りをつくらせる気か…?あとから借金取りが家に来たらたまったもんじゃない。
「店の外に車出してるから。早く行くぞ」
腕を掴まれ、車にそのまま誘導された。なるほど、殺されるのか。目を瞑り、今までの思い出に浸かった。
「九井、〇〇貸して」
「なんで灰谷なんだよ…」
『…』本格的に死を覚悟。
血だらけになった蘭さんがニコニコとこちらを後部席から見ているではないですか。
「鶴蝶がさー、仕事立て込んでて忙しいつーから。蘭ちゃんが来た」
ため息を出し、運転席に座る一さん。私は蘭さんに引きずり込まれて後部席に座らせられた。
「〇〇ちゃん、明日暇ー?」
『バリバリ忙しいです。』
「会社辛い?」
『辛くないとは言えませんね。』
「辞めたい?」
『辞めたいっていうか辞められないので…』
「そっかぁ。辞めたいんだ」
嬉しそうに話す蘭さんを見て少し嫌気がさした。なんでこんなにも笑っているのだろう。
『何か良いことあったんですか?』
私が問いかけると蘭さんは笑みを崩さず、言った。
「ちょっとね」
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