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M.S
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#オリジナル
芽花林檎
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コメント
4件

私もコメントしてくださってすごく嬉しかったので! お返し?みたいなものです🤭 ほんとですか!?よかったです〜!湊の性格がわかる一文ですよねー! 2人の性格がちょっとしたところでもわかるように工夫して書いてました! わ!ありがとうございます!ーほんとに嬉しいです!
第1話、読ませていただきました。春の街の描写と、湊くんが写真を撮る場面がとても丁寧で、心にすっと入ってきました。景色だけを撮ってきた彼が、紬さんを「写真に撮りたい」と思った瞬間、すごくときめきました。静かな出会いなのに、これから始まる物語の予感に胸が熱くなります。続きが楽しみです🌷
第一部 春
春は、何かが始まる季節だ。
あの日の僕は、一枚の写真が
人生を変えるなんて思ってもいなかった。
第一話 桜の下で君は笑ったー前編ー
四月。
春は、街を少しだけ優しくする。
昨日まで裸だった並木道は淡い桜色に染まり、
朝の風はまだ少し冷たいのに、
どこかやわらかかった。
神崎湊は、制服のポケットに手を入れながら、
ゆるやかな坂道を歩いていた。
高校二年生。
新しい学年が始まる日。
坂の上には、
これから一年を過ごす校舎が見えている。
校門へ向かう生徒たちは、
あちこちで笑い声を上げていた。
「また同じクラスだ!」
「春休み何してた?」
「先生誰かな?」
そんな声が風に乗って聞こえてくる。
湊は少しだけ歩く速度を落とした。
人混みは嫌いではない。
けれど、少しだけ苦手だった。
賑やかな場所にいると、
自分だけが取り残されているような気持ちになる。
だからいつも、一歩後ろを歩く。
それが昔からの癖だった。
ふと、一枚の桜の花びらが肩に落ちた。
湊は足を止める。
空を見上げると、
風に揺れた枝から花びらが静かに舞っていた。
ポケットからスマートフォンを取り出す。
カメラを開く。
ファインダー越しに見た景色は、
目で見るよりも少しだけ静かだった。
息を整える。
指先でシャッターを押す。
カシャッ。
画面に映った桜は、
ほんの一瞬だけ風を閉じ込めたように見えた。
「今年も始まるな……」
誰に聞かせるでもない独り言。
写真を撮ると、不思議と心が落ち着く。
嬉しい日も。
悲しい日も。
言葉にできない気持ちも。
全部、写真なら残せる気がしていた。
その理由を、
湊自身もうまく説明することはできなかった。
ただ、小学生の頃に
父から借りた古いカメラがきっかけで、
景色を撮ることが好きになった。
人は苦手でも、景色は何も求めてこない。
夕焼けも、雨上がりの空も、風に揺れる木々も。
そこにあるだけで美しかった。
だから湊は、人ではなく景色を撮り続けていた。
*
昇降口には、
新しいクラス表を囲む人だかりができていた。
「あった!」
「やった、また一緒!」
歓声が上がるたび、人の波が動く。
湊は少し離れたところから、自分の名前を探した。
二年三組。
その横に、小さく「神崎湊」と書かれている。
教室は三階。
階段を上るたびに、少しだけ胸が高鳴った。
新しい一年。
何かが変わるだろうか。
そんな期待は、もう何年も前に捨てていた。
教室の扉を開ける。
窓から春風が吹き込み、
白いカーテンがゆっくり揺れていた。
教室の中はまだ半分ほどしか席が埋まっていない。
黒板には担任の名前。
新しい時間割。
少しだけチョークの匂い。
窓際の一番後ろ。
そこが湊の席だった。
「いい席じゃん。」
思わず小さく笑う。
窓からは桜がよく見える。
鞄を机に置き、外を眺めていると、
また一枚、花びらが風に乗って舞い上がった。
その瞬間だった。
教室の扉が勢いよく開く。
「おはようございます!」
明るい声が教室いっぱいに響いた。
何人もの生徒が一斉に振り返る。
湊もつられて顔を上げた。
一人の女子生徒が、
少し息を切らしながら立っていた。
肩まで伸びた黒髪。
春風に揺れる前髪。
制服の上から羽織った
薄いベージュのカーディガン。
「間に合ったぁ……。」
そう言って笑う彼女につられて、
教室の空気まで少し明るくなった気がした。
「紬、おはよう!」
「ギリギリじゃん!」
友達らしい女子生徒が駆け寄る。
「寝坊しちゃった。」
彼女は照れくさそうに笑いながら頭をかいた。
その笑顔は、不思議だった。
大きく笑っているわけでもない。
特別目立つわけでもない。
それなのに、見ているだけで心が温かくなる。
湊は無意識のうちに、その横顔を見つめていた。
――写真に撮ったら、きっときれいだろうな。
そんなことを思った自分に驚く。
今まで人物を撮りたいと思ったことなんて、
一度もなかったから。
そのとき、彼女がふとこちらを向いた。
目が合う。
ほんの一秒。
彼女は小さく微笑んで、軽く会釈をした。
湊は慌てて視線をそらす。
心臓が少しだけ速く打っていた。
その理由は、自分でも分からなかった。
やがて始業のチャイムが鳴る。
担任が教室へ入ってきて、新しい一年が始まった。
湊はまだ知らない。
この春が、
自分の人生を大きく変える季節になることを。
そして、
教室の斜め前の席に座るあの少女の笑顔を、
何年経っても忘れられなくなることを――。